別れ惜しむ患者、いや“信者”が殺到 兵庫・但馬の名物ベテラン男性医師が引退
田村さんは1972年に鳥取大学医学部を卒業。専門は消化器外科で、新温泉町や福岡市などの病院で勤務した後、86年4月、公立香住病院に配属された。
2000年4月には院長に就任したが、夢だった船医になるため、03年に退職。豪華客船の船医として、世界一周も経験した。
そんな折、新しい臨床研修医制度の影響で深刻な医師不足に陥っていた同病院から、「外科医がいなくなる」とSOSが。第2のふるさとの窮状に胸を痛めた田村さんは06年10月、59歳で再び香住へ。13年に定年退職した後も、嘱託で週5日の診察を続けてきた。
偉ぶらず、親身な診察で住民らに慕われた。担当の看護師が、田村さんの患者を“信者”と呼んでしまうほど、心酔する人も続出した。暇さえあれば香住の町歩きを楽しむ姿も、地元ではおなじみだった。
しかし昨年末ごろから体力の限界を感じるようになり、引退を決めた。最後の診察には、田村さんとの別れを惜しむ“信者”が殺到。「顔だけ見にきた」という人や、「せめて私の死に水を取ってからにしてくれ」と懇願する人の列が途切れず、診察室には悲喜こもごもが渦巻いた。
「残る先生たちには負担を増やすことになり、申し訳ない」と話す田村さん。多くの人に引き留められたといい、「惜しまれて去れるなんて、医師としてありがたいことです」と香住での歳月をかみ締めている。