法律の周辺

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反倫理的行為をおこなった者からの損益相殺の主張について

2008-06-10 19:31:05 | Weblog
ヤミ金融業者への損賠訴訟,元本も損害額に認定 最高裁 NIKKEI NET

 ヤミ金の事案ではないが,借主が,貸金業者の貸付行為を不法行為と構成し,貸金業者に対して既払利息及び既払元本相当額を求めたものとして札幌高判平成17年2月23日がある。この事案では,札幌高裁,年利1200%にも及ぶ法外な利息を受領していた貸金業者からの交付済み元本相当額に係る損益相殺の主張を認めず,借主の既払金全額と同額の損害賠償請求を認めた。

 さて,今般,第三小法廷は,原審の「加害者の不法行為を原因として被害者が利益を得た場合には,当該利益を損益相殺として損害額から控除するのが,現実に被った損害を補てんし,損害の公平妥当な分配を図るという不法行為制度の上記目的にもかなうというべきである。」との判断につき,是認できないとして次のとおり判示。

 民法708条は,不法原因給付,すなわち,社会の倫理,道徳に反する醜悪な行為(以下「反倫理的行為」という。)に係る給付については不当利得返還請求を許さない旨を定め,これによって,反倫理的行為については,同条ただし書に定める場合を除き,法律上保護されないことを明らかにしたものと解すべきである。したがって,反倫理的行為に該当する不法行為の被害者が,これによって損害を被るとともに,当該反倫理的行為に係る給付を受けて利益を得た場合には,同利益については,加害者からの不当利得返還請求が許されないだけでなく,被害者からの不法行為に基づく損害賠償請求において損益相殺ないし損益相殺的な調整の対象として被害者の損害額から控除することも,上記のような民法708条の趣旨に反するものとして許されないものというべきである。なお,原判決の引用する前記大法廷判決は,不法行為の被害者の受けた利益が不法原因給付によって生じたものではない場合について判示したものであり,本件とは事案を異にする。
 これを本件についてみると,前記事実関係によれば,著しく高利の貸付けという形をとって上告人らから元利金等の名目で違法に金員を取得し,多大の利益を得るという反倫理的行為に該当する不法行為の手段として,本件各店舗から上告人らに対して貸付けとしての金員が交付されたというのであるから,上記の金員の交付によって上告人らが得た利益は,不法原因給付によって生じたものというべきであり,同利益を損益相殺ないし損益相殺的な調整の対象として上告人らの損害額から控除することは許されない。これと異なる原審の判断には法令の解釈を誤った違法があり,この違法が判決に影響を及ぼすことは明らかである。


なお,田原裁判官が意見を述べている。その中には,概略,本件では多数意見と結論を同じくするとしつつ,次のようにある。

しかし,多数意見のように「反倫理的行為に該当する不法行為の被害者が,これによって損害を被るとともに,当該反倫理的行為に係る給付を受けて利益を得た場合には,同利益については,加害者からの不当利得返還請求が許されないだけでなく,被害者からの不法行為に基づく損害賠償請求において損益相殺ないし損益相殺的な調整の対象として被害者の損害額から控除すること」も許されない,と一義的に言い切ることには,なお躊躇を覚える。不法行為の被害者が加害者から受けた給付が,不法原因給付としてその返還を要しない場合であっても,被害の性質や内容,程度,被害者の対応,加害行為の態様等から,その給付をもって損益相殺的処理をなすことが衡平に適う場面があり得ると考えられるからである。

最後になったが,冒頭の札幌高裁の事案では,元本の返還を認めないのは財産権の侵害として貸金業者が上告したところ,最判平成18年3月7日はこれを棄却している。

判例検索システム 平成20年06月10日 損害賠償請求事件


民法の関連条文

(不法原因給付)
第七百八条  不法な原因のために給付をした者は,その給付したものの返還を請求することができない。ただし,不法な原因が受益者についてのみ存したときは,この限りでない。

(不法行為による損害賠償)
第七百九条  故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者は,これによって生じた損害を賠償する責任を負う。

(使用者等の責任)
第七百十五条  ある事業のために他人を使用する者は,被用者がその事業の執行について第三者に加えた損害を賠償する責任を負う。ただし,使用者が被用者の選任及びその事業の監督について相当の注意をしたとき,又は相当の注意をしても損害が生ずべきであったときは,この限りでない。
2  使用者に代わって事業を監督する者も,前項の責任を負う。
3  前二項の規定は,使用者又は監督者から被用者に対する求償権の行使を妨げない。

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