日刊ゲンダイの記事は最後のところで、知事の去就に関し次のように結んでいる。すなわち、「出馬するなら締め切り1分前に1階の知事室から2階の立候補届けの受付まで駆け上がればいいもんね」と。
ただ、候補者選定をめぐる反田中陣営のイライラは、今回に限ったことではない。たとえば、
「人間・田中康夫」の信を問う
“勝手連”で再選目指す-対抗馬難航、議会苦境に・長野-
を見ると、2002年の前回も、ほぼ同じような状況であったことが分かる。ここでは、この夏の長野県知事選、33候補リストのトップに掲載されている作家の猪瀬直樹氏をめぐる状況、動向について触れてみたい。
さて、猪瀬直樹氏も総務省の現役官僚、務台氏同様、2006年5月連休中に長野入りしている。長野市に入ったのは5月6日だ。
信濃毎日新聞は、猪瀬直樹氏の長野市入りを次ように報じている。すべてはこの長野入りから始まっているといってよい。
■猪瀬氏招き知事選へ意見交換 長野市などの有志 5月7日(日)信毎 http://www.shinmai.co.jp/news/20060507/KT060506ATI090004000022.htm 8月の知事選に向け、長野市などの有志が6日夜、同市出身の作家猪瀬直樹氏(59)を招いて市内で意見交換を行い、出席者の一部からは猪瀬氏に知事選への立候補を求める声が出された。 猪瀬氏は「今の状況では、県職員がかわいそうだ」と田中知事の県政運営に批判的な見方を示したが、立候補の意思については明確な態度を示さなかった。 会合は、猪瀬氏と長野高校の同期生で、市内の飲食店経営三浦正雄さん(59)らが呼び掛け、約20人が出席した。猪瀬氏は会合の途中から参加、地方分権や県財政の再建などについて出席者と意見を交わした。 猪瀬氏は信大人文学部卒業。作家として活動する傍ら、2002年6月から昨年9月まで道路関係4公団民営化推進委員会の委員を務めたほか、現在は竹中平蔵総務相の私的懇談会「地方分権21世紀ビジョン懇談会」の委員を務めている。 |
以下は、信濃毎日ダイジェスト記事である。内容は先の記事とほぼ同じ。
8月の知事選に向け、長野市などの有志が6日夜、同市出身の作家猪瀬直樹氏(59)を招いて市内で意見交換を行い、出席者の一部からは猪瀬氏に知事選への立候補を求める声が出された。猪瀬氏は田中知事の県政運営に批判的な見方を示したが、立候補の意思については明確な態度を示さなかった。 猪瀬氏と長野高校の同期生で、市内の飲食店経営三浦正雄さん(59)らが呼び掛け、約20人が出席。 |
この猪瀬氏の長野入りだが、田中県政追撃コラムは、猪瀬直樹見参!長野の夜、信毎抜け駆け記事の背景 と題し、次のように論じている。
「最初、この会合は、ごく私的な5~6人の集まりと聞いていた。ところが行ってみると十数人いて、マスコミ記者も信毎の他に何人かいる。
聞いていたのとだいぶ様子が違う。あれれーと思ったが、こういうことはままあること。ま、いいかと飲んでいた。
猪瀬さんは記者たちの集まっている席に行って、『この中にこの本読んだことある人いる?』と自著の最新刊『道路の決着』を取り出して見せた。
記者は6~7人いたと思うが、誰も読んでいなくて照れ笑いを浮かべながらうつむくものも。猪瀬さんが道路公団と闘ったドキュメンタリーで、猪瀬さんの手法、人柄なども窺い知ることができる。いま注目の本で、数十冊を買い込んで知り合いに配っている議員も何人かいる。
この後、いま自分が委員になっている『地方分権21世紀ビジョン懇談会』について『だめだな、君たち勉強してなくてー』とレクチャー。」 以下略
ゴールデンウィーク中の猪瀬氏の長野訪問について、2006年5月8日発売の日刊ゲンダイは以下のように報じている。
日刊ゲンダイ 2006.5.8 8月の長野知事選 猪瀬直樹氏候補に浮上 ~田中康夫知事不出馬なら出馬?~ 7月20日に告示される長野知事選(8月6日投票)に、作家の猪瀬直樹氏(59)を推す動きが出てきた。これは地元の信濃毎日新聞(7日付)が報じたもの。 猪瀬氏の出身高校である長野高校の同期生たちが出馬を要請。猪瀬氏は明確な態度を示さなかったものの、「今の状況では、県職員がかわいそうだ」などと語ったという。 知っての通り、長野は知名度抜群の田中康夫知事が3選出馬するか注目されている。「小泉道路公団民営化」で名を売った猪瀬氏は果たして出馬するのか、勝てるのか。 「田中知事が再々出馬すれば、いい関係の小沢民主党代表なども応援に動く。一方、猪瀬氏には小泉首相が、“最後の選挙”として肩入れすることも考えられる。 田中vs猪瀬の戦いになったら中央のメディアも大騒ぎでしょう。ただ、2人の対決は1、2割の確率しかない。田中知事が出れば、猪瀬氏は出ない。勝てる保証が無いからです。猪瀬氏が出るときは、田中不出馬の場合です」(県政関係者) どういうことなのか? 前出の関係者が続ける。 「田中知事の3選出馬は微妙です。知事選をにらんで県議会の百条委員会に偽証で告発されているし、地元では田中人気にも陰りが出ている。それに、“いっそ来年の東京都知事選で石原知事と一騎打ちさせたい”という声も強まっています。田中知事が出馬を断念する可能性は十分です。猪瀬氏はそこを見極めているところなのでしょう。」 どっちにしても、親小泉vs非小泉の激闘はお預けか……。 |
かなりうがった見方ではあるが、ウィークリー読売の2006年5月28日号は、日刊ゲンダイの論調をさらにヒートアップさせている。
すなわち、 ヤッシーにこの論客が挑む? 夏の「長野知事選」は小泉vs小沢の代理戦争だ、と題し、もし猪瀬氏が立候補すれば、長野県知事選挙は、小・小戦争の様相を呈すると報じている。
以下は、そのウィークリー読売のリード部分。
小・小戦争が信州に飛び火しそうな気配だ。この夏の長野県知事選挙。現職の田中康夫知事は去就を明らかにしていないが、反小泉の急先鋒で「親小沢」だ。そこに、候補者の一人として、田中知事の天敵で「小泉派」の作家、猪瀬直樹氏が浮上して---。
では、「なぜ猪瀬氏なの?」だが、ウィークリー読売は、次のように論じている。
連休明けの5がつ9日昼、東京永田町の首相官邸に、小柄だが眼光鋭い男が現れた。テレビでおなじみの猪瀬直樹氏である。向ったのは5階の秘書官室。出迎えたのは小泉純一郎首相の懐刀、飯島勲首相秘書官だ。 首相猪瀬、飯島両氏は同じ長野県出身。この日の極秘会談のテーマが長野県知事選挙であることは間違いない。 猪瀬氏は長野市内のパブで開かれた会合に出席し、長野高校の同期生から、出馬要請されていたのだ。その場で出馬の意向表示こそしなかった猪瀬氏だが、昔馴染みを前に、「(田中康夫知事の下で)県職員が、かわいそうだなあ」と、田中県政を批判した。その猪瀬発言を受けて、県政関係者の間に、「あの飯島さんも、ついていることだし、猪瀬さんは出馬について、まんざらでもないようだ」(保守系県議)との観測が広まった。 |
長野知事選が田中康夫vs猪瀬直樹となれば、小泉vs小沢代理戦争の代理戦争となるという見方はあながち間違っていないと思える。
というのも、田中知事と現在国民新党の亀井静香衆院議員との中は有名だが、実はそれより前、田中知事は小沢一郎衆院議員を「ストイックで、しなやか、それでいて、力強い志と人間味を感じさせる本物の魅力」をもった政治家として信奉しているからだ。
途中で竜頭蛇尾に終わった道路公団民営化委員会の委員就任や総務省系の地方分権21世紀ビジョン懇談会への委員就任など、この間、小泉首相のお気に入りとなっている猪瀬氏が長野県知事選挙で候補となれば、因縁の対決となることは間違いないところである。
反小泉の急先鋒で「親小沢」で知られる田中知事と親小泉の猪瀬氏の一騎打ちになれば、さながら小泉VS小沢の“代理戦争”の様相を呈するというわけだ。
この猪瀬直樹氏だが、地元サイドからは、もとはといえば田中康夫氏を担いでいた切り絵作家の柳沢京子氏やそもそも田中康夫長野県知事の生みの親でもある元八十二銀行頭取の茅野實氏が、夢よもう一度と猪瀬擁立を画策し活動中という情報も来ている。
そこでは猪瀬直樹なら田中康夫よりもコントロールしやすいという意見を吐いているが、ある県議は「猪瀬は田中以上に扱いにくいのでは」とポロッと漏らしている。
一方、猪瀬直樹氏の具体的な出馬だが、それは今のところうわさの域を出ておらず、誰もつかめていない模様。ある県民は、 「田中県政の誕生プロセスを再現する」てったって猪瀬氏じゃあ無理でしょう。 これはストーリーメーカーたる田中康夫氏だからこそ出来たことだと思う、と述べている。
すなわち、猪瀬氏の出馬は支援母体の不足で今のところまったく実現性がないと思われる。現時点で、猪瀬氏に接触している選挙を戦える力を持つ代議士や県議らもほとんどいないからだ。
もちろん、ウィークリー読売の記事にあるような猪瀬氏を取り巻く中央での状況もないことはない。またおそらく猪瀬氏本人も、やってみたいのでは、と推察する者もいるにはいる。しかし、広大な山国で過去、百戦錬磨の選挙を戦って来たヤッシーこと田中康夫氏に、猪瀬氏が勝てるとは思えない。
さらに、万一中央政界が長野に、乗り込んでくるようなことになったとして、千葉7区につづき、小泉自民が大敗退するとなると、小沢代表が言う政権交代が身近なものとなってしまう可能性が大となる。
いずれにしても、猪瀬氏が長野市でもらした「(田中康夫知事の下で)県職員が、かわいそうだなあ」という言葉に、猪瀬氏の本質が現れていると思う。もっとも重要なのは、県民がどう思っているかである。恵まれた待遇の公僕である県職員と仲良しクラブを作ることこそは、田中以前の吉村”ミズスマシ”午郎県政への後戻りだからだ。
すなわち肝心なことは、県議会や地元メディアなどによる政官業学報の現状追認、癒着の連合軍に、どれだ体を張って実ある改革してきたかである。
たとえば、以下。地元メディア、県議会は触れたがらないが、事実は事実である。
※ 田中康夫知事、実績、実力で全国ナンバーワン知事に!
田中康夫を好きだ、嫌いだではなく、実績、実力として判断、評価すれば、それは猪瀬氏がしたきたことの比ではないと思える。 もちろん、これは長野県民自身が判断することだが。
私(青山貞一)と田中康夫氏の共通の友人、中村敦夫前参議院議員は、氏が主唱するみどりの会議で長野県の改革に触れた、「私は個人的には田中康夫氏は好きではない、しかし、彼の理念そして長野でして来たことは、好き嫌いにかかわりなく大変すばらしいことである」、と公言している。
これって、どこかで聞いた台詞ではないか。そう、小沢一郎氏に対する評価である。