読書など徒然に

歴史、宗教、言語などの随筆を読み、そのなかで発見した事を書き留めておく自分流の読書メモ。

“12人目の選手”

2011-07-19 08:27:32 | 新聞
wsj日本版から
10年後の語り草になるにはドラマが不可欠だと知っているかのように、米国チームは平凡な試合よりも神経をすり減らすような試合を、安全よりも危険を好み、あえて苦しい道のりを歩んできた。

 何度も危ない橋を渡ってきた米国女子サッカーチームだが、ついに命運が尽きてしまった。日本が米国をPK戦で下し、女子W杯で初優勝を果たした。これは3月に大震災に襲われ、復興過程にある日本にとって特にうれしい勝利となった。

 米チームのフォワード、アビー・ワンバックは「日本には『念願と希望』という強力な”12人目”のプレーヤーがいた」と語った。「彼らは絶対あきらめなかった」

 プレーでは試合終了までの90分も、30分の延長戦のほとんどでも米国が圧倒した。

 試合終了まで残り9分の時点では1-0でリードしていた。延長戦残り3分の時点でも2-1でリードしていたが、日本のキャプテン沢穂希がコーナーキックからのボールをうまく手前のポストの内側に押し込み、再び同点とした。

 このゴールでシーソーゲームの決着は危険なPK戦に持ち越されることになった。1人目、2人目、3人目、米国の選手がゴールから11メートルの距離のペナルティキックを外す。1人目のシュートは日本のゴールキーパー海堀あゆみの足に阻まれる。2人目のカーリー・ロイドはクロスバー上に外す。3人目トビン・ヒースのシュートは右に飛んだ海堀の両手に収まった。日本人4人目、熊谷紗希のゴールが日本に勝利をもたらすことになった。

 米国にとっては、フラストレーションに満ちた試合にふさわしい幕切れだった。ミーガン・ラピノエからのロングパスを受けたアレックス・モーガンが左足のシュートでゴールネットを揺らすまで、米国チームは再三のチャンスを逃したり、クロスバーに嫌われたりした。

 最初のゴールのあと、米国チームは勝利に向かって突き進んでいるように見えたが、81分に不運に見舞われた。ディフェンダーのレイチェル・ビューラーとアリ・クリーガーがゴール前でクリアし損ねたボールがミッドフィルダー宮間あやの前に転がった。米国のゴールキーパー、ホープ・ソロは定位置から離れていた。宮間は無人のゴールにボールを押し込んだ。

 その12分後、試合は延長戦に突入し、米国チームは目指していた勝利を手中に収めようとしていた。104分、アビー・ワンバックの比類なき額がモーガンからのクロスをゴールに押し込んだ。ワンバックが試合終了間際にヘディングシュートを決めるのは、ここ3試合で3度目だった。

 その直後、ワンバックはコーナーフラッグまでダッシュした。その喜び方は勝利を確信したかのようだった。

 しかし、W杯5度目の出場となる沢が、またしても日本チームを救った。

 米国チーム前監督のトニー・ディチコ氏は「日本はただ勝つためだけではなく、国の復興のためにプレーしていた」と指摘し、さらにこう続けた。「そういった対戦相手は決まって非常に危険なものだ」

 この試合までの米国と日本の対戦成績は22勝0敗3分けという一方的なものだった。今年もすでに3勝しており、その3試合の得点の合計は6-1だった。

 日本は実力があるチームだが、W杯の優勝候補に挙げられるような強豪ではなかった。今大会以前の16試合ではわずか3勝しかしておらず、準々決勝に進んだのも1度きりだった。

 準々決勝で優勝候補のドイツを相手に大金星を上げる前のグループステージでは、ニュージーランドに苦戦し、イングランドに負けている。

 この試合における米国チームの2つの目標は、日本のポゼッションサッカー(ボールのキープ率が高い戦術)のリズムを崩すことと、日本の小柄なミッドフィルダーでキャプテンでもある沢に思い通りのプレーをさせないことだった。この2点についてはほぼ成功しており、プレーでもここ3試合ではなかったぐらい圧倒していたが、なかなか得点に結びつかなかった。

 米国チームがミスを積み重ねていくに連れ、奇蹟を信じて必死に食い下がっていた日本チームは自信を取り戻していった。

 日本チームは今大会の全試合前に、『世界中の友人たちへ ご支援に感謝します』と書かれた横断幕を広げていた。

記者: Matthew Futterman