彦根藩二代当主である井伊直孝公をお寺の門前で手招き雷雨から救ったと
伝えられる"招き猫"と、井伊軍団のシンボルとも言える赤備え。(戦国時
代の軍団編成の一種で、あらゆる武具を朱塗りにした部隊編のこと)の兜
(かぶと)を合体させて生まれたキャラクタ。
スイレン
草津市水生植物公園みずの森
父母のしきりに恋し雉子のこゑ 芭蕉
白秋・金秋・素秋の朝、彼女に近親者の命日を尋ねると、小さき備忘録を
取り出し読む声を聴きながら、芭蕉の俳句が過ぎり、輩(ともがら)の命
日をも思い出す一瞬があった。これも残暑疲れがなせる技かと、芭蕉をな
どる。
輩のしきりに恋し風の盆
宇
天高しハイスピードバスケット
宇
図 一次元の欠陥が整列した新しい有機−無機ハイ
ブリッド化合物の結晶構造
一次元の欠陥が整列した新しい有機−無機ハイブリッド化合物
ペロブスカイト太陽電池の耐久性向上に期待
6月31日、東京工業大学の研究グループは,ペロブスカイト太陽電池の材料
として有望視されるFAPbI3(FA = CH(NH2)2)にチオシアン酸イオンを導入し
た,新しい有機−無機ハイブリッド化合物の合成とその結晶構造解析。
【要点】
1.チオシアン酸イオンを導入した新しい有機-無機ハイブリッド化合物
の合成と結晶構造の解明に成功。
2.得られた化合物がペロブスカイト構造の安定化に寄与することを発見。
3.ペロブスカイト太陽電池の耐久性向上に期待。
【概要】
ペロブスカイト太陽電池の材料として有望視されるFAPbI3(FA = CH(NH2)2)
にチオシアン酸イオンを導入した、新しい有機−無機ハイブリッド化合物の
合成とその結晶構造解析に成功した。
ペロブスカイト太陽電池は、低コストでフレキシブルな次世代の太陽電池
として期待されており、再生可能エネルギー普及の一端を担う。ペロブス
カイト構造用語を持つFAPbI3はペロブスカイト太陽電池の主要な材料とし
て知られているが、構造の安定化に150℃以上の高温が必要であり、室温
では徐々に発電効率の悪い別の構造に変化してしまうため、耐久性の向上
が課題とされていた。 本研究ではペロブスカイトFAPbI3のヨウ化物イオン
(I-)の一部をチオシアン酸イオン(SCN-)で置き換えた、新しい有機−無
機ハイブリッド化合物の合成に初めて成功した。結晶構造解析の結果、本
化合物はペロブスカイト構造に一次元の欠陥が周期的に整列した特異な結
晶構造を持つことが明らかとなった。さらに、今回合成に成功した化合物
はFAPbI3と共存することで、ペロブスカイト構造の低温での安定化を補助
する効果があることが明らかとなった。この知見を活かすことで、ペロブ
スカイト太陽電池の耐久性向上が期待できる。
【成果】
得られた化合物の単結晶構造解析を行ったところ、ペロブスカイト構造の
基本骨格は維持しているものの、チオシアン酸イオンがペロブスカイト構
造に一次元の穴を開け、その穴(欠陥)が周期的に整列していることが明
らかとなった(図1)。また、通常のFAPbI3ではペロブスカイト構造を安定
化するのに150℃以上の高温を要するが、今回発見された化合物と共存する
ことで、50℃以下でも安定化可能であることが分かった。研究グループは、
この結晶構造解析の結果の解釈から、得られた穴開きの結晶構造が足場と
して働き、ペロブスカイトFAPbI3を安定化するという機構を提案した。
図1.結晶構造解析によって得られたヨウ化物イオン(I-)の一部をチオ
シアン酸イオン(SCN-)で置き換えたFAPbI3の結晶構造。
【展望】
今回得られた結果は耐久性向上のメカニズムを解く重要なカギとなる可能
性があり、今後のペロブスカイト太陽電池研究の発展に寄与すると考えら
れる。また、得られた新規物質の結晶構造は基礎研究の視点でも興味深く、
今後の新規有機−無機ハイブリッド化合物開拓にも寄与する結果であるとい
える。
【関係技術情報】
掲載誌 : Journal of American Chemical Society
論文タイトル : Thiocyanate-Stabilized Pseudo-Cubic Perovskite CH(NH2)2PbI3
from Coincident Columnar Defects Lattices
DOI : 10.1021/jacs.3c05390(External site)
✔ 色素増感➲ペロブスカイト➲無機-有機化合物電子デバイス➲
タンデム(多層化とこの20年間で飛躍積進化。特に代表格のタンデム
型ハイブリッドペロブスカイト太陽電池デバイスは、タフで高い汎用性
とローコストでフレキシブルな電子デバイスでありながらワイヤレスな
電子器機の器機の中核電源に成長する。
ZEB市場規模予測
ZEBの市場規模は一貫して成長、2030年度には12兆300億円まで拡大
8月31日、株式会社矢野経済研究所は、国内のZEB市場を調査し、要素技術
の動向、参入企業動向、将来展望を明らかにした。ここでは、2030年度ま
でのZEB市場規模(建築物の工事費ベース)予測について公表。 政府によ
る「2050年カーボンニュートラル宣言」とそれを受けた脱炭素経営への進
展や、2021年10月に閣議決定された「第6次エネルギー基本計画」において
「2030年度以降の新築建築物へのZEB(ZEH)水準の省エネルギー性能確保
」、「省エネルギー基準の段階的な引き上げの実施」が明記されるなどの動
きがあったことで、近年は建築主の環境意識が一層向上している。 一方、
オフィスビル等を供給するデベロッパー各社においても、大手では自社の
開発物件について2030年度までにすべてをZEB化する方針を打ち出してお
り、今後はZEB設計が基本との認識が広がりつつある。また、ZEB Ready、
ZEB Orientedについては、非ZEB仕様の建築物と比較してイニシャルコスト
の増加分が低く抑えられるようになってきている。
【要約】
省エネ面で有利な個別分散方式空調が注目される 建物で消費されるエネ
ルギーは空調・換気・照明・給湯・昇降機等があり、建物用途による違い
はあるものの、主に空調のための温熱・冷熱をつくり出す熱源が概ね2~4
割を占める。空調には主に2つの方式があり、1つはセントラル空調方式(
中央熱源方式)で、もう1つは個別分散方式(個別熱源方式)である。近
年、特にZEBを目指す建築物件においては個別分散方式空調を選択する傾
向が見られる。個別分散方式はセントラル空調方式と異なり、フロアや部
屋ごとに稼働状況をコントロールできることから、無駄な電力消費を抑え
られる。従来、個別分散方式は配管の長さの制約から小~中規模の建築物
件を中心に施工される方式であったが、現在では改良が進んで対応可能な
配管長が延び、より大規模な物件にも適用できるようになっている。
【展望】
2030年までに新築建築物の平均でZEBを実現するとした政府目標などを踏ま
え、2030年度のZEB市場規模は12兆300億円まで拡大すると予測する。現在
計画中の新規建築プロジェクトについても、設計の初期段階からZEBとなっ
ているものが目立つことから、市場は右肩上がりでの推移が続く見通しで
ある。
2030年のワイドバンドギャップ半導体単結晶世界市場を3,176億円
矢野経済研究所は,世界のワイドバンドギャップ半導体単結晶市場を調査
し,製品セグメント別の動向,参入企業動向,将来展望をまとめ調査報告。
【要約】
SiC(炭化ケイ素)などのワイドバンドギャップ(WBG)半導体単結晶の世
界市場に関する調査結果を発表した。2023年の世界市場は前年比47.1%増
の268億8500万円になる予測だ。市場は拡大を続け、2030年には3176億120
0万円に達する見込。
【要点】
1.2023年は前年比47.1%増、SiCが4分の3を占めるSiC、
GaN(窒化ガリウム)などのワイドバンドギャップ半導体単結晶は、パ
ワー半導体デバイスを中心に採用が進んでおり、市場も堅調に拡大。Si
C市場は本格的な成長期に入っていて、2025年以降の車載用途への採用が
急成長のポイントになるという。LEDやLDなどの照明用途で採用が進む
GaNは、パワーデバイスや高周波用途では優れた特性を持っており、従来
の課題だったウエハーの大口径化や大量供給にメドが立ったことから、
GaN on GaNデバイスとして展開される時期が近づきつつある。
Ga2O3はSiCデバイスと比較してコストや性能のポテンシャルが高いこ
とから参入プレイヤーも増えてきており、パワーデバイス市場に食い込
む勢い。AlNは深紫外線のLED用単結晶として一定の需要を獲得。一方、
サファイア基板を用いたタイプの深紫外線LEDの性能が向上。AlN基板の
強みを発揮できる領域への展開が課題とされる。
2.ダイヤモンド、市場拡大の鍵はニッチ需要への対応
同研究所は2023年の注目トピックとして、ダイヤモンドの研究開発が加
速していることを挙げる。ウエハーメーカーのIPO(新規公開株式)や共同
研究などの成果が増え、材料やデバイスの開発が進んでいるという。2023
年現在、オーブレー(旧アダマンド並木精密宝石)から直径2インチのダイ
ヤモンドウエハーの供給が始まるほか、大熊ダイヤモンドデバイスでもダ
イヤモンドを使用した電子デバイスの量産化に向け準備が進む。同研究所
はダイヤモンドの市場拡大について、ニッチかつ付加価値の高いデバイス
に搭載され、他の材料が対応しきれないニーズに応えることが必須。
3.2030年の市場は3176億円1200万円規模へ
主にパワーデバイスでの採用がけん引力となり、ワイドバンドギャップ半
導体単結晶の世界市場は、2030年には3176億1200万円に達する見通しだ。
材料別ではSiCが3073億4800万円、GaNが52億8000万円、Ga2O3が30億5600万
円、AlNは13億5000万円、ダイヤモンドが5億7800万円。材料別構成比はSi
Cが96.8%を占めており、ワイドバンドギャップ半導体の中でもSiC市場の
成長予測が突出して高い。
※同調査は2023年4~7月、ワイドバンドギャップ半導体単結晶メーカーや
関連企業、研究機関などを対象に行われた.
図.ワイドバンドギャップ半導体単結晶世界市場推移・予測 2023.8.28
via EE Times Japan 2023.8.31
⌚ アップルが製造に「3Dプリンター」導入
ブルームバーグのマーク・ガーマン記者によると、アップルはApple Watch
Series 9の一部のモデルで使用されるステンレススチール製ケースを3Dプリ
ンターで製造するテストを行っている。アップルはSeries 9の生産量の10%
を占めるステンレススチール製ケースで、この取り組みを開始する。現在
のApple Watchのケース素材は他にアルミニウムがあり、Apple Watch Ultra
にはチタニウムが使われ、現行のステンレスチール製モデルには、従来の
製法である「鍛造」が用いられている。この製法は、材料である金属のブ
ロックをデバイスのサイズに近い小さな塊にするために用いられる。その
後、CNCマシンを使って切削加工を行い、部品を完成させる。3Dプリンタ
ーを用いることで、生産ラインを合理化し、製造にかかる時間を短縮すると
同時に、より少ない材料で製造が可能になる。 ガーマンによれば、新たな
技術はバインダージェット方式と呼ばれるもので、粉末状の物質を3Dプリ
ンターで噴射して、ケースサイズに近いものを作り上げ、その後、焼結と
呼ばれるプロセスで仕上げを行う。3Dプリンターへの移行は、開発段階で
は高価なようだが、時間の経過とともにコスト逓減。現状では、新たなプ
ロセスによるケース1個あたりのコストは、以前の方法と同等。今のとこ
ろアップルは3Dプリンターを用いた製造を一部の製品に限定されているが
将来的にはより多くのデバイスに用いることを検討。チタン製部品も3Dプ
リンターで製造可能とされ、将来のApple Watch UltraやiPhone Proがこのプ
ロセスで作られる可能性もある。 通常のApple Watch Series 9は、現在のと
ころアルミニウム製になることは間違いないが、アップルはこの素材で3D
プリントしたケースを大量生産する技術をまだ確立出来ていない模様。
via Forbes JAPAN
✔ システムもプロセスもアクティブティもネオ・ネオーテック時代。
代替タンパク質 (植物由来肉、植物由来シーフード、培養肉、培養シー
フード、昆虫タンパク)世界市場 世界市場規模は6,395億7,300万円
8月30日、前出研究所によると、2022年の代替タンパク質の世界市場規模(
植物由来肉、植物由来シーフード、培養肉、培養シーフード、昆虫タンパ
ク計)は、メーカー出荷金額ベースで、6,395億7,300万円と推計。世界の
人口増加に伴い、食肉需要は増加している。農林水産政策研究所「2031年
における世界の食料需給見通し」(令和3年度)によれば、2018~20年の需要
と比較して、2031年の世界の食肉需要は増加傾向での推移が予測される。
牛肉では約0.62億トンから約0.71億トンへ増加し(2018~2020年比15.2%
増)、豚肉では約1.06億トンから約1.21億トンへの増加(同14.1%増)、
鶏肉では約1.05億トンから約1.28億トンへ(同21.8%増)増加することが
見込まれる。一方で、畜産由来の温室効果ガス排出や飼料・水資源の大量
利用など、畜産業が地球環境に与える影響が背景となり、将来的に従来の
動物由来の食肉のみで需要を満たすことが困難になる可能性が出てきてい
る。加えて、2022年から2023年に掛けては、不安定な世界情勢の影響から、
食品の供給不安定化や価格高騰が発生し、食料安全保障の強化が世界的な
課題となっている。 こうしたなか、豆類や野菜などを原材料とした植物由
来肉、動物細胞を培養して製造する培養肉、昆虫由来の代替タンパク質が
注目されている。加えて、水産物の持続可能な需給バランスの観点から、
植物由来シーフードや培養シーフードなど、代替シーフードの研究開発が
進んでいる。
1.植物由来肉・植物由来シーフード市場
日本では2023年・2024年に掛け参入事業者新工場稼働へ。これに対しアメリ
カでは、2020年に新型コロナウイルスの感染拡大の影響で外食産業が大き
な打撃を受けた反面、小売業が急成長した。2021年から2022 年にかけては、
食品産業全体がコロナ禍以前の状況に徐々に回復。一方で、2022年に発生
した急激なインフレーションはアメリカを含め世界の食品産業全体に影響
を与えた。食品価格の上昇は、買い控えなど、消費者の購買行動に影響し
た。このような背景から、アメリカの植物由来肉小売市場も影響を受けた。
2.展望
植物由来肉では、すでに一定規模の市場を持つアメリカ、欧州が今後も堅
調な伸びを見せると考える。加えて、中国などアジア圏では健康志向の高
まりとともに、植物由来肉の技術も飛躍的に進歩しており、今後は伸長す
るとみる。日本では、小売店舗における常温・チルド商品の販売拡大、冷
凍食品のラインナップ拡充や外食へのメニュー導入などが進むことで、消
費者の認知度が高まるとともに、JAS規格制定を受けた導入促進、SNSを活
用したマーケティングなどが追い風となり、需要が伸長する見通しである。
培養肉では、2020年12月にシンガポールで初の上市が行われた。2023年6月
にはアメリカでも生産・販売が認可され、スタートアップ企業を中心とした
研究開発が、アメリカ、シンガポール、イスラエル、欧州、日本などで行
われている。一方で、生産コストの高さが課題とされており、コスト低減
に向けた生産技術開発や効率化について、継続的な取り組みが進むとみる。
こうしたなか、2027年の代替タンパク質の世界市場規模(植物由来肉、植
物由来シーフード、培養肉、培養シーフード、昆虫タンパク計)はメーカ
ー出荷金額ベースで、1兆7,220億200万円を予測する。また、その後も拡大
基調で推移し、2035年には4兆9,064億5,900万円になるものと予測。
✔ 1993年前?鯰の養殖をかんがえていたころ、水産試験場を見学して、
ニゴロブナの骨の柔らかさは琵琶湖の推進百メートル付近の北湖で棲息
することによるとの説明で「水圧可変養殖試験槽」の試作を構想したを
このブログで掲載した。それが実現していれば、深海魚の小食や水圧変
動による食感、成長速度
『目次』
プロローグ 衝撃の海外レポート
第1章 一億人国家シナリオの行方
第2章 高出生率国と低出生率国の違い
第3章 出生率向上のための「3本柱」
第4章 「地方創生」と「移民政策」
第5章 議論百出の人口戦略法案
第6章 波乱の「人口戦略国会」
エピローグ
「始まり」の終わりか、「終わり」の始まりか
【著者略歴】
山崎 史郎(やまさき しろう、1954年〈昭和29年〉12月17日 -)は、日本
の厚生・厚労官僚。リトアニア国駐箚日本国特命全権大使等を経て、内閣
官房参与(社会保障・人口問題担当)。
-------------------------------------------------------------------
第2章 高出生率国と低出生率国の達し
3 出生率低下の構造・要因の分析
野口の妹は、2ヵ月前に子どもが生まれたばかりである。非正規雇用で
育児休業制度が利用できなかったため、出産前に退職した。これから別の
職場でパートの仕事に就きたいので、ゼロ歳児保育を考えているらしい。
「生まれたばかりで心配だけど、ゼロ歳のうちに保育所に入れば、その
まま持ち上がりでいられるから有利でしょ」という。住んでいる自治体の
認可保育所を希望しているが、現在は無職だし、勤めてもパート勤務だと
労働時開か少なく、入所選別の点数が低くなるので、選ばれるかどうか心
配している。非正規やパートは、育児休業だけでなく保育所の入所でも格
差がある。
「お義姉さんは正社員だから恵まれているわよ。非正規は損だと、つくず
く思う。2人目は欲しいけど、このままじゃ無理」とあきらめ気味に話す。
それでも、妹夫婦がどうにか子育てができそうなのは、野口の母親が近く
に往んでおり、何かと手伝ってくれているからだ。野口自身の子育ても妻
の親族の助けが大きな力になっている。これが、もし地方出身で、近くに
親族がいなかったらどうなるのか----と思ってしまう。
友人の岩橋夫妻は、子どもが欲しくて以前から不妊治療を受けているが、
30代後半になると妊娠が難しいらしい。不妊治療は考えていた以上に、身
体的精神的、経済的につらいので、そろそろやめようかと思っているとい
う。野口夫婦にとっても、年齢的に見て2人目の決断をいつすべきかは、
悩みの種である。
「20代後半から30代前半」の出生率の格差
週明けから、子育て支援策の本格的な検討が始まった。野口は、部内会議
で議論を始める前に外部有識者を招いて、2回に分けて話を聞くこととし
た。
1回目の勉強会の講師は、人口学者の壱岐孝一である。壱岐とは、百瀬の
朝食勉強会に参加してもらって以来、連絡を取り合っている。出生率向上
のための子育て支援策を検討する前提として、壱岐には、スウェーデンな
どの高出生率国と、日本のような低出生率国の違いについて、分かりやす
く説明してほしいとお願いしていた。壱岐は、資料を配布しながら説明を
始めた。
「国民希望出生率のことは、すでにご存知だと思うので詳細は省くが、わ
が国の若年世代が結婚し、子どもを持つ希望が実現すると出生率は1・8
にまで向上すると試算されている。ところが、わが国の現状はというと、
1・34(2020年)という低出生率である。そこで、1・8程度の出生率を
維持している「高出生率国」のスウェーデンやフランスなどと「低出生率国
」の日本などとでは、どこがどう違うのか、その状況を比較分析してみる
こととしたい。
図(2-1)は、女性が何度の時に子どもを出産しているかを示す「女
性年齢階層別出生率」を 国別に比較したものである。これを見ると、国に
よって出生率が大きくバラついているのは「20代後半から30代前半」(図
の灰色の部分)であることがよく分かると思う。
スウェーデンやフランスなどの[高出生率国1‐は、この年齢層の出生率
が、日本やイタリア、韓国といった「低出生率国」に比べて相当高い。ド
イツは、両者の中間に位置している。米国はやや特有で、20代前半から高
い。そして、いずれの国も30代後半になるとバラツキは縮まり、40代以降
は一様に非常に低い。
なお、韓国の場合は、30代前半の出生率は日本などと大きくは変わらな
いが、20代の出生率が前後半を通じて非常に低いことが、出生率全体を大
きく引き下げている。
このように元代後半から30代前半」にかけての格差が、出生率全体に大
きな違いをもたらしているのである。
では、なぜ、このような格差が生じたのか。その答えを知るためには、
1970年代以降、各国で起きた現象をまず理解する必要がある。
出産の先送り(晩産化)」と「生み戻し(キャッチ・アップ)」
実は、1920年ごろまでは各国の出生率の構造には、それほど大きな違い
はなく、女性の出産のピークはおしなべて25歳前後たった。ところが1970
年代降、各国では社会経済の変化、とりわけ女性の就業機会の増加によっ
て、一斉に出産時期の高齢化が始まり、それに伴い出生率は、人口置換水
準を大きく下回る水準まで低下していった。
「出産の先送り(晩産化)」という現象である。この現象を、人口学の
専門家の中には、晩産化を 特徴とする「第二の人口転換」と呼ぶ人もい
る。
ただし、出産の先送りは、それだけでは「実質的」に出生率が低下する
ことにはならない。
「実質的」という言葉がミソなのだが、出産の先送り、すなわち女性が
子どもを生むタイミングが遅れていった場合には、その時点の出生率は当然
ながら低下する。
しかし、もし出産を先送りした女性が何年かのちに出産し始めれば、そ
れ以降から出生率(正確には、女性ダ生で生む子ども数を意味する「合計
特殊出生率しは上昇し始め、最終的には同じ水準に回復する。
したがって、この場合は出生率の「実質的」な低下ではなく、「一時的
」な低下となる。この現象を人ロ学では、出産の「タイミングの遅れ」に
よる効果であるとして、「テンポ効果」または「タイミング効果」と呼ん
でいる。この言葉は重要なので、覚えておいていただきたい。
わが国も1970年代半ばから出生率が低下し始めたが、当時は、これ
はテンポ効果に過ぎないだろう、というのが専門家の支配的な見方だった。
やがて先送りの動きが止まり、以前より高い年齢で出産し始めれば、「生
み戻し(キャッチ・アップという)」が始まる、そうすれば出生率は再び
回復するだろう、と考えたわけである・しかし、わが国では、キャッチ・
アップは起きなかった----。
日本の出生率の構造的な変化
ここで、わが国の出生率の動きを、構造面から見てみよう。わが国の出
生率は、1970年代半ば以降、ほぼ一貫して低下し続け、2005年には過去最
低の1・26となった。その後、持ち直したが、最近は再び低下に転じてい
る。
図(2-2)は、こうした出生率の動きを、女性の年齢別出生率の視点
から分析したものである。これを見ると、わが国では出産の先送りをめぐ
って、次のような3つの動きがあり、出生率の構造そのものが大きく変わ
っていったことが分かる。
【Aの動き】20代は、前後半を通じて出生率が大幅に低下した。惣威の出
生率は、0・22(1975年)から0・05(2019年)へと、4分の1にまで大
幅に低下した。
【Bの効き】出生率のピーク年齢が25歳(1975年)から30歳(2019年)へ
と、5歳高齢化した。30歳の出生率は、1975年と2019年を比べると、途中
でわずかな上下動はあったものの、最終的にはほとんど変化がなかった。
その結果、ピーク年齢時の出生率は、1975年の0・22(四域)から、
2019年のO∴目(四域)へと半減した。
【Cの動き】 一方、30~40代の出生率は上昇した。ただし、西成の出生
率を見ても、0・03(75言から0・08(2019年)へと、その上昇幅は限ら
れたものだった。こうした結果、20代の出生率の大幅な低下によるマイナ
スの影響を、30~40代の出生率の上昇ではカバーし切れず、わが国の出生
率は、全体として大きく低下していったのである。
「キャッチ・アップ」があった国と、なかった国
----次の図(2-3)を見ていただきたい。これは、前の図(2-2)と
同じく、女性の年齢別出生率の動きを、スウェーデンやフランス、そして、
低出生率国のイタリアについて示したものである。
これによると、スウェーデンやフランスのような高出生率回では、出産
の先送りによって20代
前半の出生率は大幅に低下したが、その後、▽短期間をおいて「20代後半か
ら30代前半」の出生率が大幅に上昇した。まさに、テンポ効果によって、
出生率はいったん下がったが、1980年代後半以降、再び回復していく「キ
ャッテ・アップ」が起きたのである。
ところが、日本やイタリアといった低出生率国の状況は異なった。同様
に、出産の先送りによって20代前半の出生率は大幅に低下していったが、
「20代後半から30代前半」の出生率のほうも低下、または、ほとんど上昇
しない状況が続いた。そのため、30代後半以降の出生率は若干上昇したも
のの、本格的なキャッチ・アップとはならず、その結果、出生率全体が非
常に低い水準にまで低下していったのである。
つまり、スウェーデンやフランスの場合は、出生率の「山」は、同じピ
ークの高さと形を保ったまま平行移動したため、全体の出生率を表す「面
積」は変わらなかった。これに対して、日本やイタリアは、出生率の「山
」のピークの高さが大幅に低くなり言本の場合は、半分の高さになった)、
山の形全体が変形したことにより、「面積」(出生率)が小さくなったの
である。先ほど図(2-11)で示したように、各国の「20代後半から30代
前半」の出生率(すなわち「山」のピークの高さ)に大きな格差が存在し
ているのは、こうした歴史的な構造変化の結果である。
そうなると、この20~30代の年齢層に、1970年代半ば以降、何か起きた
のか、そして、今なお何か起きているのかが焦点となる。それを解明すれ
ば出生率向上の方策が見えてくるかもしれないからである----。
この項つづく
風蕭々と碧いの時
John Lennon Imagine