今日は朝から忙しなく、滑稽な:愛あふれる一日だった。まず息子のAが8時に来るというので7時ごろから朝食の準備を始める。辛うじて残っている会社の仕事をする前に彼と食事をすることは俺のやすらぎになっている。と言っても今日は全てお取り寄せ品で揃えてみた。メインは例の高級鮭、それに野菜を添える。それから屋久島のトロロに卵の黄身を入れて、海苔は九段の増辰、味噌汁もかわむらのしじみ汁だ。ちょっと前は出前のトンカツ定食をとっていたんだけど、下手をするとこっち方が値段がはるかもしれない。12時には40年前に知り合った、神戸在住の当時S女子大生だったK子さんが会いに来てくれる。出会った当時は彼女は令嬢だし、俺は売れない脚本家だし、話す話題に困っていた筈なのに、現在俺は76歳、彼女は62歳。お互い病気を抱えていることもあって、話題はよく見かける年寄り同士のように病気の話になってしまって、折角会いに来てくれたと云うのに勿体ないことをしたと思うけど、彼女の方は深刻な病い故、致し方がないこと。対照的に俺の方は滑稽さあふれる病いで、彼女をドアの処まで出迎えた時に何かの拍子で足腰が崩れて、その場に座り込み立ち上がれなくなってしまった。深刻な病いを患う彼女の手助けはさすがに頼りなく、俺が何とか自力で起き上がるのに30分以上掛かってしまった。数週間前の山椒魚事件のように真っ裸でなかったことをせめてもの慰めだ。彼女が神戸に帰った後、4時にはリハビリ療養士のTさんが来訪。昼間の事件のことを話すと山椒魚事件のこともあるし、足より腰が弱っているとの診断で、腰を強く、つぎに柔らかく揉んでもらう。地獄と天国が交互するマッサージ。だんだんだんだん眠りに誘われて。目覚めたのは6時過ぎ。いつ帰ったのか既にTさんの姿はない。それでも腰を揉んでくれたTさんの指の感触「指圧愛」は残っていて、俺はその愛の香りを覚えながらR子さんがお土産にくれた神戸の山椒をご飯粒に振りかける。