法律の周辺

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戸籍のない子どもたちの実父に対する一斉認知調停申立てについて

2008-06-20 18:24:27 | Weblog
「無戸籍」一斉申し立てへ 実父に認知求め調停 - さきがけ on the Web

 形式的には民法第772条により嫡出性が推定されるが,長期間別居状態が続いていたなど,事実上嫡出の推定が及ばない無戸籍(出生届未了)の子どもが,母親の前夫との親子関係を否定するにあたっては,これまで,親子関係不存在確認に係る調停申立てなどによるとされてきた(家事審判法第23条第2項参照)。
記事にある最高裁の回答は,上記の方法によらず,実父に対する認知調停申立ても可能とするもの。母親の前夫との間で法律上の嫡出推定が働くケースにもかかわらず,これを棚上げして,いきなり,例えば,母親の現夫などに対して認知調停申立てをおこなう,というのだから,イレギュラーの感は否めない。
記事には,前夫の子どもではないとの立証を求められる可能性があるとあるが,身分関係の安定等の要請を考えれば,これは致し方ない面もある。戸籍を得るための本認知調停申立ては,言い方は適当ではないかもしれないが,「出来レース」の色合いが濃厚。調停の結果を当事者の言い分にのみ委ねた場合は問題も出てこよう(民法第786条。なお,家事審判法第23条参照)。
申立てにあたっては,この方法に拠らざるを得ないことを明らかにする意味で,前夫の協力が得られない事情・交渉経過などを厚く記載することが求められると思われる。
なお,家事審判法第27条には「家庭裁判所又は調停委員会の呼出を受けた事件の関係人が正当な事由がなく出頭しないときは,家庭裁判所は,これを五万円以下の過料に処する。」とある。

追記  『解説実務書式体系23』(三省堂)の「認知申立事件」の項に次の解説がある。

 親子関係不存在確認との関係
 嫡出の推定が及ばない子について,その子の戸籍上の父が死亡している場合,所在不明の場合,父が親子関係不存在確認の調停に応じない場合に,子から実父を相手方とする認知請求の調停を認める取扱もある。


子の実父に対する認知調停申立て,一部では認められていたようだが,書きぶりからして,例外的だったのは間違いなさそうだ。


民法の関連条文

(嫡出の推定)
第七百七十二条  妻が婚姻中に懐胎した子は,夫の子と推定する。
2  婚姻の成立の日から二百日を経過した後又は婚姻の解消若しくは取消しの日から三百日以内に生まれた子は,婚姻中に懐胎したものと推定する。

(父を定めることを目的とする訴え)
第七百七十三条  第七百三十三条第一項の規定に違反して再婚をした女が出産した場合において,前条の規定によりその子の父を定めることができないときは,裁判所が,これを定める。

(嫡出の否認)
第七百七十四条  第七百七十二条の場合において,夫は,子が嫡出であることを否認することができる。

(嫡出否認の訴え)
第七百七十五条  前条の規定による否認権は,子又は親権を行う母に対する嫡出否認の訴えによって行う。親権を行う母がないときは,家庭裁判所は,特別代理人を選任しなければならない。

(嫡出の承認)
第七百七十六条  夫は,子の出生後において,その嫡出であることを承認したときは,その否認権を失う。

(嫡出否認の訴えの出訴期間)
第七百七十七条  嫡出否認の訴えは,夫が子の出生を知った時から一年以内に提起しなければならない。

第七百七十八条  夫が成年被後見人であるときは,前条の期間は,後見開始の審判の取消しがあった後夫が子の出生を知った時から起算する。

(認知)
第七百七十九条  嫡出でない子は,その父又は母がこれを認知することができる。

(認知能力)
第七百八十条  認知をするには,父又は母が未成年者又は成年被後見人であるときであっても,その法定代理人の同意を要しない。

(認知の方式)
第七百八十一条  認知は,戸籍法 の定めるところにより届け出ることによってする。
2  認知は,遺言によっても,することができる。

(成年の子の認知)
第七百八十二条  成年の子は,その承諾がなければ,これを認知することができない。

(認知の効力)
第七百八十四条  認知は,出生の時にさかのぼってその効力を生ずる。ただし,第三者が既に取得した権利を害することはできない。

(認知に対する反対の事実の主張)
第七百八十六条  子その他の利害関係人は,認知に対して反対の事実を主張することができる。

家事審判法の関連条文

第一条  この法律は,個人の尊厳と両性の本質的平等を基本として,家庭の平和と健全な親族共同生活の維持を図ることを目的とする。

第二条  家庭裁判所において,この法律に定める事項を取り扱う裁判官は,これを家事審判官とする。

第三条  審判は,特別の定がある場合を除いては,家事審判官が,参与員を立ち合わせ,又はその意見を聴いて,これを行う。但し,家庭裁判所は,相当と認めるときは,家事審判官だけで審判を行うことができる。
2  調停は,家事審判官及び家事調停委員をもつて組織する調停委員会がこれを行う。前項ただし書の規定は,調停にこれを準用する。
3  家庭裁判所は,当事者の申立があるときは,前項後段の規定にかかわらず,調停委員会で調停を行わなければならない。

第十七条  家庭裁判所は,人事に関する訴訟事件その他一般に家庭に関する事件について調停を行う。但し,第九条第一項甲類に規定する審判事件については,この限りでない。

第二十三条  婚姻又は養子縁組の無効又は取消しに関する事件の調停委員会の調停において,当事者間に合意が成立し無効又は取消しの原因の有無について争いがない場合には,家庭裁判所は,必要な事実を調査した上,当該調停委員会を組織する家事調停委員の意見を聴き,正当と認めるときは,婚姻又は縁組の無効又は取消しに関し,当該合意に相当する審判をすることができる。
2  前項の規定は,協議上の離婚若しくは離縁の無効若しくは取消し,認知,認知の無効若しくは取消し,民法第七百七十三条 の規定により父を定めること,嫡出否認又は身分関係の存否の確定に関する事件の調停委員会の調停について準用する。

第二十七条  家庭裁判所又は調停委員会の呼出を受けた事件の関係人が正当な事由がなく出頭しないときは,家庭裁判所は,これを五万円以下の過料に処する。

第二十九条  前二条の過料の審判は,家事審判官の命令でこれを執行する。この命令は,執行力のある債務名義と同一の効力を有する。
2  過料の審判の執行は,民事執行法 (昭和五十四年法律第四号)その他強制執行の手続に関する法令の規定に従つてこれをする。ただし,執行前に審判の送達をすることを要しない。
3  前二項に規定するもののほか,過料についての審判に関しては,非訟事件手続法第五編 の規定を準用する。ただし,同法第百六十二条 及び第百六十四条 中検察官に関する規定は,この限りでない。

コメント (2)
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