実戦部隊は維持。米軍再編 日米が中間報告/沖縄タイムス

2005-10-30 22:14:47 | 沖縄
実戦部隊は維持/米軍再編 日米が中間報告/海兵隊7000人削減/嘉手納以南を返還
 日米両政府は二十九日、米国防総省で外務・防衛閣僚による日米安全保障協議委員会(2プラス2)を開き、在日米軍再編の中間報告に合意した。沖縄の負担軽減では海兵隊の司令部要員など兵員約七千人の県外移転を打ち出す一方、「海兵隊のプレゼンス(存在)は決定的に重要な(日米)同盟の能力である」と強調。実戦部隊の削減は見送られた。
 2プラス2には、日本側からは町村信孝外相、大野功統防衛庁長官、米側からはライス国務長官、ラムズフェルド国防長官が出席した。

 基地の整理・縮小では嘉手納基地以南の返還を盛り込んだが具体的な基地名には触れず、来年三月の発表を明らかにした最終報告までに地元の意向を踏まえて調整する。

 嘉手納基地のF15戦闘機訓練は「訓練の分散の拡大」の必要性を指摘。本土の五つの自衛隊基地への巡回移転を目指す。

 嘉手納基地とキャンプ・ハンセンは、自衛隊と米軍が共同使用する方向性を明記した。

 航空自衛隊那覇基地のF4戦闘機と、今後に配備が予定されているF15戦闘機の一部が嘉手納基地を使用。陸上自衛隊第一混成団(那覇市)はハンセンで共同訓練などを実施するとみられる。

 普天間飛行場のヘリ部隊の移設先は名護市辺野古沖の現行計画を見直し、キャンプ・シュワブ沿岸と北東の大浦湾、南西の辺野古浅瀬にまたがるL字型の代替施設建設を明記した。政府は近く、移設先の変更を閣議決定する。環境影響評価(アセスメント)終了後の工期は、五年間を見込んでいる。

 普天間の空中給油機部隊千人は海上自衛隊鹿屋基地(鹿児島県)に移転する。

 緊急時の拠点機能として、築城基地(福岡県)や新田原基地(宮崎県)を使用。普天間飛行場の代替施設の規模が千八百㍍規模に縮小されることに伴い、長い滑走路が必要な緊急時の活動は有事法制を根拠に、西日本の民間空港の使用を想定。防衛庁幹部は那覇空港や下地島空港の使用については「想定していない」と説明している。

 空中給油機部隊以外に、キャンプ・コートニーの米海兵隊第三海兵遠征軍司令部など三つの司令部機能と管理・補助要員六千人をグアムに移転することで、合計七千人の海兵隊の削減を図る。


     ◇     ◇     ◇     
「空・地一体論」を展開/連携の必要性強調
「県内移設」前提裏付け/長期的駐留にじませる


 日米両政府は二十九日に発表した在日米軍再編協議の中間報告で、普天間飛行場の代替施設県内移設について、ヘリコプター部隊と歩兵・砲兵部隊が相互連携する「空・地一体論」の重要性を強調。陸上部隊が駐留するキャンプ・ハンセン、シュワブの近隣に建設する必要性を示唆した。「空」と「陸」の相互連携は「必要であり続ける」とし、長期的に実戦部隊を県内にとどめる方針をにじませた。

 中間報告は「普天間飛行場代替施設は、駐留する回転翼機(ヘリコプター)が日常的に活動をともにする他の組織の近くに位置するよう、沖縄県内に設けられなければならない」と指摘。日米協議が早くから「県内移設」ありきで進んでいたことをうかがわせる。

 これまで普天間飛行場の移設先に挙げられたのは「伊江島」「下地島」「嘉手納統合」「伊計島」など、すべて県内。沖縄の負担軽減に伴う海兵隊削減の焦点は、実戦部隊ではなく司令部要員の県外移転だった。

 防衛庁首脳は再編協議が佳境に入った今年九月、「実戦部隊だけは(県外に)移せない。これは日米の共通認識だ」と述べ、県内移設ありきで日米協議が進んでいることを認めた。

 中間報告は代替施設を県内に建設する理由として「航空、陸、後方支援、司令部組織の能力を維持するため定期的な訓練、演習、作戦でこれらの組織が相互に連携し合うことが必要であり続ける」と説明。将来的にも普天間飛行場の主要機能が県内に駐留し続ける必要性に言及している。

 一貫して「現行計画以外は県外移設」を主張してきた稲嶺恵一知事の主張は、日米協議の結論に反映されなかった。


[解説]
実戦部隊に「お墨付き」/一体化進む自衛隊と米軍


 在日米軍再編の中間報告は、沖縄の負担軽減策を明記する一方、海兵隊のプレゼンス(存在)による対応能力を「重要な(日米)同盟の能力である」と位置付けた。日米の外務・防衛閣僚が実戦部隊の駐留に「お墨付き」を与えた格好で、司令部移転にとどまる兵員削減策を県民が評価するか不透明だ。嘉手納基地やキャンプ・ハンセンの日米共同使用も盛り込まれ、自衛隊と米軍の一体化が進むことは確実。米軍が撤退した後は自衛隊が代替機能を果たすという、在沖米軍基地の将来像が明確に示された。

 中間報告では海兵隊七千人の削減が明記されたが、対象はキャンプ・コートニーの米海兵隊第三海兵遠征軍司令部(3MEF)、第三海兵師団司令部とキャンプ瑞慶覧の第一海兵航空団司令部。

 軍の「頭脳」に当たる司令部と支援要員や補助部隊にとどまり、キャンプ・ハンセンの第三一海兵遠征部隊(31MEU)、キャンプ・シュワブの第四海兵連隊など、実戦部隊はすべて「温存」された。

 海兵隊の撤退を求める際に「頭脳集団」と「戦闘集団」のどちらを重視するか明確にしてこなかった県側の要求が、逆手に取られたともいえる。

 基地の共同使用では、日本側には「土地とカネを提供するだけでなく、日米が対等の役割を担う」(防衛庁幹部)との思惑がある。米軍基地の管理権の移管を進め、「自衛隊の中に米軍がある」(与党国防議員)状況を実現する狙いだ。

 一方の米側にも米軍基地を日本の自衛隊が共同使用することで、地元住民の心理的な抵抗感を和らげ、基地の安定的な運用を実現したい思惑がある。

 嘉手納やハンセンの共同使用は、自衛隊と米軍の一体化を進める日米の基地政策が沖縄でも具体化することを意味する。

 将来的に基地の機能強化や固定化される可能性もあり、「県民の目に見える負担軽減につながらない」との批判は必至だ。

 嘉手納以南の基地返還では具体的な基地名や返還時期などが示されず、都市部の基地負担がどの程度軽減されるかが見えてこない。

 稲嶺恵一知事ら県側は中間報告の内容を基に、来年三月の最終報告までに「県民の実感を伴う負担軽減策とは何か」を詳細に検討し、具体的に提言していく必要がある。(東京支社・吉田央)


知事「想像以上」と評価/海兵隊削減


 稲嶺恵一知事は二十九日、米軍再編に伴い在沖米海兵隊の兵力削減が七千人規模で合意されたことについて、「私どもの想像を超える数字だ」と評価した。那覇市内のホテルで記者団の質問に答えた。県は米軍再編に向けた要望の筆頭に、海兵隊の県外移転を掲げていた。

 また、稲嶺知事は同日夜、那覇市内で開かれた会合であいさつし、再編協議に言及し「非常に厳しい時期だが、多くの県民の心を大事にしながら多くの方々から話を聞き、性根を据えて頑張っていきたい」と述べた。

 さらに、「戦後六十年たったが、沖縄の(基地問題の)厳しい状況は変わっていない。それを乗り越えるという絶対的な方法はないが、県益が同時に国益にプラスになるという信念だけは持っている」と語った。

「県民に分断強要」/北部集約に中南部反発
米軍再編中間報告 パッケージ論「脅迫」
 北部の犠牲と、中南部の負担軽減。二十九日ワシントンで発表された米軍再編の中間報告は、「パッケージ」の名の下に、県民同士に基地負担の押し付け合いを強いる内容となった。「県民全体が立ち上がる時だ」。自衛隊訓練まで含む北部への基地集約と引き換えに、嘉手納基地以南の基地を返還する提案に、北部だけでなく中南部の市町村長も一斉に反発。かつての移設推進派や、知事を支える経済界からも「分断策」に対する批判の声が上がった。

地元


 辺野古区の代表として現行計画の位置選定などを進めた古波蔵廣さん(64)は「県内の基地削減の責任を北部に押し付けているようで許せない。北部の住民は全員反発するのではないか」と指摘。「政府が合意した沿岸案では地域の理解は得られない。知事や市長も反対を表明しており、大きな運動が起こるだろう」と徹底して反対していく姿勢を強調する。

 辺野古で座り込み行動を続ける平和市民連絡会の当山栄事務局長は「一つが欠けると全部が駄目になるという大野防衛庁長官のパッケージ論は脅迫そのもので、非常に腹立たしい」と述べ、「今は県全体で立ち上がる時だ。新たな沿岸案を絶対に阻止して日本政府に押し返す」と力を込めた。

 一方、キャンプ・ハンセンには、自衛隊の一部訓練が移転される。都市型戦闘訓練施設での実弾射撃訓練強行などがあり、基地の機能強化を警戒する声が強い。

 同施設の撤去を求めて運動してきた金武町伊芸区の登川松栄さん(66)は「完全な基地強化だ。都市型問題も解決していないのに、これ以上の不安を強いるのか。北部の首長がどれだけ危機感を持って対応していくのか決意が問われている」と話した。


具体的負担見えず困惑
金武など北部首長


 町有地の六割をキャンプ・ハンセン演習場が占める金武町の儀武剛町長は「大筋の話しか触れられておらず、新しい情報がほとんどない。自衛隊との共同使用などが記されているが、それが具体的に地元にどういう影響もたらすのか。負担の“形”が何も見えてこない」と困惑気味。

 その上で、「住民生活や自然環境にこれ以上負担が増すことは許されず、近隣の自治体と歩調を合わせて反対していく」と続けた。

 「村民に説明できる内容がないと困る」と不満そうに話すのは恩納村の志喜屋文康村長。「基本的に基地機能の強化には反対だ。日米両政府が沖縄の負担軽減になるというのなら、しっかり説明してほしい」とくぎを刺した。

 宜野座村の東肇村長は「北部に押し付けるとすれば、観光立県を目指す県全体にとってもマイナスになる」と批判した。北部市町村会長の宮城茂東村長は「県内の基地の整理・縮小につながるからといって簡単には賛成できない。だからといって反対とも言い切れない。中間報告の説明を正式に受けた後、関係市町村で協議して対応を決めたい」と現時点で明言を避けた。


経済界・識者
滑走路増設はアメ?/「露骨な取引」「妥協」声も


 米軍再編に伴う北部への基地集約で、知事を支える経済界からも異論が出る一方で、妥協や対策強化を訴える声が上がった。

 県中小企業団体中央会の吉山盛安会長は、「北部の希少生物や森林は沖縄の宝。基地集中による環境破壊で、台無しになる」と懸念。「政府は一度でも真剣に県外移転を検討してくれたのか」と疑問を投げ掛けた。

 この日「政府筋」から飛び出した那覇空港滑走路増設の検討意向についても、「唐突に聞こえる。増設は県民的な要求だが、アメとムチのように基地建設と絡めれば、かえって感情を逆なでする」と、露骨な取引に警鐘を鳴らした。

 一方、別の経済界幹部は「全国でも、原子力空母配備や飛行訓練移転など基地負担が強化されている。沖縄の『過重な基地負担』というカードがなくなる前に、妥協すべきではないか」との見方を示した。

 「北部集約で雇用に大きな影響が出ることを懸念している」と話すのは、全駐労沖縄地区本部の照屋恒夫委員長。「最終報告の行方を注視し、雇用対策を強化したい」と表明した。

 沖国大の佐藤学教授(政治学)は、日米合意に至る経緯を問題視。「国と県は本来、対等の関係だ。県の意向や従来の合意を無視して、再び県内移設を言いつける国の態度は自治の面から許されない」と強調した。


     ◇     ◇     ◇     
「条件付き一方的」基地返還手法に失望
中部首長ら批判・懸念


 本島中部の基地返還は、普天間飛行場のキャンプ・シュワブ沿岸部への移設が条件であることを明示した中間報告。大規模返還に期待を寄せていた中部の首長らは「条件付きとはやり方が一方的過ぎる」などと、一斉に反発の声を上げた。

 「政府は県民の思いを全然理解していない。なぜ返還に条件を付けるのか」と声を上げたのはキャンプ瑞慶覧の大規模返還を期待し、中間報告を注視していた新垣邦男北中城村長。知念恒男うるま市長も「『普天間』が必ず県内でなければいけないという姿勢にあぜんとする」と驚きを隠さない。

 辺土名朝一北谷町長は米軍再編協議について「関係自治体に全然話がない。国の決定を地域に押し付ける一方的なやり方は、民主国家の行為ではない」と、政府の対応を批判。伊波洋一宜野湾市長も「条件付きではなく可能な返還を実現するのは、六十年も負担を強いている沖縄に対する日米の責任だ」と訴えた。

 在沖米海兵隊の司令部要員七千人の削減については「将校がいなくなり前線兵士だけ残れば、沖縄はサファリパーク状態だ」(辺土名町長)、「兵力より、事件・事故を減らすことが県民には望ましい」(知念市長)と懸念を示す。

 一方、伊波市長は「司令部があるから沖縄が第三海兵師団の本拠地になっている。移転はグアムが同師団の本拠地になることを意味しており、近い将来の海兵隊撤退に向けた大きな一歩だ」と、一定の評価を下した。

 F15戦闘機訓練の一部県外移転と、自衛隊の共同使用の方向性が示された嘉手納基地。同町の塩川勇吉総務部長は「騒音が軽減するなら結構なことだが、どれだけ減るのかが見て取れない。自衛隊も加わるため、果たして負担軽減につながるのか」と話した。

 全面返還がうわさされながら、中間報告に何も盛り込まれなかった牧港補給地区。儀間光男浦添市長は「いつ返還されてもいいように、跡地利用計画を策定している。その中で地権者補償は必ず確保する」と、冷静に受け止めた。


返還後の利用計画進めたい/翁長雄志那覇市長


 米軍那覇港湾施設(軍港)を抱える那覇市の翁長雄志市長は「全面返還は日米特別行動委員会(SACO)合意ですでに決まっていたことであり、返還後の跡利用計画を進めたい」とコメント。基地機能が北部に集約されることに対し、「もろ手を上げて万歳というわけにはいかない。海兵隊削減など負担軽減につながり歓迎できるが、県や名護市の頭越しであってはならない」と話した。

 那覇空港の滑走路増設が検討されているとの報道について、翁長市長は「県の観光や経済界にとっては長年の悲願。軍民共用がなくなったこととのバーターなのかはもっと詳しい内容を検討しないとコメントできない」と話した。

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