読書など徒然に

歴史、宗教、言語などの随筆を読み、そのなかで発見した事を書き留めておく自分流の読書メモ。

ミシュランガイドの日本最高評価に疑問

2010-11-06 10:01:19 | 暮らしの中で

仏タイヤメーカー、ミシュランの飲食店ガイドブック最新版は、関西のレストランに最高の栄誉である三つ星を惜しみなく与えた。このようなミシュランの高い評価について、欧米やさらには日本のシェフからも疑問と不満の声があがっている。

先月22日に発売された511ページのレストランガイドブック「ミシュランガイド京都・大阪・神戸2011」は、この地域のレストランに最高の栄誉である三つ星を授与した。これによって関西3都市は、東京(三つ星レストラン11軒)、パリ(同10軒)、ニューヨーク(同5軒)を追い抜き、世界一のグルメ都市という称号を手に入れた。

 今のところ、世界最多の星を獲得している国はフランスだが(三つ星レストラン26軒)、来月発売される「ミシュランガイド東京2011」では順位が変わっているだろうと関係筋は語る。日本が世界一の美食の国として認められる瞬間はもうすぐだ。

 日本が星を多く獲得したことに、プライドの高い欧米の批評家や高級レストランのシェフからは不満の声が上がっている。ミシュランは、レストランを高く評価することでブランド志向で親仏的な日本に良い印象を与え、ガイドブックだけでなく、車のタイヤも買ってもらおうとしているとの見方もある。

 ニューヨークの三つ星レストラン、高級フレンチ「ダニエル」のシェフ、ダニエル・ブリュー氏は「ミシュランガイドにとって、実に効果的な宣伝手法だ」と話す。

 多くの日本人シェフ、特に関西地方のシェフは、これほど注目されたことはないと語る。こうしたシェフにとっては、一つ星の評価でさえも恨みの対象になり得る。シェフたちはこう考えている ― 「店はお得意様のもの。なぜ大勢の一見客に料理を出さなければならないのだ。ましてや不心得な外国人客など論外だ」

 大阪市の魚介料理店「魚菜処 光悦」の若き店主、原田実氏は、ミシュランガイドに取り上げられることはたいへんな名誉としながらも、掲載を断ったことを明かした。「光悦」は、今回初めて一つ星を獲得した。原田氏は、新規顧客が大勢押し寄せてきたら、この店を何年も支えてくれている常連客の足が遠のいてしまうと説明する。

 「光悦」はカウンターと10席のみの家庭的な雰囲気の店だ。先週の昼食時、同店のカウンターの上には顧客向けの弁当と一緒に、山積みの食材や野菜の煮物の入った容器、新聞に包まれた魚などが並んだ。

 フランスの星付きレストランからすれば、非衛生的ととられかねない光景だが、顧客に気にする様子はない。弁当のおかずを口に運びながら、原田氏と静かに言葉を交わしている。

 会社の幹部とおぼしき中年男性の常連客は「本当においしい」と舌鼓を打つ。

 ミシュランの評価は正しいのだろう。だが一方で同社は、主要事業を盛り上げるために格付けを甘くしたと批判する声もある。

 「簡単なことだ。日本人をほめて、心をつかみ、財布のひもを緩めてタイヤを買ってもらうこと。それが狙いだ」 — 元ミシュランの調査員で「L'Inspecteur se Met à Table(『裏ミシュラン―ヴェールを剥がれた美食の権威』)」"の著者、パスカル・レミ氏はこう語る。

 インタビューでレミ氏は、ミシュランは02年からガイドブックを海外市場で同社の知名度を上げるために利用するようになり、それにともなって評価基準を下げたと語った。レミ氏とミシュランの契約は03年に終了している。

 これについてミシュランは、レミ氏は同社の戦略プランには関与しておらず、07年に日本版ガイドを発売するはるか前に調査員を辞めていると反論。広報担当者は、レミ氏の主張を事実無根と全面的に否定した。同氏の退職理由は明らかにしなかった。

 ミシュランガイド総責任者のジャン=リュック・ナレ氏は、ミシュランの関心は純粋に美食にあると主張する。同氏は今週東京で行われたインタビューで、「われわれは本を売りたくてレストランに星を与えているわけではない」と語った。

 ほとんどの欧米の一流シェフが、日本のレストランのクオリティの高さとシェフの比類なき情熱を褒めたたえる。その一方で彼らは、日本のシェフについて、革新的ではあるが、古い伝統を作り直したり、海外の料理を真似する手法を使うことでよく知られていると指摘。多くの欧米のシェフは、日本のシェフが通常は直面しない課題と向き合っていると語る。彼らのレストランに期待されているのは、新境地を切り開き、比較的多数の常連客を飽きさせないメニューを提供し続けることだという。

 さらに、ロンドンの二つ星レストラン「スクエア」を経営するフィリップ・ハワード氏は、日本では三つ星評価が一部の小規模の店に与えられていると指摘する。

 ミシュランの広報担当者は日本とフランスを比較することは不可能だと説明する。「日本の星が増えたからといって、日本で提供されるフードがフランスより優れているというわけではない」と話し、レストランの数は東京が16万軒であるのに対し、パリは1万5000軒だと付け加えた。