全体から見て、私は人間は生き残ると考える。心ある人たちは
それに気づいている――そこにこそ、よくなる希望がある。
ジャワルハラ・ネール
On the whole, I think we shall survive.
Thinking People realize that――and therein
lies the hope or its getting better.
Jawaharlal Nehru
・On the whole 「全体から見て」「概して」
・therein=in that 「そこそこに」
天の前にすべての人間は平等である。貴族も庶民もない。身分差を認めないことは、宿命を認
めないことにつながる。墨子は、宿命論の上にアゲラをかく君主を痛罵し、"運が悪い"とあきら
める民衆を叱陀する。
● 宿命論の害悪
今日、どの為政者もみな国を富まし、人口をふやし、社会秩序をととのえたいと望んでいる。だが、
かれらが実際に得るものは、富ではなく貧困であり、人口の増加ではなく減少であり、秩序ではなく
混乱である。つまり為政者は、望んでいるものの代わりに、望まないものを手に入れるのである。そ
れはなぜか。
宿命論者が人民の中にまぎれこんでいるからだ。かれらはこう主張する。
「豊かになるか貧しくなるかは、すべて宿命である。人口の増減、秩序と混乱、長命と短命、すべて
同様である。どんなに力のある人間でも、この宿命には勝てない」
宿命論者はこういう論法で、為政者に説き、また人民の労働意欲を失わせている。かれらは社会を
害するものだ。したがって宿命論者の主張をとりあげ、その本質をあばく必要がある。
宿命論の本質をみやぶるには、どうすればよいか。
まず検証の規準を立てて、かれらの議論をそれに照らしあわせることだ。規準がなければ、日時計
の目盛を動かしてしまうようなもので、議論の当否、利害をはかることができない。検証には、三つ
の規準が必要である。
第一に、歴史に根拠を求める。
第二に、実態に即して調べる。
第三に、実地に適用した場合を考えてみる。
つまり、古代の聖王の事蹟に根拠を求め、人民の生活感覚に即して調べ、政令として発布した場合、
国家と人民の利益となるかどうかを考えるのである。これが議論を検証するための三つの規準である。
※ 三表法
墨子は雄子は、宿命論の本質を・見破るために三つの基準(三表法)をもちだしたのだが、これ
はあらゆる場合に適用できる実証的な物の見方といえる。つまり、ひとりよがりの判断でなく、す
べてを、歴史的事実と社会的現実にてらし、またそれを実践した結果を予測してみるのである。
三表法は、類推の理とともに、墨家が最初にとなえた論法として名高い。
なお、三つの基準のうち、第二については、この編では人民の生活感覚(百姓耳目の実)と記さ
れているだけでわかりにくいが、「非命下編」にはその内容にふれて次のようにいう。
「農夫は、朝はやく山て夕方おそくまで、畑仕事にはげむ。努力すれば豊かになるが、努力を怠
れば貧しくなる。飢えるか飢えないかは、努力しだいだ、という道理を体得しているから、仕事を
怠けないのだ。
婦人は、朝はやく起きて夜おそくまで、機織りにはげむ。努力すれば豊かになるが、努力を怠れ
ば貧しくなる。寒さにふるえるかふるえないかは、努力しだいだ、という道理を体得しているから、
仕事をなまけないのだ」
子墨予言日、今者王公大人、為政 国家者、皆欲国家之富、人民之衆、
刑政之治。然而不得富商得貧、不掲栗沢得寡、不得治而得乱。則是本失
其所欲、埓其所悪。是故何也。子墨子言曰、執有命者、以雑於民間者衆。
執有命者之言日、命富則富、命貧則貧、命衆則衆、意寡則寡、命附則附、
命乱則乱、命寿則寿、命夭則夭。命難強勁何益哉。上以説王公大人、下
以阻百姓之従事。故執有命者不仁。故当執有命者之言、不可不明弁。
然則明弁此之説、将奈何哉。子墨子言曰、必立儀。言而母儀、譬猶運
釣之上、而立朝夕者也。是非利害之弁、不可得而明知也。故言必有三表。
何謂三表。子墨子言日、有本之者、有原之者、有用之者。於何原之、上
原察、白姓耳目之実。於何用之、発以為刑政、観其中国家百姓人民之利。
此所謂言有三表也。
今読み返して、先秦時代の「科学的思考のススメ」版のように平易に書かれていることに改めて驚く。
いわば、「実践的科学技術者集団」の「教典」に当たるが、今夜から「非命-宿命論に反対する-」
を改めて読み直していく。なにかインスピレーション(閃き)を会得できれば幸いだ。こんなことを
書いていると『技術と人間』や「日本の技術者運動」を主宰した星野芳郎を思い出すこととなった。
【時代は太陽道を渡る 23】
● より高きをめざし: 変換効率30%超時代へ
太陽光発電設備の世界的な伸長はとどまるころを知らぬがごとき状態にある(下図)。矢野経済研究所
の調べによると、太陽光パネルの世界市場が、容量ベースで前年比25.4%増の54.5ギガワット、、
金額ベースで前年比11.22%増の1199億ドルになると予測するが、金額ベースでは 供給価格の急
落で伸び率はその半分程の前年比11.2% 増、1199億ドルに留まりコスト的には苦しい局面も
あるだろうが、保守・サービス・買い換え需要とバージョンアップなど仕事は逓増していく。しかし
ながら、パネルメーカーの世界的シェアは、技術的には先行していた日の丸メーカはドイツに、米国
中国と次々に追い抜かれ、シリコン多結晶系メガソーラーの京セラ1(+α)社のみの苦境状態?に
あるが、買い換え等長期的にみると、エネルギー分野の主要産業として順調成長していくとみる。
● 変換効率30%超時代のトップランナー日本
先月8日、北海道大学でカメレオン発光体――ユーロピウムという希土類元素を含む分子型の発光体
――の技術を結晶シリコン型太陽電池に応用し、変換効率を2%向上させることに成功したことを公表。従来
の結晶シリコン型太陽光パネルに張る特殊な保護フィルム(EVA フィルム)に、紫外光を効率よく赤
色光に変換する「カメレオン発光体」を入れる。このフィルムを太陽光パネルの表面に張ると、カメ
レオン発光体が紫外光を吸収して赤色領域に発光し、結晶シリコン型太陽電池の光吸収領域が増える
ため、変換効率が2%向上する。心配される品位劣化は10年間有効だという(下図クリック)。
これは波長シフト方式だが、パネル表面に微細な例えば、チューブ状、多面体の酸化ケイ素を配置し
入射光を完全に閉じ込め変換する特許提案もある。実用直前の25%超のシリコン系パネルに(1)
吸収波長領域の拡張フィルム、(2)あるいは、反射光をゼロにするフィルムを貼り合わせあるいは
結合融合させことで、2、3%の変換効率を稼ぐことが可能となるが、30%を超えるには5%以上
向上させることが必要である。
それには、2、3年前に報告された45%を超える量子ドット太陽電池や多接合型太陽電池(下特許
事例図)、あるいは集光型などの高効率太陽電池開発で、テッペンを取る必要があるし、その潜在的
な実力がこの日本にある。また、カネカのように国際的な共同開発の動きもある。
特開2015-141970 受光素子および受光素子を備えた太陽電池
今夜、調べた「特集|最新高変換効率太陽電池」―――詳細に理解するまでに至っていないが、中で
も面白いものを見つけることがある。それの一例が下図である。それによると―――変換装置は3次
元空間伝播光を2次元空間伝播光に変換する構造体80と、2次元空間伝播光を導波する面状光導波
路20と、この面状光導波路20の端部に設けられた光電変換用の半導体層30とを有する。面状光
導波路20の主面に入射した光がその内部を導波されて半導体層30に入射する。面状光導波路20
内を導波される光の正味の進行方向と、この面状光導波路20の端面から半導体層30に入射した光
によりこの半導体層30の内部に生成されるキャリアの正味の移動方向とのなす角度θがほぼ直角な
入射光に対する不感領域をなくすことができ、ステブラー・ロンスキー効果――アモルファスSi太陽
電池は,使用開始から暫くの間に特性が低下する現象――や紫外成分による有機半導体の劣化を抑え
ることができ、極めて高い光電変換効率を得ることができ、大面積化も極めて容易な、太陽電池など
として用いて好適な光電変換装置を提供する」(要約)ということだが、今夜のところは「何のこっ
ちゃ」ということになるので、残件扱いとして、後日まとめて掲載する。、
特開2015-201563 光電変換装置、建築物および電子機器
● ソニーの全固体電池登場
ここで、パネルだけでなくデクサマニー(泉の女神)に登場してもらおう。13日、ソニーは、電解
質に固体材料を活用した全固体電池を試作。樹脂フィルム上に固体電解質を成型する薄膜型の2次電
池で、新規の正極材料を開発することで実現させる。折り曲げなど形状の自由度が高いほか、作製時
に高温処理が不要で製造コストの低減が見込めるという。小型・薄型のウエアラブル機器や、折り曲
げに対応でき、フレキシブルデバイスへの搭載が可能で数年後の実用化を目指す。
この開発の特徴は、全固体電池に向けた非晶質の正極材料と、その特性評価。従来一般的な全固体薄
膜2次電池では結晶材料を正極活物質に用いるため、高温の成膜プロセスが必要だったが、ソニーの
開発材料は非晶質で、成膜時に基板加熱しない。このためほとんどの製造過程を室温で実施できる。
正極材料は、リン酸系のリチウム金属化合物。試作品は、厚さが400ミクロンのポリカーボネート
フイルムを基板とし、スパッタリング装置を用いて正極や固体電解質、負極を積層することで作製。
固体電解質にはリン酸リチウムオキシナイトライド(LiPON)を成膜し、電解質の厚みは500ナノ
メートル程度。正極材料の遷移金属元素としてはニッケル、マンガン、コバルト、銅、銀などを評価
している。また、遷移金属にニッケルを用いた時が最も高い放電容量を示し、正極活物質の重さ当た
りの容量では330ミリアンペア時/グラム。参考に特許関連製造技術を下図を掲載(クリック)。
全固体電池の製造方法は、成膜ロールの周面に対向配置された複数の成膜源を用い、周面に複数の薄
膜を積層して全固体電池を形成する工程と、全固体電池を周面から剥離する工程とを含むことで、体
積容量密度を向上できる全固体電池の製造方法を提供(図5)。
● ホンダ「太陽光+ガスコージェネ+EV」住宅を開発
ルーフ型高変換効率の太陽光発電パネルを搭載できればどのようなことになるのか? それは『デジ
タル革命渦論』の「オールソーラーシステム」として既に展開済みだが、今月12日、ホンダは LIXI
L住宅研究所と合同で、太陽光とコージェネレーション(熱電併給)システム、電気自動車(EV)を搭
載したコンセプト住宅「次世代レジリエンスホーム・家+X(いえプラスエックス)」を東京都葛飾
区に建設・公開している(上図クリック)。その特徴は、コンセプト住宅は、2つの発電設備とEVを
組み合わせ、災害時にも快適な生活を維持する。LIXIL住宅研究所による“住まいの消費エネルギーゼ
ロ”の住宅をベースに、家と電力を相互にやりとりするV2H(電気自動車から住宅への電力供給)シス
テム。これらを効率的に運用するエネルギーマネジメントシステム(EMS)など、「家とEVとエネルギ
ーの融合による新しい暮らし」の提案を行う。停電時にも商用電力から太陽光発電やガスエンジンコ
ージェネに切り替えて家庭に電力を供給するとともに、余剰電力をEVに充電できるさらに コンセプ
ト住宅に導入されている家庭向けコージェネシステム「エコウィルプラス(ECOWILL PLUS)」には、
ホンダ製のガスエンジンコージェネユニットを採用。また、V2H対応の普通充電器には「Honda Power
Manager」を設置している。