法律の周辺

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流れを変えた滝井補足意見について

2006-11-05 19:34:24 | Weblog
滝井元最高裁判事:空前の利益…高利で自殺者,疑問に MSN毎日インタラクティブ

 「滝井さんが退官した翌日の10月31日,政府は,グレーゾーン金利を撤廃し,多重債務者救済につながる貸金業規制の関連法改正案を国会に提出した。」という結びが淡々として実にいい。毎日のインタビューに拍手。
滝井氏,在野にあって,ますますご活躍される方では。

 記事には,「流れ決めた1月の最高裁判決」とある。しかし,その契機となったのは,やはり,最判H16.2.20(SFCG判決)の滝井補足意見といってよいように思われる。以下は,その全文。

 私は,法廷意見に賛成するものであるが,利息制限法と法43条1項との関係についての論旨にかんがみ,この点についての私の意見を補足して述べておきたい。
 法43条1項は,債務者が利息制限法を超える利息を支払った場合であっても,その支払が任意に行われ,かつ,貸金業者が法所定の業務規制に従って法17条及び18条各所定の要件を具備した書面を債務者に交付しているときは,その支払を例外的に有効な利息の債務の弁済とみなしている。
 ここで任意の弁済とは,債務者が自己の自由な意思に基づいて支払ったことをいうべきところ,本件のような天引きが行われたときは,債務者が天引き分を自己の自由な意思に基づいて利息として支払ったものということはできないから,この点からも,天引きされた部分に関する限り法43条1項の適用を受けることはできないものといわなければならない。
 また,本件各貸付の中には,取引21,23,27,30の各貸付けのように,元本の弁済期を契約日の約5年後とした上で,その間,利息の制限額を超える部分を含む利息等を1か月ごとに前払することとし,その支払を怠れば,期限の利益を失い,債務全額を即時弁済することを求められるとともに,年40.004%の割合による損害金を支払わなければならないとの内容の条項を含んだ取引約定書を用いているものがある。
 このような条項を含む取引においては,約定に従って利息の支払がされた場合であっても,その支払は,その支払がなければ当初の契約において定められた期限の利益を失い,遅延損害金を支払わなければならないという不利益を避けるためにされたものであって,債務者が自己の自由な意思に従ってしたものということはできない。
 このような期限の利益喪失条項は,当事者間の合意に基づくものではあるが,そのような条項に服さなければ借り入れることができない以上,利息制限法の趣旨に照らして,この約定に基づく支払を任意の支払ということはできないものというべきである。
 また,法43条1項の規定が,利息制限法上無効となる約定に従ってされた利息の支払であっても,金融業者が厳格な遵守を求められている前記業務規制に従って法17条及び18条各所定の要件を具備した書面を債務者に交付している場合に限ってその任意の支払を有効な利息の債務の弁済とみなす旨を定めていることなどから,その適用要件の解釈を厳格にすべきことは法廷意見の指摘するとおりである。このような,法43条1項の規定の趣旨からすると,17条書面及び18条書面には,単に所定の事項がすべて記載されていなければならないというにとどまらず,所定の事項が正確かつ容易に債務者に理解できるように記載されていることが求められているものといわなければならない。
 以上によれば,17条書面は,本来,一通の書面によるべきものである。そして,法17条1項が債務者に同項所定の事項についての正確な認識を得させることを目的とするものであることを考慮すると,例外的に複数の書面によらざるを得ない場合であっても,各文書に所定の事項がすべて記載されていることはもとより,各文書間の相互の関連が明らかになっていて,その記載内容が債務者に正確かつ容易に理解し得るようになっていなければならないというべきである。
これを本件についてみると,本件各貸付けの中には,契約時に上告人に交付された本件各借用証書控えには,約1か月後に元本を一括弁済するとの定めがあるものの,別に交付された本件各承諾書写しには,被上告人が認めた場合には,別途送付される取引明細書記載の利息を支払うことを条件に,所定の期間継続取引ができるとの約定をした上で,この約定によって1か月ごとの取引の延長を繰り返しているものが少なくない。
 上記の約定に基づいて弁済期が延長された場合は,契約内容に変更があったものとみるべきであって,その変更内容を記載した17条書面の交付が必要であると解されるところ,本件においては,被上告人は,17条書面として,これを記載した書面を上告人に交付していない。もっとも,本件では弁済期の10日前ころに,被上告人から上告人に当該借入金に係る1か月分の前払利息等の銀行振込みを求める本件各取引明細書が送付されていることから,上告人は,それによって所定の日までに所定の利息等を振り込めば弁済期が延
長されることを理解し得るものの,振込みが所定の期日に遅れた場合又は所定の金額に足りない振込みが行われた場合には,上告人は,その次の前払利息を催告する際に送付される本件各取引明細書に前回の支払の充当関係が記載されているのを見るまでは,弁済期が延長されたかどうかを知ることはできないのである。このような点を考慮すると,上記の本件各借用証書控え,本件各承諾書写し,本件各取引明細書は,その相互の関連が必ずしも明らかではなく,これらの書面によって,上告人が法17条1項所定の事項を正確
かつ容易に理解し得るかは疑問であり,また,17条書面が遅滞なく交付されたとみることもできない。
 したがって,上記各書面の交付によっては,法17条1項所定の要件を具備した書面の交付があるとはいえないから,法43条1項所定の要件を備えているものとはいえないものというべきである。


 しかし,こうして考えてみると,利息制限法の趣旨を骨抜きにした貸金業規制法を制定した国会の責任,重い。

判例検索システム 平成18年01月13日 貸金請求事件


「貸金業の規制等に関する法律」の関連条文

(書面の交付)
第十七条  貸金業者は,貸付けに係る契約を締結したときは,遅滞なく,内閣府令で定めるところにより,次の各号に掲げる事項についてその契約の内容を明らかにする書面をその相手方に交付しなければならない。
一  貸金業者の商号,名称又は氏名及び住所
二  契約年月日
三  貸付けの金額
四  貸付けの利率
五  返済の方式
六  返済期間及び返済回数
七  賠償額の予定(違約金を含む。以下同じ。)に関する定めがあるときは,その内容
八  日賦貸金業者である場合にあつては,第十四条第五号に掲げる事項
九  前各号に掲げるもののほか,内閣府令で定める事項
2  貸金業者は,貸付けに係る契約について保証契約を締結しようとするときは,当該保証契約を締結するまでに,内閣府令で定めるところにより,次に掲げる事項を明らかにし,当該保証契約の内容を説明する書面を当該保証人となろうとする者に交付しなければならない。
一  貸金業者の商号,名称又は氏名及び住所
二  保証期間
三  保証金額
四  保証の範囲に関する事項で内閣府令で定めるもの
五  保証人が主たる債務者と連帯して債務を負担するときは,その旨
六  日賦貸金業者である場合にあつては,第十四条第五号に掲げる事項
七  前各号に掲げるもののほか,内閣府令で定める事項
3  貸金業者は,貸付けに係る契約について保証契約を締結したときは,遅滞なく,内閣府令で定めるところにより,当該保証契約の内容を明らかにする事項で前項各号に掲げる事項その他の内閣府令で定めるものを記載した書面を当該保証人に交付しなければならない。
4  貸金業者は,貸付けに係る契約について保証契約を締結したときは,遅滞なく,内閣府令で定めるところにより,第一項各号に掲げる事項について当該貸付けに係る契約の内容を明らかにする書面を当該保証人に交付しなければならない。貸金業者が,貸付けに係る契約で保証契約に係るものを締結したときにおいても,同様とする。

(受取証書の交付)
第十八条  貸金業者は,貸付けの契約に基づく債権の全部又は一部について弁済を受けたときは,その都度,直ちに,内閣府令で定めるところにより,次の各号に掲げる事項を記載した書面を当該弁済をした者に交付しなければならない。
一  貸金業者の商号,名称又は氏名及び住所
二  契約年月日
三  貸付けの金額(保証契約にあつては,保証に係る貸付けの金額。次条,第二十条及び第二十一条第二項において同じ。)
四  受領金額及びその利息,賠償額の予定に基づく賠償金又は元本への充当額
五  受領年月日
六  前各号に掲げるもののほか,内閣府令で定める事項
2  前項の規定は,預金又は貯金の口座に対する払込みその他内閣府令で定める方法により弁済を受ける場合にあつては,当該弁済をした者の請求があつた場合に限り,適用する。

(任意に支払つた場合のみなし弁済)
第四十三条  貸金業者が業として行う金銭を目的とする消費貸借上の利息(利息制限法 (昭和二十九年法律第百号)第三条 の規定により利息とみなされるものを含む。)の契約に基づき,債務者が利息として任意に支払つた金銭の額が,同法第一条第一項 に定める利息の制限額を超える場合において,その支払が次の各号に該当するときは,当該超過部分の支払は,同項 の規定にかかわらず,有効な利息の債務の弁済とみなす。
一  第十七条第一項(第二十四条第二項,第二十四条の二第二項,第二十四条の三第二項,第二十四条の四第二項及び第二十四条の五第二項において準用する場合を含む。以下この号において同じ。)の規定により第十七条第一項に規定する書面を交付している場合又は同条第二項から第四項まで(第二十四条第二項,第二十四条の二第二項,第二十四条の三第二項,第二十四条の四第二項及び第二十四条の五第二項において準用する場合を含む。以下この号において同じ。)の規定により第十七条第二項から第四項までに規定するすべての書面を交付している場合におけるその交付をしている者に対する貸付けの契約に基づく支払
二  第十八条第一項(第二十四条第二項,第二十四条の二第二項,第二十四条の三第二項,第二十四条の四第二項及び第二十四条の五第二項において準用する場合を含む。以下この号において同じ。)の規定により第十八条第一項に規定する書面を交付した場合における同項の弁済に係る支払
2  前項の規定は,次の各号に掲げる支払に係る同項の超過部分の支払については,適用しない。
一  第三十六条の規定による業務の停止の処分に違反して貸付けの契約が締結された場合又は当該処分に違反して締結された貸付けに係る契約について保証契約が締結された場合における当該貸付けの契約又は当該保証契約に基づく支払
二  物価統制令第十二条 の規定に違反して締結された貸付けの契約又は同条 の規定に違反して締結された貸付けに係る契約に係る保証契約に基づく支払
三  出資の受入れ,預り金及び金利等の取締りに関する法律第五条第二項 の規定に違反して締結された貸付けに係る契約又は当該貸付けに係る契約に係る保証契約に基づく支払
3  前二項の規定は,貸金業者が業として行う金銭を目的とする消費貸借上の債務の不履行による賠償額の予定に基づき,債務者が賠償として任意に支払つた金銭の額が,利息制限法第四条第一項 に定める賠償額の予定の制限額を超える場合において,その支払が第一項各号に該当するときに準用する。

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