法律の周辺

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市町村による税金滞納者の借入に係る取引履歴の開示請求について

2008-06-11 19:33:50 | Weblog
asahi.com 過払い金,プロミスから芦屋市へ「返還」命令 西宮簡裁

 記事には,概略,芦屋市は調査の過程で約31万円の過払いを確認,とある。 
この件の詳細はわからないが,市町村が,徴税目的で,税金滞納者の借入に係る取引履歴の開示を求める場合,貸金業者の中には個人情報の保護を盾にこれを拒むところも少なくないようだ。
しかし,個人情報も,本人の同意がなければ一切の第三者提供が認められないというものではない(個人情報保護法第23条第1項参照)。
地方税の徴税吏員には,「滞納者に対し債権若しくは債務があり,又は滞納者から財産を取得したと認めるに足りる相当の理由がある者」に対する質問・検査権が認められている(国税徴収法第141条,地方税法参照)。地方税の徴税吏員が質問・検査権の行使として取引履歴の開示請求をおこなうとした場合,これが本人の同意を得ることなく個人データを第三者提供できる例外ケースにあたるとすれば,貸金業者の個人情報保護を理由とした開示拒否は理由のないものとなる。

この点,三宅弘・小町谷育子共著『個人情報保護法 逐条分析と展望』(青林書院)のP176には,上記例外ケースに係る「法令に基づく場合」(個人情報保護法第23条第1項第1号)の解説として次のようにある。

(1) 「法令に基づく場合」(1項1号)とは,法令で届出・通知義務等が定められている場合などをいう(内閣官房個人情報保護室資料,藤原「個人情報保護法案について」9頁)。具体的には,税法上の質問検査権(地方税法72条の63など),税務署等からの照会(国税徴収法141条,所得税法234条,地方税法26条),労働基準監督署からの照会(賃金の支払の確保等に関する法律12条),警察や検察による令状による捜査(刑事訴訟法218条1項),必要な取調べ(刑事訴訟法197条2項),裁判所の行う文書提出命令(民訴法223条)や必要な報告の請求(家事審判規則8条),弁護士会から必要事項の報告を求める照会(弁護士法23条の2),プロバイダー責任制限法による発信者情報の開示(衆議院特別委員会議事録8号片山国務大臣答弁)などが,これに含まれよう。
 法令に基づく場合であっても,回答が任意の場合には,公共的利益と個人情報保護の比較衡量を行い,提供すべきかどうか慎重に判断すべきである(→16条3項1号と同様)。


なお,国税徴収法141条違反には罰金が科せられる(国税徴収法第188条・第189条)。


「個人情報の保護に関する法律」の関連条文

(目的)
第一条  この法律は,高度情報通信社会の進展に伴い個人情報の利用が著しく拡大していることにかんがみ,個人情報の適正な取扱いに関し,基本理念及び政府による基本方針の作成その他の個人情報の保護に関する施策の基本となる事項を定め,国及び地方公共団体の責務等を明らかにするとともに,個人情報を取り扱う事業者の遵守すべき義務等を定めることにより,個人情報の有用性に配慮しつつ,個人の権利利益を保護することを目的とする。

(定義)
第二条  この法律において「個人情報」とは,生存する個人に関する情報であって,当該情報に含まれる氏名,生年月日その他の記述等により特定の個人を識別することができるもの(他の情報と容易に照合することができ,それにより特定の個人を識別することができることとなるものを含む。)をいう。
2  この法律において「個人情報データベース等」とは,個人情報を含む情報の集合物であって,次に掲げるものをいう。
一  特定の個人情報を電子計算機を用いて検索することができるように体系的に構成したもの
二  前号に掲げるもののほか,特定の個人情報を容易に検索することができるように体系的に構成したものとして政令で定めるもの
3  この法律において「個人情報取扱事業者」とは,個人情報データベース等を事業の用に供している者をいう。ただし,次に掲げる者を除く。
一  国の機関
二  地方公共団体
三  独立行政法人等(独立行政法人等の保有する個人情報の保護に関する法律 (平成十五年法律第五十九号)第二条第一項 に規定する独立行政法人等をいう。以下同じ。)
四  地方独立行政法人(地方独立行政法人法 (平成十五年法律第百十八号)第二条第一項 に規定する地方独立行政法人をいう。以下同じ。)
五  その取り扱う個人情報の量及び利用方法からみて個人の権利利益を害するおそれが少ないものとして政令で定める者
4  この法律において「個人データ」とは,個人情報データベース等を構成する個人情報をいう。
5  この法律において「保有個人データ」とは,個人情報取扱事業者が,開示,内容の訂正,追加又は削除,利用の停止,消去及び第三者への提供の停止を行うことのできる権限を有する個人データであって,その存否が明らかになることにより公益その他の利益が害されるものとして政令で定めるもの又は一年以内の政令で定める期間以内に消去することとなるもの以外のものをいう。
6  この法律において個人情報について「本人」とは,個人情報によって識別される特定の個人をいう。

(利用目的の特定)
第十五条  個人情報取扱事業者は,個人情報を取り扱うに当たっては,その利用の目的(以下「利用目的」という。)をできる限り特定しなければならない。
2  個人情報取扱事業者は,利用目的を変更する場合には,変更前の利用目的と相当の関連性を有すると合理的に認められる範囲を超えて行ってはならない。

(利用目的による制限)
第十六条  個人情報取扱事業者は,あらかじめ本人の同意を得ないで,前条の規定により特定された利用目的の達成に必要な範囲を超えて,個人情報を取り扱ってはならない。
2  個人情報取扱事業者は,合併その他の事由により他の個人情報取扱事業者から事業を承継することに伴って個人情報を取得した場合は,あらかじめ本人の同意を得ないで,承継前における当該個人情報の利用目的の達成に必要な範囲を超えて,当該個人情報を取り扱ってはならない。
3  前二項の規定は,次に掲げる場合については,適用しない。
一  法令に基づく場合
二  人の生命,身体又は財産の保護のために必要がある場合であって,本人の同意を得ることが困難であるとき。
三  公衆衛生の向上又は児童の健全な育成の推進のために特に必要がある場合であって,本人の同意を得ることが困難であるとき。
四  国の機関若しくは地方公共団体又はその委託を受けた者が法令の定める事務を遂行することに対して協力する必要がある場合であって,本人の同意を得ることにより当該事務の遂行に支障を及ぼすおそれがあるとき。

(第三者提供の制限)
第二十三条  個人情報取扱事業者は,次に掲げる場合を除くほか,あらかじめ本人の同意を得ないで,個人データを第三者に提供してはならない。
一  法令に基づく場合
二  人の生命,身体又は財産の保護のために必要がある場合であって,本人の同意を得ることが困難であるとき。
三  公衆衛生の向上又は児童の健全な育成の推進のために特に必要がある場合であって,本人の同意を得ることが困難であるとき。
四  国の機関若しくは地方公共団体又はその委託を受けた者が法令の定める事務を遂行することに対して協力する必要がある場合であって,本人の同意を得ることにより当該事務の遂行に支障を及ぼすおそれがあるとき。
2  個人情報取扱事業者は,第三者に提供される個人データについて,本人の求めに応じて当該本人が識別される個人データの第三者への提供を停止することとしている場合であって,次に掲げる事項について,あらかじめ,本人に通知し,又は本人が容易に知り得る状態に置いているときは,前項の規定にかかわらず,当該個人データを第三者に提供することができる。
一  第三者への提供を利用目的とすること。
二  第三者に提供される個人データの項目
三  第三者への提供の手段又は方法
四  本人の求めに応じて当該本人が識別される個人データの第三者への提供を停止すること。
3  個人情報取扱事業者は,前項第二号又は第三号に掲げる事項を変更する場合は,変更する内容について,あらかじめ,本人に通知し,又は本人が容易に知り得る状態に置かなければならない。
4  次に掲げる場合において,当該個人データの提供を受ける者は,前三項の規定の適用については,第三者に該当しないものとする。
一  個人情報取扱事業者が利用目的の達成に必要な範囲内において個人データの取扱いの全部又は一部を委託する場合
二  合併その他の事由による事業の承継に伴って個人データが提供される場合
三  個人データを特定の者との間で共同して利用する場合であって,その旨並びに共同して利用される個人データの項目,共同して利用する者の範囲,利用する者の利用目的及び当該個人データの管理について責任を有する者の氏名又は名称について,あらかじめ,本人に通知し,又は本人が容易に知り得る状態に置いているとき。
5  個人情報取扱事業者は,前項第三号に規定する利用する者の利用目的又は個人データの管理について責任を有する者の氏名若しくは名称を変更する場合は,変更する内容について,あらかじめ,本人に通知し,又は本人が容易に知り得る状態に置かなければならない。

国税徴収法の関連条文

(目的)
第一条  この法律は,国税の滞納処分その他の徴収に関する手続の執行について必要な事項を定め,私法秩序との調整を図りつつ,国民の納税義務の適正な実現を通じて国税収入を確保することを目的とする。

(差押の要件)
第四十七条  次の各号の一に該当するときは,徴収職員は,滞納者の国税につきその財産を差し押えなければならない。
一  滞納者が督促を受け,その督促に係る国税をその督促状を発した日から起算して十日を経過した日までに完納しないとき。
二  納税者が国税通則法第三十七条第一項 各号(督促)に掲げる国税をその納期限(繰上請求がされた国税については,当該請求に係る期限)までに完納しないとき。
2  国税の納期限後前項第一号に規定する十日を経過した日までに,督促を受けた滞納者につき国税通則法第三十八条第一項 各号(繰上請求)の一に該当する事実が生じたときは,徴収職員は,直ちにその財産を差し押えることができる。
3  第二次納税義務者又は保証人について第一項の規定を適用する場合には,同項中「督促状」とあるのは,「納付催告書」とする。

(差押えの手続及び効力発生時期)
第六十二条  債権(社債等の振替に関する法律 (平成十三年法律第七十五号)第二条第一項 (定義)に規定する社債等のうちその権利の帰属が振替口座簿の記載又は記録により定まるものとされるもの(次条において「振替社債等」という。)を除く。以下この条において同じ。)の差押えは,第三債務者に対する債権差押通知書の送達により行う。
2  徴収職員は,債権を差し押えるときは,債務者に対しその履行を,滞納者に対し債権の取立その他の処分を禁じなければならない。
3  第一項の差押の効力は,債権差押通知書が第三債務者に送達された時に生ずる。
4  税務署長は,債権でその移転につき登録を要するものを差し押えたときは,差押の登録を関係機関に嘱託しなければならない。

(質問及び検査)
第百四十一条  徴収職員は,滞納処分のため滞納者の財産を調査する必要があるときは,その必要と認められる範囲内において,次に掲げる者に質問し,又はその者の財産に関する帳簿書類(その作成又は保存に代えて電磁的記録(電子的方式,磁気的方式その他の人の知覚によつては認識することができない方式で作られる記録であつて,電子計算機による情報処理の用に供されるものをいう。)の作成又は保存がされている場合における当該電磁的記録を含む。第百四十六条の二及び第百八十八条第二号において同じ。)を検査することができる。
一  滞納者
二  滞納者の財産を占有する第三者及びこれを占有していると認めるに足りる相当の理由がある第三者
三  滞納者に対し債権若しくは債務があり,又は滞納者から財産を取得したと認めるに足りる相当の理由がある者
四  滞納者が株主又は出資者である法人

(捜索の権限及び方法)
第百四十二条  徴収職員は,滞納処分のため必要があるときは,滞納者の物又は住居その他の場所につき捜索することができる。
2  徴収職員は,滞納処分のため必要がある場合には,次の各号の一に該当するときに限り,第三者の物又は住居その他の場所につき捜索することができる。
一  滞納者の財産を所持する第三者がその引渡をしないとき。
二  滞納者の親族その他の特殊関係者が滞納者の財産を所持すると認めるに足りる相当の理由がある場合において,その引渡をしないとき。
3  徴収職員は,前二項の捜索に際し必要があるときは,滞納者若しくは第三者に戸若しくは金庫その他の容器の類を開かせ,又は自らこれらを開くため必要な処分をすることができる。

(身分証明書の呈示等)
第百四十七条  徴収職員は,この款の規定により質問,検査又は捜索をするときは,その身分を示す証明書を携帯し,関係者の請求があつたときは,これを呈示しなければならない。
2  この款の規定による質問,検査又は捜索の権限は,犯罪捜査のために認められたものと解してはならない。

第百八十八条  次の各号の一に該当する者は,十万円以下の罰金に処する。
一  第百四十一条(質問及び検査)の規定による徴収職員の質問に対して答弁をせず,又は偽りの陳述をした者
二  第百四十一条の規定による検査を拒み,妨げ,若しくは忌避し,又は当該検査に関し偽りの記載若しくは記録をした帳簿書類を提示した者

第百八十九条  法人の代表者(人格のない社団等の管理人を含む。)又は法人若しくは人の代理人,使用人,その他の従業者が,その法人又は人の業務又は財産に関して前二条の違反行為をしたときは,その行為者を罰するほか,その法人又は人に対し各本条の罰金刑を科する。
2  人格のない社団等について前項の規定の適用がある場合においては,その代表者又は管理人がその訴訟行為につき当該人格のない社団等を代表するほか,法人を被告人又は被疑者とする場合の刑事訴訟に関する法律の規定を準用する。

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