彦根藩二代当主である井伊直孝公をお寺の門前で手招き雷雨から救
ったと伝えられる"招き猫"と、井伊軍団のシンボルとも言える赤備
え。(戦国時代の軍団編成の一種で、あらゆる武具を朱塗りにした
部隊編のこと)の兜(かぶと)を合体させて生まれたキャラクタ。
愛称「ひこにゃん」。
● 技術的特異点でエンドレス・サーフィング
特異点真っ直中 ⑯
ここ数年の科学技術進展に驚く昨今。今日も気になる事例を摘出。
📑植物の狙った一細胞で遺伝子発現を誘導できる技術
6月8日、横浜市立大学・横浜市立大学・基礎生物学研究所・龍谷大
学の共同研究グループは、植物体の中の任意の一細胞で特定の遺伝
子発現を誘導することができる技術の確立に成功。
【要点】
1.植物体の中の任意の一細胞で特定の遺伝子発現を誘導すること
ができる技術を確立
2.狙った一細胞での遺伝子発現のON・OFFやゲノム編集なども可能
になることが想定され、植物多細胞組織での細胞と細胞のやりと
り(細胞間相互作用)を介したさまざまな生命活動のメカニズム
をこれまでにない精細さで理解できるようになることや、この技
術を用いた全く新しい研究手法の開発や品種改良につながる新た
な研究技術の開発など期待できる。
植物でのオプトジェネティクスに新時代到来
【概要】
多細胞生物である植物や動物は、からだを構成するたくさんの細胞
同士がオーケストラのように協調して働くことで生きている。受精
卵から個体が形作られていく過程も細胞間の相互作用が必要であり、
また、さまざまなストレス応答も同様。一般に、生命の設計図であ
る遺伝子一つ一つの機能は、その遺伝子が機能しない状態になった
生物(機能欠損変異体)を調べることで理解されてきた。一方で、
「無い状態」からその機能を予測するだけでなく、「ある状態」を
調べなければわからないことも多々あるため、その遺伝子を全身で
過剰に発現させるなどして、その影響を調べることも行われている。
➲多細胞生物の中で、どの細胞がどんな役割を果たしているのか
は生物学の中では古くからある大きな疑問であっあ。これは現代生
命科学で言えば、どの細胞で、どの遺伝子が、どんな役割を果たし
ているかということになる。遺伝学が発展しても、特定の遺伝子の
全身的な欠損や過剰発現だけではこういった細胞間の相互作用はな
かなかわからず、古くからキメラ*の作成などで各細胞の役割解明が
試みられてきた。近年では、遺伝子組換え技術を用いて、特定の遺
伝子をある特定の細胞種でのみ発現させたり、化学物質など特定の
刺激に応じて局所的に発現させる技術が大きな役割を果たしてきた
が、それでも細胞種の制限や化学物質処理技術の限界などもあり、
一細胞レベルで遺伝子発現を制御することは困難だった。近年、動
物分野では、植物由来の光受容体を人為的に改変して動物細胞で発
現させた上で特定の波長の光を一細胞などの局所に照射することに
より、一細胞レベルで遺伝子発現をコントロールするオプトジェネ
ティクス*が隆盛となっていたが、元々それら受容体を持つ植物では
可視光を使ったオプトジェネティクス技術の利用は困難を極めてい
た(上図1)。
➲一方、、顕微鏡視野下で標的一細胞に赤外レーザーを照射する
ことができるIR-LEGO(Infrared laser-evoked gene operator:赤外レーザ
誘起遺伝子発現操作法)装置を開発し、さまざまな動植物種におい
て標的となる一細胞でヒートショックを誘導して熱応答性プロモー
ター制御下で目的の遺伝子発現を誘導する技術を確立。この技術は、
遺伝子組換え生物を構成する単一細胞を赤外レーザで加熱すること
により、導入した熱ショックプロモーター支配下の任意の遺伝子を
任意の時間に誘導する方法を確立。
➲この技術は、動物はもちろん、植物での新たなオプトジェネテ
ィクス技術として期待されていたが、植物特有の細胞壁を持った大
きな細胞サイズなどの課題もあり、標準プロトコールのようなもの
もなく、誰もが使える状態ではなかった。また、植物分野で汎用さ
れていた熱応答性プロモーター(HSP18.2プロモーター)が定常時に
も一部の細胞で活性を持っていたために、特に、誘導して機能を調
べようとしている遺伝子が成長や形態に悪影響を与えたり、細胞毒
性を持っている場合など、非誘導時の望まない遺伝子発現が問題と
なる課題もあった(図1)。
➲このような中、本共同研究グループでは、
1)従来よりも熱応答により特化した熱誘導性プロモーター領域(
pHSP18.2v2)の発見、
2)ステロイドホルモン受容体融合型CRE組換え酵素とloxP配列の利
用。
3) 数多くの試行データからデータサイエンス的技法を用いての最
適なレーザー出力値の予測、の3点を融合させることで モデル植物
であるシロイヌナズナでの再現性の高い標的一細胞遺伝子発現誘導
プロトコールを確立(図2)。
図2.シロイヌナズナにおけるpHSP18.2v2媒介CRE-GR/loxPシステ
ムの特性評価。 (A) この研究で使用したドライバーおよびレポ
ーター コンストラクトの概略図。 ドライバー構築物では、CRE-
GR 融合遺伝子は pHSP18.2v2 により駆動される。 VENUS レポー
ター構築物では、p35S および転写ターミネーターが続く VENUS
遺伝子の小胞体常在型が、2つの loxP 部位に隣接する二重転写
ターミネーターを含む配列によって破壊された。 CREリコンビナ
ーゼ活性の存在下では、紫色のバーで示される2つのloxP部位に
隣接する領域が除去され、その後VENUSが発現された。 (B) さま
ざまな処理後のドライバー構築物とレポーター構築物の両方を含
むトランスジェニック実生の画像。 通常の 1/2MS 培地 (-DEX)
または DEX を含む 1/2MS 培地 (連続) で生育した 2 系統の 3
本の苗木を、23℃ (室温; RT) で 60 分間、または 37℃ (HS)
で 10 分間、または 37℃ (HS) で 60 分間。 温度変化実験(24
時間)の前日に、一組の苗をDEXを含む1/2MS培地に移し、同じ処
理を行った。すべてのサンプルをさらに 23℃ 連続光下で一晩(
インキュベートし、蛍光実体顕微鏡を使用して写真を撮影した。
この実験を 2 回繰り返したが、同様の結果が得られた。代表的
な実験セットからの明視野 (BF) および VENUS 画像を図示 (C)
37℃で60分間処理した苗の系統#3-7の葉組織(C、D)および系統#3-
3(D)の根組織の拡大共焦点画像の最大強度投影。画像は、(B) と
同様に一晩インキュベートした後に撮影された。 VENUS、クロ
ロフィル由来の自家蛍光、および合成画像 (C)、および VENUS、
BF、および合成画像 (D) を示す。スケール バーは 2.5 mm (B)、
75 μm、(C)、および 250 μm (D) を表す。
図3.根の表皮細胞への IR レーザー照射後の VENUS 発現効率。
(A、B) IR レーザー照射後の VENUS 発現パターンの分布
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本手法で用いた、ヒートショックとステロイドホルモンという二重
ロック機構によるゲノム組換えシステムは、研究の妨げになってい
た非誘導時の望まない遺伝子発現が検出限界以下であり、植物体の
中の狙った一細胞でのさまざまな機能を持った遺伝子発現のON・OFF
制御はもちろん、一細胞レベルでのゲノム編集などに応用されるこ
とが期待されます。また、実データからのデータサイエンスに基づ
く解析は、細胞サイズごとの適切なレーザー出力値も予測しており
大小さまざまなサイズバリエーションを持つ植物細胞を実験対象に
する上での重要な指針も示しており、植物を用いたオプトジェネテ
ィクスの標準プロトコールとなる。
➲以上のように、本成果は、植物分野ではまだ発展途上の技術で
あるオプトジェネティクスの重要なブレークスルーとなるものであ
ると言える。尚、本研究は以下に示す研究費(主要なものを抜粋)
による成果である。
【関連技術情報】
1.論文情報:①原題:Targeted single-cell gene induction by optimiizng
the dually regulated CRE/loxP system by a newly defined heat- shock
promoter and the steroid hormone in Arabidopsis thaliana
②掲載誌:Frontiers in Plant Science 5 June 2023 Volume 14 - 2023
③ DOI:doi.org/10.3389/fpls.2023.1171531
2.キメラ:異種の細胞や同種で系統の異なる細胞が混ざった状態
の体をもつ生物。接ぎ木も異なる植物を繋いでいる場合は一種の
キメラと言える。
3.オプトジェネティクス:光で細胞状態を変化させるような外来
遺伝子を導入して発現させ、光によって細胞状態を操作する実験
技術の総称。光遺伝学ともいう。可視光を利用して動物の神経細
胞などを操作する技術を指す場合が多い。本研究では目に見えな
い赤外光を利用する技術開発を進めることで、オプトジェネティ
クス分野の発展に貢献することも目的の一つである。
4.IR-LEGO(Infrared laser-evoked gene operator:赤外レーザ誘起遺
伝子発現操作法及び装置:産業技術総合研究所の弓場俊輔博士を
中心とした研究チームによって世界初の技術。この技術は遺伝子
組換え生物を構成する単一細胞を赤外レーザで加熱で、導入した
熱ショックプロモーター支配下の任意の遺伝子を任意の時間に誘
導する方法。実験対象とする生物は、その内部に赤外レーザが集
光でき、熱ショックプロモーターが機能するような遺伝子組換え
生物であれば、特に生物種を選ばない上に、レーザによる光毒性
が無いことからその効果に高い再現性も有し、今後、遺伝子機能
を探る新しいツールとして普及が期待されている。
脳血管が脱落する!?アルツハイマー病の治療研究 最前線
アルツハイマー病は脳の神経障害によって認知機能が低下する病気
だが、この病気を“脳血管障害”ととらえる研究が注目されている
という(「アルツハイマー病は脳の神経障害によって認知機能が低
下する病気だが、この病気を“脳血管障害”ととらえる研究」2023.
6.4. NHK)。
1.脳の血管:まず。脳の重さは体全体のたった2%ほど、血流量
で見ると体全体の15%も流れ込み、脳は“血管のかたまり”と言
われるほど、血液を必要とする臓器。新潟大学脳研究所で、脳血
管の知られざる姿を捉える研究がおこなわれている(アルツハイ
マー病は“脳血管障害”!? 認知症の原因・治療法 最新研究
サイエンスZERO - NHK)。
2.光シート顕微鏡:亡くなった患者の脳を組織診断のために病理
解剖し、認知症をはじめとした脳の病気の原因を研究。下の写真
が実際の人の脳の一部。1cmほどに切り出され、特殊な処置で透
明にされたもので、これをある装置で見ると血管が見えてくる。
画像:人の脳の一部
その装置とは、最新鋭の顕微鏡 “光シート顕微鏡”。通常の蛍光
顕微鏡は、光が1点から狭い範囲に当てられるため薄く切った標本
しか撮影できず、脳の血管を平面で観察。サイズの大きい標本を撮
影には標本を薄く連続した切片に切り分ける必要があり、膨大な手
と時間を要すが、光シート顕微鏡では光を薄く広げたシート状に照
射することができるため、標本の平面像を直接撮影することができ
ず、それを垂直方向に何枚も積み重ねることで脳血管を高速で立体
的に観察できる。
新星渦 4次産業形成!知られざる脳血管の姿
解った!認知機能の低下と脳血管障害
一方、認知機能が低下していた患者の脳血管。黄色で示した動脈が
ブツブツと切れ、血管が脱落。血管が脱落すると、その部分から先
の血流が悪くなり、その状態が続くと障害が及び認知症になること
がわかっている。アルツハイマー病やパーキンソン病でも、このよ
うな脳の微小血管の障害、変性がリスクファクターの一つであると。
脳から切り出した切片で比較すると毛細血管が約30%減少する事例も
あるが。その原因物質がアミロイドβはアルツハイマー病の原因物
質の一つとされるタンパク質。これにより、“脳アミロイド血管症”
と言われ、アルツハイマー病の人の9割近く起き、血管の壁がアミ
ロイドβで血管が詰まってしまうが、血管平滑筋(筋肉細胞)の収
縮で、アミロイドβが血管の壁を流れ、脳から外に出るが、加齢や
生活習慣病などによって血管が硬くなり血管平滑筋の働きが悪くな
ると、アミロイドβを排出する力が低下。アミロイドβが血管の壁
にたまり、加齢や生活習慣病などによって血管が硬くなり血管平滑
筋の働きが悪くなると、アミロイドβを排出する力が低下。アミロ
イドβが血管の壁にたまる。
アルツハイマー病 超音波治療の研究
2022年11月に行われた「日本認知症学会学術集会」でアルツハイマ
ー病に対し「超音波」を使う「低出力パルス波超音波(LIPUS)」と
いう特殊な弱い超音波を使う治療法新たな治療法が公表されている
が、これは、超音波治療では、アルツハイマー病の患者さんの脳に
特殊な弱い超音波を当てて、脳血管の細胞を刺激します。すると血
管を広げる作用のある「一酸化窒素・NO」などが出され、脳の細い
血管の障害が修復される。この超音波治療の研究は現在、治験の第
二段階(探索的治験)が終了したところで、2023年の夏ごろに被験
者の数や施設数を増やした大規模な検証的治験が開始される予定。
【関連技術情報】
1.ライトシート顕微鏡:共焦点レーザー顕微鏡や2光子顕微鏡と
同じく、光学切片を得ることで3次元、4次元(XYZT)の
蛍光像を撮る顕微鏡である。しかし、ライトシート顕微鏡は側面
から光を当てる点が他とは大きく異なる。
図1.ライトシート顕微鏡の基本原理
この顕微鏡の長所は、一言でいえば高速さと光照射による試料ダメ
ージの少なさである。前者は(他の顕微鏡がポイントスキャンなの
に対して)基本的に面で撮影していること、後者は観察したい平面
にしか励起光を当てていない、照射エネルギーの少なさによる。こ
の高速性を生かすと、原生動物の運動など非常に速い現象のイメー
ジングが可能になる。また透明化した巨大な試料を見るのにも適し
ている。透明化した試料は奥まで見えるためZスキャンの回数が非
常に多くなり、かつ巨大な試料でタイリング撮影を行うと、ポイン
トスキャンでは何時間もかかってしまうからである。光によるダメ
ージの小ささは、たとえば光毒性がよく問題になる発生現象のライ
ブ観察ではライトシート顕微鏡を使えば光毒性をあまり気にせず時
間解像度を上げることができる。一方で、空間分解能については共
焦点には一歩譲る。NAの大きな対物レンズを使えないせいである。
深部観察能については、体感的には共焦点顕微鏡と2光子顕微鏡の
中間である。ライトシート顕微鏡では深部は暗くならないがぼやけ
ていく。また、同一平面内でも照射光がサンプルに入る場所ではき
れいな画像が得られるのに対し、反対側では背景光の増加や縞状の
影が発生して画質は劣化する。
図1.
ナノシート酸化物半導体トランジスタ
光シート顕微鏡だけではない。6月7日、東京大学生産技術研究所小
林 正治准教授と、 奈良先端科学技術大学院大学 物質創成科学領
域 浦岡行治教授らによる 共同研究グループは、原子層堆積法を
用いて酸化物半導体のナノ薄膜を成膜する技術 により 低温で形成
可能なナノシート酸化物半導体をチャネル材料とする高性能で高信
頼性なトランジスタ開発に成功する (図 1) 。
【要点】
1.ナノシート状の酸化物半導体を用いて高性能・高信頼性なトラ
ンジスタを開発
2.原子層堆積法により極めて薄い酸化物半導体の成膜方法を開発
しデバイス集積
3.半導体の高集積化とそれによる高機能化により、ビッグデータ
を利活用する社会サービスの展開に期待
【概要】
半導体は大規模集積化が進められており,現在,三次元集積化によ
り,さらなる高集積化と高機能化が進もうとしている。従来のシリ
コン基板上に形成される半導体集積回路の配線層にトランジスタを
形成することで,高機能回路を三次元積層して高集積化することが
できる。そのためには低温で形成できる半導体材料が必要であり,
また,その材料を用いたトランジスタは高集積化のために微細化し
ても高性能・高信頼性を有する必要がある。酸化物半導体は,これ
までフラットパネルディスプレーで用いられてきた半導体材料だが
半導体集積回路への応用にはナノ薄膜の均一な成膜が必要であり,
また,それを用いた高性能・高信頼性なトランジスタ技術の開発が
望まれていた。原子層ごとに成膜が可能で,均一な膜厚が得られる,
原子層堆積法による酸化物半導体のナノ薄膜の成膜方法を開発し,
ナノシート酸化物半導体をチャネル材料とする高性能で高信頼性な
トランジスタを開発。
【展望】
原子層堆積法による酸化物半導体のナノ薄膜の均一な成膜が可能と
なった。研究グループは今後,高移動度で高信頼性な酸化物半導体
ナノ薄膜の開発を推進し,微細なトランジスタや三次元構造のトラ
ンジスタへと展開し,半導体の三次元高集積化に資する研究開発を
行なっていく。
✔ こうみると20年前に構想した『ネオコンバーテック』が輩出す
る事業創成に驚く。
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6月8日、魚介類などに含まれる物質「タウリン」の補充が老化防止
に有望であることを動物実験で確かめたと、米コロンビア大などの
国際チームが科学誌サイエンスで公表。タウリンは人間の体内でも
作られ、コレステロールを減らしたり、肝機能を強化したりする効
果があるとされる。栄養ドリンクの成分としても知られる。
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図1.2050年時点までの世界の太陽光発電の導入ペースの目安
今後10年間で年間導入設備量を10倍程度まで拡大させることで、持
続的な社会において必要と想定される規模の導入設備量(この例で
は2050年頃に75TW)に達する。これまでの実績と今後の見通しから
は、この目標は達成可能と示唆。
テラワットスケールの太陽光発電
世界の太陽光発電研究者からの提言
5月30日、産業技術総合研究所は独フラウンホーファー研究機構 太
陽エネルギーシステム研究所・米国国立再生可能エネルギー研究所
と合同で「The Terawatt Workshop 3」(「ワークショップ」)を開
催。3機関を中心とする世界中の専門家たちにより、テラワット(
1012ワット=10億キロワット)単位の太陽光発電が普及する時代
を迎え、気候変動を十分抑えるために必要な普及量を目指す上で必
要な事柄を検討。と合同で「The Terawatt Workshop 3」(以下「ワ
ークショップ」という)を開催した。3機関を中心とする世界中の
専門家たちにより、テラワット(1012ワット=10億キロワット)単
位の太陽光発電が普及する時代を迎え、気候変動を十分抑えるため
に必要な普及量を目指す上で必要な事柄を検討。その後、3研究機
関を中心にワークショップでの議論を論文としてまとめました。こ
の論文が2023年4月6日付のScience誌へ掲載。論文のタイトルは「
Photovoltaics at multiterawatt scale: Waiting is not an option」で、世界が
持続的な社会に向かうにあたり、今後必要な太陽光発電の普及速度
の目安や課題を提示(上図1参照)。
【要点】
1.持続可能な社会の実現に際して、世界で必要になりそうな量の
太陽光発電を導入するペースや、課題となる点を紹介
2.今後10年間ほど現在の市場成長率を保ち、普及速度をおよそ10
倍にする必要性を指摘
3.技術革新やエネルギー使用効率の向上のほか、世界的な生産拠
点の分散化など、持続可能なエネルギーシステムの実現に向けた
方策を提言
【概要】
気候変動の影響が顕在化する中、環境とエネルギーの2つの持続可
能性を早急に両立させることは、全世界的な要請であり、挑戦的な
課題。この課題の解決に際し、太陽光発電は重要な役割を担える技
術である。太陽光発電は、環境、経済性、エネルギー安定供給の点
で優位性を発揮し、主要な発電手段の一つとして普及が加速してい
る。太陽光発電の技術がさらに発達し、発電コストの大幅な低減も
進むなか、普及をいかにスムーズに進めるかが、持続的社会の実現
の鍵を握ると考えられている。
【成果】
気候変動対策として世界の温室効果ガス排出量を2050年時点で十分
に減らすシナリオは、既に世界で多数検討・報告された。その中で
必要になる太陽光発電の導入設備量の想定はシナリオによって幅が
あるが、著者らはこれら既存の検討結果を参照した上で、挑戦的だ
が実現可能と思われる値として75TWの導入設備量を想定し、必要な
普及速度の目安や、実現までの課題や留意事項をまとめた。
太陽光発電は近年、年25%前後の市場成長率を記録。この市場成長
率を10年ほど継続すると、年間約3.4TWの年間導入設備量となる。
その後は同じ年間導入設備量を維持することで、2050年に75 TWに
達するシナリオを想定。本論文ではこのようなシナリオをスムーズ
に実現するための課題や留意点として、公的機関、企業、行政府や
シンクタンクなどの持つデータや見解、学術的な知見を集約した結
果、下記のような事項を指摘。
•今後10年のうちに規模を拡大しておくのが大事である。後になっ
てから拡大しようとした場合、急激な拡大に追いつけなくなったり、
(供給能力が一時的に過大になって)持続性を欠いたりする危険性
がある。
•太陽光発電の急速な普及に追いつけるように、インフラの計画は
前向き、かつ積極的に行われなければならない。
•大量の太陽光発電を導入していく過程では挑戦的な課題も発生す
る。風力や水力との組み合わせ、送電網の増強、蓄電、デマンドレ
スポンス、水素、ヒートポンプや電気自動車との連携等、複数の戦
略を活用して解決に取り組む必要がある。
•最新の技術水準やコスト、十分な解像度をもつ電力系統のシミュ
レーションモデル、他分野の電化まで考慮した将来のエネルギー供
給システムの検討結果はいずれも、太陽光発電が大きなシェアを担
う結果を示している。
•輸送コストや供給障害のリスクを抑え、普及をスムーズに進める観
点からは、関連機器の生産拠点を一つの国や地域に集中させ過ぎな
いよう、分散させるべきである。
•発展途上国や新興国におけるエネルギーシステム拡大においては、
(安さや扱いやすさ等から)太陽光発電が第一の選択肢となる。
•リサイクルを促進する取り組みは今すぐ拡大させる必要がある。
•さらなる持続性向上のため、変換効率向上やエネルギー使用量削
減等に関する継続的なイノベーションも求められる。
•太陽光発電の普及拡大と並行して、蓄電や(水素用の)電解装置
の規模拡大も必要になる。
•建材一体型太陽光発電(BIPV)や電気自動車への充電、ソーラーシ
ェアリング(agriPV)等の新しい利用形態も有用である。
•水素、合成燃料、原料等を持続的な形で製造するには、太陽光発
電や風力発電の大規模な普及が必須である。
•次の10年間が決定的である。気候変動や大気汚染に起因するコス
トを踏まえ、幅広い電化を進め、古すぎる想定を排し、素早い変化
への対応が必要となる。
•これまでの実績と今後の見通しは、2050年に75 TWを導入する目標
が達成可能だと示唆している。(これを踏まえて、「座して待つこ
とは選択肢ではない」と論文のタイトルで表現している)。
本論文で挙げたような挑戦的な課題への対応を進めつつ、現在の市
場成長率を当面維持することで、世界のエネルギー供給体制を持続
的なものに変革していくにあたり、太陽光発電がその決定的な役割
を果たせるものと考えられます。 本論文は世界の太陽光発電の今
後の普及速度の一つの目安となると共に、関連分野との連携戦略や
研究開発方針の策定の助けになるものと期待される。
【展望】
産総研、Fraunhofer ISE、NRELの3研究機関は持続的社会の実現加速
のため、今後とも世界の太陽光発電の専門家たちと連携し、普及
加速のための分析や情報発信に取り組む。
【掲載論文】
1.掲載誌:Science、AAAS 380, 39 (2023)
DOI: 10.1126/science.adf6957
2.原 題:Photovoltaics at multiterawatt scale: Waiting is not an option
25% annual PV growth is possible over the next decade
有機ELより低コストな発光電気化学セルの動作メカニズム
6月1日、筑波大学らの研究グループは、電子スピン共鳴(ESR)法
を用い、発光電気化学セル(LEC)の動作機構を解明。有機性発光
素子の一つで、有機発光ダイオード(有機EL)と比べ構造が簡単で
柔軟性にも富むことから、印刷技術を活用するなど低コストでの製
造が可能。また、有機ELより低い電圧で駆動できることなども利点
で、次世代の省エネ発光素子として注目されているが、その動作メ
カニズムが微視的なレベルでは未解明のままで、LECは、電気化学発
光を応用した有機発光素子。有機発光材料とイオン液体の陽イオン
(P66614+)および陰イオン(TFSI-)からなる「発光層」や、「陽極」
「陰極」で構成される。有機ELに比べ、構造が簡単で柔軟性に優れ
ている。印刷技術を用いることにより製造コストを削減でき、低電
圧駆動によって電力消費を抑えることも可能である。半面、「応答
速度が遅い」「駆動寿命が短い」といった課題もあり、このことが
実用化に向けた研究の障壁となっていた。
図1.電子スピン測定要の発光電気化学の構造 出所:筑波大学
図2.動作しているLECのESR信号 出所:筑波大学
そこで研究チームは、課題解決に向けてLECの詳細な動作機構を解
明することにした。具体的には、発光材料としてスーパーイエロー
を用いたLECについて、電子スピン共鳴(ESR)法を用い、LECが動
作している状態で電荷のスピン状態を観察したところ、LECに印加
する電圧(Vbias)が高くなると、発光とESRがいずれも増えること
が分かった。得られた信号を理論解析したところ、ESR増加の起源は、
スーパーイエローに注入された「正孔」と「電子」であることを明
らにした。しかも、電荷ドーピングの進行が輝度の上昇と相関関係
にあり、これはドーピングされた電荷が発光層上に分布しているこ
とを示唆。
【関連技術情報】
・原 題:Investigating the operation mechanism of light-emitting electroc-
hemical cells through operando observations of spin states, :スピン状態の
オペランド観察による発光型電気化学セルの動作機構の解明
・Communications Materials, DOI :10.1038/s43246-023-00366-3
特集|最新ペロブスカイト太陽電池特許技術 2022~2023年度
❏ 特開2022-152729 太陽電池の製造方法及び太陽電池 積水化学工
業株式会社
【要約】
下図3のごとく、複数の太陽電池セルは、隣接する太陽電池セル同
士が直列に接続しており、基材上1に透明電極2を製膜し、透明電
極を切削加工する工程(1)と、切削加工された透明電極上に光電
変換層3を製膜する工程(2A)と、リフトオフによって透明電極
の基材側とは反対側の界面を剥離しながら光電変換層を除去し、光
電変換層に切削溝を形成する工程(2B)と、切削加工された光電
変換層上に電極を製膜し、電極の切削加工を行う 工程(3)とを有
し、光電変換層は、一般式R-M-X 3(但し、Rは有機分子、M
は金属原子、Xはハロゲン原子又はカルコゲン原子である。)で表
される有機無機ペロブスカイト化合物を含む太陽電池の製造方法。
光電変換層の切削加工を良好に行うことができ、光電変換層を挟む
上下の電極の電気的接続を安定して確保することができる太陽電池
の製造方法を提供する。
図3. 従来のレーザーパターニングによって光電変換層に切削溝を形成し
たときの状態を模式的に表した断面図
【符号の説明】 1 基材 2 透明電極 3 光電変換層
【概要】
従来、太陽電池として、対向する電極間にN型半導体層とP型半導体層
とを配置した積層 体が盛んに開発されており、上記N型、P型半導体とし
て主にシリコン等の無機半導体が用いられている。 しかしながら、このよ
うな無機太陽電池は、製造にコストがかかるうえ 大型化が困難であり、
利用範囲が限られてしまうという問題があった。 そこで、近年、中心金属
に鉛、スズ等を用いたペロブスカイト構造を有する有機無機ペロ ブスカイ
ト化合物を光電変換層に用いた、ペロブスカイト太陽電池が注目されてい
る(例 えば、特許文献1、非特許文献1)。ペロブスカイト太陽電池は、高
い光電変換効率が期 待できるうえに、印刷法によって製造できることから
製造コストを大幅に削減することが できる。
一方、近年、ポリイミド、ポリエステル系の耐熱高分子材料や金属箔を基
材とするフレキシブルな太陽電池が注目されるようになってきている。 フ
レキシブル太陽電池は、薄型化 や軽量化による運搬、施工の容易さや、
衝撃に強い等の利点があり、例えば、 フレキシブル基材上に、光が照射
されると電流を生じる機能を有する光電変換層等の複数の層を薄膜状に
積層することにより製造される。更に、必要に応じてフレキシブル太陽電
池の上下面を、太陽電池封止シートを積層して封止する。例えば、特許
文献2には、シート状のアルミニウム基材を含む半導体装置用基板、及
び、 この半導体装置用基板を含む有機薄膜太陽電池が記載されている。
風蕭々と碧いの時代
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