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法律の周辺

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私費で購入したノートに記載したメモの開示について

2008-06-28 20:57:34 | Weblog
asahi.com 捜査メモも「開示対象」 最高裁,検察に提示促す

 本件で,検察側の主張するのは,問題のメモは「(同)警察官が私費で購入してだれからも指示されることなく心覚えのために使用しているノートに記載されたものであって,個人的メモ」であるということ。詰まるところ,件のメモは犯罪捜査規範第13条に基づき作成されたものではないから開示命令の対象にはならない,ということのようだ。
しかし,本判決でも引用のある最判H19.12.25には次のようにあった。

(2) 公務員がその職務の過程で作成するメモについては,専ら自己が使用するために作成したもので,他に見せたり提出することを全く想定していないものがあることは所論のとおりであり,これを証拠開示命令の対象とするのが相当でないことも所論のとおりである。しかしながら,犯罪捜査規範13条は,「警察官は,捜査を行うに当り,当該事件の公判の審理に証人として出頭する場合を考慮し,および将来の捜査に資するため,その経過その他参考となるべき事項を明細に記録しておかなければならない。」と規定しており,警察官が被疑者の取調べを行った場合には,同条により備忘録を作成し,これを保管しておくべきものとしているのであるから,取調警察官が,同条に基づき作成した備忘録であって,取調べの経過その他参考となるべき事項が記録され,捜査機関において保管されている書面は,個人的メモの域を超え,捜査関係の公文書ということができる。これに該当する備忘録については,当該事件の公判審理において,当該取調べ状況に関する証拠調べが行われる場合には,証拠開示の対象となり得るものと解するのが相当である。

犯罪捜査規範第1条には「この規則は,警察官が犯罪の捜査を行うに当つて守るべき心構え,捜査の方法,手続その他捜査に関し必要な事項を定めることを目的とする。」とある。この規定からは,捜査の過程における警察官の行動は犯罪捜査規範に裏付けられている,と見るのが無理のないところ。件のノートは私費で購入したもので,それへの記載は誰からも指示されていない → 個人的メモで捜査関係の公文書ではないから,開示対象とはならない,はちょっと形式的過ぎる。任意の提出を言うなら,心覚えなどではなく,公文書たる備忘録にきちんと記録すればよさそうなもの。検察の理屈が通るなら,開示したくないものは私費で購入したノートへ,などといった話しにもなりかねない。

本特別抗告審で第三小法廷は次のとおり判示。

 しかしながら,犯罪捜査に当たった警察官が犯罪捜査規範13条に基づき作成した備忘録であって,捜査の経過その他参考となるべき事項が記録され,捜査機関において保管されている書面は,当該事件の公判審理において,当該捜査状況に関する証拠調べが行われる場合,証拠開示の対象となり得るものと解するのが相当である(前記第三小法廷決定参照)。そして,警察官が捜査の過程で作成し保管するメモが証拠開示命令の対象となるものであるか否かの判断は,裁判所が行うべきものであるから,裁判所は,その判断をするために必要があると認めるときは,検察官に対し,同メモの提示を命ずることができるというべきである。これを本件について見るに,本件メモは,本件捜査等の過程で作成されたもので警察官によって保管されているというのであるから,証拠開示命令の対象となる備忘録に該当する可能性があることは否定することができないのであり,原々審が検察官に対し本件メモの提示を命じたことは相当である。

重要なのは,メモが如何なる過程で作成されたかということ。何に記載されたかは,開示命令の対象になるかの判断にあたってひとつの材料にはなろうが,決定的なものではない。

判例検索システム 平成20年06月25日 証拠開示決定に対する即時抗告棄却決定に対する特別抗告事件


犯罪捜査規範の関連条文

(この規則の目的)
第一条  この規則は,警察官が犯罪の捜査を行うに当つて守るべき心構え,捜査の方法,手続その他捜査に関し必要な事項を定めることを目的とする。

(捜査の基本)
第二条  捜査は,事案の真相を明らかにして事件を解決するとの強固な信念をもつて迅速適確に行わなければならない。
2  捜査を行うに当つては,個人の基本的人権を尊重し,かつ,公正誠実に捜査の権限を行使しなければならない。

(法令等の厳守)
第三条  捜査を行うに当たつては,警察法 (昭和二十九年法律第百六十二号),刑事訴訟法 (昭和二十三年法律第百三十一号。以下「刑訴法」という。)その他の法令および規則を厳守し,個人の自由及び権利を不当に侵害することのないように注意しなければならない。

(合理捜査)
第四条  捜査を行うに当たつては,証拠によつて事案を明らかにしなければならない。
2  捜査を行うに当たつては,先入観にとらわれず,根拠に基づかない推測を排除し,被疑者その他の関係者の供述を過信することなく,基礎的捜査を徹底し,物的証拠を始めとするあらゆる証拠の発見収集に努めるとともに,鑑識施設及び資料を十分に活用して,捜査を合理的に進めるようにしなければならない。

(総合捜査)
第五条  捜査を行うに当つては,すべての情報資料を総合して判断するとともに,広く知識技能を活用し,かつ,常に組織の力により,捜査を総合的に進めるようにしなければならない。

(着実な捜査)
第六条  捜査は,安易に成果を求めることなく,犯罪の規模,方法その他諸般の状況を冷静周密に判断し,着実に行わなければならない。

(公訴,公判への配慮)
第七条  捜査は,それが刑事手続の一環であることにかんがみ,公訴の実行及び公判の審理を念頭に置いて,行わなければならない。特に,裁判員の参加する刑事裁判に関する法律(平成十六年法律第六十三号)第二条第一項に規定する事件に該当する事件の捜査を行う場合は,国民の中から選任された裁判員に分かりやすい立証が可能となるよう,配慮しなければならない。

(規律と協力)
第八条  捜査を行うに当たつては,自己の能力を過信して独断に陥ることなく,上司から命ぜられた事項を忠実に実行し,常に警察規律を正しくし,協力一致して事案に臨まなければならない。

(秘密の保持等)
第九条  捜査を行うに当たつては,秘密を厳守し,捜査の遂行に支障を及ぼさないように注意するとともに,被疑者,被害者(犯罪により害を被つた者をいう。以下同じ。)その他事件の関係者の名誉を害することのないように注意しなければならない。
2  捜査を行うに当たつては,前項の規定により秘密を厳守するほか,告訴,告発,犯罪に関する申告その他犯罪捜査の端緒又は犯罪捜査の資料を提供した者(第十一条(被害者等の保護等)第二項において「資料提供者」という。)の名誉又は信用を害することのないように注意しなければならない。

(関係者に対する配慮)
第十条  捜査を行うに当つては,常に言動を慎み,関係者の利便を考慮し,必要な限度をこえて迷惑を及ぼさないように注意しなければならない。

(被害者等に対する配慮)
第十条の二  捜査を行うに当たつては,被害者又はその親族(以下この節において「被害者等」という。)の心情を理解し,その人格を尊重しなければならない。
2  捜査を行うに当たつては,被害者等の取調べにふさわしい場所の利用その他の被害者等にできる限り不安又は迷惑を覚えさせないようにするための措置を講じなければならない。

(被害者等に対する通知)
第十条の三  捜査を行うに当たつては,被害者等に対し,刑事手続の概要を説明するとともに,当該事件の捜査の経過その他被害者等の救済又は不安の解消に資すると認められる事項を通知しなければならない。ただし,捜査その他の警察の事務若しくは公判に支障を及ぼし,又は関係者の名誉その他の権利を不当に侵害するおそれのある場合は,この限りでない。

(被害者等の保護等)
第十一条  警察官は,犯罪の手口,動機及び組織的背景,被疑者と被害者等との関係,被疑者の言動その他の状況から被害者等に後難が及ぶおそれがあると認められるときは,被疑者その他の関係者に,当該被害者等の氏名又はこれらを推知させるような事項を告げないようにするほか,必要に応じ,当該被害者等の保護のための措置を講じなければならない。
2  前項の規定は,資料提供者に後難が及ぶおそれがあると認められる場合について準用する。

(研究と工夫)
第十二条  警察官は,捜査専従員であると否とを問わず,常に捜査関係法令の研究および捜査に関する知識技能の習得に努め,捜査方法の工夫改善に意を用いなければならない。

(備忘録)
第十三条  警察官は,捜査を行うに当り,当該事件の公判の審理に証人として出頭する場合を考慮し,および将来の捜査に資するため,その経過その他参考となるべき事項を明細に記録しておかなければならない。

(捜査の回避)
第十四条  警察官は,被疑者,被害者その他事件の関係者と親族その他特別の関係にあるため,その捜査について疑念をいだかれるおそれのあるときは,上司の許可を得て,その捜査を回避しなければならない。

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