イラク正式政府発足 ブッシュの「対テロ戦争」検証のときを迎えて/ [JCJ] ふらっしゅ から

2006-05-21 08:13:57 | イラク
20日、イラク連邦議会は新首相に指名されたマリキ氏提出の閣僚名簿を承認した。03年4月の旧フセイン政権崩壊以降、初の正式政府発足となったが、内相、国防相、国家治安相の治安担当相人事は決着がつかなかった。新政府は懸案を抱えたまま見切り発車する(→毎日新聞)。

 マリキ首相は承認後の演説で、「我々は国民対話を進め、暴力の根絶と反テロにま
い進する」(同)と決意を表明したという。米国の当初の大義名分は大量破壊兵器の
所有であり、国際テロ組織との関係だった。そのいずれも後に否定されたが、ブッシュ
政権は「対テロ戦争」の旗を降ろしていない。

 テロはなぜ起こるのか。貧困、差別、人権侵害、民族間の抗争、それらの大国によ
る増幅―。その推敲や想像、調査・検討を欠いていれば、米国のブッシュ政権のよう
に「力」による圧殺だけの道を突き進んでしまう。問題解決の手段だったものが、さ
らに同じ問題を増幅し、さらに圧殺の力にのめりこんでいく。

 世界の世論は、米国のやり方は、テロを撲滅するどころか増大させていると判断し
ている。ブッシュは「時間がかかる」「長い闘いになる」ようなことをいって反駁し
たが、ブッシュのやり方では永遠にテロを拡大しかねない。テロ集団と縁を切れとい
っては地域社会を「掃討作戦」でめちゃめちゃに破壊する。

 米軍のやり方に腹を据えかねた民衆は自警団を組織して武器を手に立ち上がり、抵
抗を強める。それを米軍は「テロ」と呼んでさらに死体を積み上げる。女性も子ども
も無差別に日々大量に死体を積み上げていく。イラク人々の死者の数とは比較できな
いものの、米国にとっては悪夢としか言いようのない数の米兵の遺体も積み上げられ
ていく。

 こうしたやり方、そうした「強国」と呼ばれる国やその指導者の精神的な弱さや浅
薄さは、ついにはまるで追い詰められた犯罪者が何とか取り繕うおうとしていきつく
残虐非道な犯行と同様の結果をもたらすことにつながっていく。

 少数の殺人は凶悪犯と呼ばれ恐怖され、大量殺人は戦争と称され、後者において勝
利者は犯罪者ではなく英雄として称賛される。人間社会が長くとらわれてきたこの矛
盾、非道さ、誤った観念、価値観、そして本性を、世界大戦の時代でもあった20世
紀は乗り越えようと努力してきたはずだった。

 その縮図が日本社会にも蔓延している。人が大量に殺戮される気配、殺戮し合う気
配、脅したり、脅されることに対抗する気配―。人類が長く自らに内包させ、爆発さ
せてきた生命の一側面かもしれないが、それを売り物にして人間を整列させようとす
る政治は、人を協働から恐怖と競争へと駆り立てた。

 一人ひとりの人生の滝のぼりではなく、人を蹴落として自分だけが生き残ろうとす
る風潮を生み出し、人を差別し差別し選別し疑心暗鬼に陥れ、ついには相互監視と密
告を奨励するような法律までつくろうとしている。共謀罪―。

 この21世紀を再び戦争の世紀とするのか、それとも平和の世紀とするのか。私た
ちは重大な決断を迫られている。それはそれぞれの日々の生活、人生を問い直す作業
とも決して無縁ではない。

■ジョージ・ウォーカー・ブッシュ蹉跌の理由

 重工業・軍需産業の衰退に直面して「対テロ戦争」の可能性を探索していた米国は、
ハイテクバブルの崩壊の憂き目もあって、9・11をきっかけに軍事力の展開による
起死回生策に突進したのだ。人類が20世紀に味わった辛酸から得たはずの教訓はみ
ごとに放擲された。コンピュータネットワークの分野で世界を先駆け、経済・産業諸
分野やにおけるデファクト・スタンダード(実質的標準)を次々に手にし、グローバ
ルスタンダードとは、米国のことだと王者の気分を味わっていた矢先の蹉跌だった。
そして、そこへの9・11だったのだ。

 ジョージ・ウォーカー・ブッシュは運が悪かったのだろうか。だから米市民にとっ
て最悪の部類に属する大統領として記録されようとしているのだろうか。いや、まっ
たく運の問題ではないだろう。同じ局面に直面しても、また同じ政策面での基盤を継
承しても、選択肢は一つとは限られていないし、足りなければ増やすこともできるか
らだ。

 しかし、手元にあったカードがなぜかイラク侵攻に向けて揃ってしまったことは事
実であろう。経済のグローバル化で米国は軍事だけでなく世界のリーダーとして振舞
う土壌が整いつつあった。悪政に苦しむ市民の人道的救出を名目にすれば、世界の世
論は先進国の武力侵攻を容認するという目算が立ち始めていた。

 対テロ監視ネットワーク構築のための国際連携が進んでいた。インターネットに強
い対抗馬ゴア氏の政策に対してブッシュ陣営は犯罪取締りセキュリティ網の構築の図
面を描こうとしていた。米軍需産業は「市場」の縮小のなかでハイテク兵器を高度化
させその品評会のときが訪れるのを喉から手を出して待っていた。

 世界の生産基地として、また市場として中国経済が急速に台頭し、またエネルギー
問題でも将来に世界の勢力図を塗り変えるほどの需要増を内包しようとしており、ロ
シアや中東との関係において米国を凌駕するパワーをもつ可能性が予見されていた。

 米国にとっては、アフガン、そしてイラクへと侵攻する計画は、9・11がたとえ
起こらなくても、いつかは重要なオプションの一つとして大統領のテーブルにのぼる
可能性が高いものだったといえる。大統領が昨年、イラク侵攻の間違いを認めた当時、
9・11より前にイラク侵攻の計画があったなどの報道が多様になされている。

「機知」に走るネオコンの弱点は、理念が脆弱で、かつ戦略を戦術と混同する視野の
狭さにあるように思う。冷戦終結後、米国はハイテクバブルにうかれ、経済社会の再
構築に失敗した。ネオコンの台頭はそのツケとして生じ、9・11を引き寄せ、アフ
ガン侵攻、イラク侵攻と戦争の道を突き進ませることになったのだろうか。

■米国はいつから日本の領主なのか

 米国のそうした体質は、特に外へ向かい「戦闘行為」として発散される。貧富の差
の激しい米国では、内側への圧力は兵士の募集際して特に貧困層に集中するとされて
いる。給料と大学進学などと引き換えに命をさしだす―。若者を戦争に奪われた地域
は将来の担い手を根こそぎ奪われ、未来を失う。イラク戦争においては、それが市民
生活にも及んでいた。大手通信会社に協力させて国民的規模で利用者のプライバシー
を侵害していたことが暴露された。

 米国の圧力ないし事情を慮っての日本の戦争支持・協力の圧力は、内側に向かって
発散される。自殺に追い込まれ、集団自殺や他殺に走る傾向も指摘されるところであ
るが、誕生当初はビジョンも政策も不明だった小泉政権が、9・11以降まるで水を
得た魚のように米追従路線をとり、国民の7割を占める反対を珍言をもって押し切り、
イラクに自衛隊を派遣した。明確な憲法違反である。

 それはまるで唯一の超大国を日本の新たな領主と位置付けんばかりの追従ぶりであ
った。そして追従のあげくには足下を見られて「米軍再編」の名のもとに、窮迫する
米軍予算の補填まで約束させられそうな気配である。その上、自民党の悲願「改憲」
を実体化するための足場づくりをあるいは時限立法で、あるいは有事関連法のかたち
で推し進め、いまは共謀罪新設法案、国民投票法案、教育基本法改正法案等々、言論
と内心の自由を規制しようとしている。

 それに対抗する勢力を「かつての社会党と同じ、反対するだけの野党」(両与党幹
部)などとワンパターンでののしり、いま自分たちが歩んでいる道がどこへ通じる道
なのかを確かめようともしない。現代日本の有する知性も技術も力でふみつぶして、
愚かにも虚勢を張って我が道を行かんとしている。

 支持母体にむかって自民党のブレーキ役と称しながら、共同歩調をとってきた公明
党も、小泉政権の5年間を冷徹に検証する立場にはない。

■小泉政権「検証」の担い手

 小泉政権は日本国憲法にかかわる重大な意思決定とその遂行をした政権である。そ
の検証は、単に世論調査でことたりるわけではない。まして世論は疑義を抱き、明確
な検証を求めている。また改憲についても、国民の発議によるものではない。

 独りよがりの国民投票法案の審議、また教育基本法改正法案も国民の期待に正対し
たものではない。教育現場の不安や環境の激変に便乗して、日本国憲法に直結した教
育憲章の性格を、自らの改憲案も志向するところへと誘導しようとする姑息な提案に
すぎない。

 日本の政党や政治家が、日本国憲法に忠誠を誓うのは当然の義務である。そこに護
憲派も改憲派もない。日本国憲法に違反した政治勢力が、憲法の改変を言い出す資格
をもつだろうか。自衛隊イラク派遣は国会審議の内容や意思決定のあり方、日本の安
全保障政策としての判断の適合性も含めて十分検証されただろうか。自衛隊のイラク
派遣という意思決定は、それを行った政権に検証をゆだねられるほど枝葉末節に位置
する類のものだろうか。

 米軍のグアム移転経費始め日本が米国に負担を約束したとされる金額は、適合性を
有するのだろうか、靖国参拝をめぐって中国や韓国だけでなく、米国や国連事務総長
からも「お目玉」をくらうような首相の失態は、日本の国際的地位や経済の将来に不
安をなげかけるものではないのだろうか。

 ブッシュ政権はすでに「検証」の対象となっている。

 16日までに、米国内18州に住む28人が、米通信大手3社、ブッシュ米大統領、
NSAに対して、総額2000億ドル(約22兆円)の損害賠償や令状なしの記録収
集差し止めを求める大型訴訟をニューヨーク連邦地裁に起こした。推定2億人を代表
した集団訴訟の形を取っている。(→共同通信)

 19日、国連の拷問禁止委員会は拷問禁止条約に基づく対米審査結果を発表した。
キューバのグアンタナモ米海軍基地と、外国人テロ容疑者を収容する秘密拘禁施設に
ついて、条約違反であり閉鎖されるべきと勧告、また米軍による尋問についても、拷
問や残虐な扱いとみなされる可能性があるとして、禁止するよう強く求めた。(→ロ
イター通信)。

 それを支持し追従する行動をとった日本の小泉政権もまた、後々に禍根を残さない
ためにも、政権をゆずり、「検証」の対象とされるべきである。現在の政府と与党に
もし見識が残っているのならば、それを自ら進んで希望するほどであってほしい。そ
の検証はこの時代を野党として対峙した勢力によって共同して主導され、専門家と市
民とメディアの連携によって逐一再検証される検証のループのシステムが求められよ
う。基軸は当然、日本国憲法である。構築が急がれるところである。


毎日新聞 <イラク>初の正式政府が発足 連邦議会が閣僚名簿を承認
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20060520-00000098-mai-int
共同通信 米通信3社に22兆円要求 通話記録提供で大型訴訟
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20060517-00000036-kyodo-int
ロイター通信 グアンタナモ基地など拘束施設の閉鎖を勧告=国連委報告
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20060520-00000069-reu-int

Y・記・者・の・「・ニ・ュ・ー・ス・の・検・証・」
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▽イラク避難民10万人に
 米兵の死者も2440人超に

 イラク報道を続けているが、死者、負傷者、避難民が日を追うごとに増加している。
それはイラク人だけでなく、米兵も同じだ。新政府の樹立は進んでおらず、市民から
は昨年12月の連邦議会選挙から約5か月を経過しても政治的空白が続き、治安の悪
化を加速させていることに批判が高まっている。

 イラク移住省によると、2月のイスラム教シーア派聖廟爆破事件後、宗派対立が激
しくなり、推定で9万から10万人がバグダッドや近郊のシーア派とスンニ派の混住
地域から中部や南部のシーア派地域へ、北部や西部のスンニ派地域へそれぞれ移住し
た。

 避難民支援の赤新月社などは実際の人数はさらに多いとの見方をしており、仕事を
失い、財産を放置して避難した住民は経済的な苦境に立たされているという。

 メディアが報じたところによると、イラクのタラバニ大統領は宗教対立で4月の死
者は、バグダッドだけで1091人に達したとする声明を発表するとともに、宗派対
立で拉致や殺害の遺体が連日見つかる事態に国民的和解を呼びかけた。

 AP通信によると、イラク各地で13日から14日にかけて13件の爆弾テロや銃
撃事件があり、14日だけで41人が死亡した。バグダッドの南西ユスフィヤでは
14日、米軍ヘリが武装勢力に墜落され米兵2人が死亡、中西部アンバル州では同日、
米兵4人が仕掛け爆弾などで犠牲になった。AP通信の集計ではイラク戦争開戦以来
の米兵の死者は2440人超になった。

 また、自衛隊が駐留するサマワでは13日、武装勢力が警察の建物や検問所を一斉
に襲撃し、死者はなかったが、流れ弾に当たった子どもら2人が負傷した。

 こうした中、韓国国防省は9日、イラクに派遣中の3200人の兵隊のうち
1000人の削減を発表、年末までに終了すると発表した。韓国は昨年末、駐留部隊
の1年延長と同時に3分の1を年末までに撤退する法案を可決していた。

Z│記│者│の│「│報│道│の│現│場│か│ら│」
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