徳丸無明のブログ

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つまらない正しさと楽しい嘘

2020-02-11 22:32:03 | 雑考
宮台真司の『正義から享楽へ――映画は近代の幻を暴く』(blueprint)を読んでの気付き。
これは以前の雑考「「懐かしさ」の正体」(2019・11・19)で取り上げた『絶望 断念 福音 映画』に続く、――間に『〈世界〉はそもそもデタラメである』を挟んだ――宮台の実存映画批評シリーズ第3弾である。
本書のあとがきで、宮台は2016年のアメリカ大統領選の際、ドナルド・トランプの当選を希望していたと明かす。そしてその理由のひとつが「正しいだけで楽しくないリベラルの愚昧への気付き」であったとして、詳細を次のように述べている。


世界中でリベラルや左翼が退潮する理由は簡単だ。「正しいけど、つまらない」からである。「正義」の軸と「享楽」の軸がある。「正しさ」と「楽しさ」と言ってもいい。昨今のリベラルは「正しいけど、つまらない」。享楽が欠けているという事実に鈍感なのだ。
河野太郎と洋平の区別も付かずに河野談話問題で太郎を批判するウヨ豚や、発言の75%が事実無根との調査もあるトランプを支持するオルタナ右翼を持ち出す迄もなく、享楽に向けた(疑似)共同性の樹立が賭けられている以上、「正しくない!」との批判は痛くも痒くもない。
正義と享楽の一致は稀だというこの問題を、伝統的な大衆社会論が主題化してきた。一致の条件は分厚い中間層が支えるソーシャル・キャピタル(人間関係資本)だ。仲間に自分が埋め込まれているという感覚があれば、仲間を傷つける連中に憤ることが、正義であり享楽になる。
中間層が空洞化し、個人が分断され孤立した状態で、貧困化「しつつある」との脅えがある場合、正義と享楽は分離し、正義ならぬ享楽へとコミットするようになる。「権威主義的パーソナリティ」を論じたフロムが、絶対的貧困度とは別に見出した全体主義の主観的条件だ。
だから、中間層が分解「していく」過程では、自動的にリベラルよりもウヨクが有利になる。この流れの中で「正しさ」に固執すると、“「正しさ」を口実にマウンティングしたいだけの浅ましい輩”に見える。それが分からずに「正しくない!」と批判し続けるだけならば、能天気だ。
夏の参院選で解散したSEALDsの奥田愛基氏――大学入学前から知り合い――に言ってきたのは、人々が「正しさ」から離れているのは、「正しさ」をベースにマウンティングするだけで、周囲に少しも「享楽」の輪を拡げられない〈クソ左翼〉のせいだ、ということだ。
私は言ってきた。必要なのは「正義」と「享楽」の一致だ。でも「正しいけど、楽しくもある」じゃ駄目。「楽しいけど、正しくもある」が必要だ。多くの人は鬱屈して「享楽」が欲しいのだから「同じ楽しむなら、正しい方がいいぜ、続くし」と巻き込むのがベストだ、と。


ポスト・トゥルースが進行する理由がまたひとつわかった気がする。フェイクニュースなんて楽しさ満載だもんね。
でもさ・・・楽しさと正しさの両立って難しくない?


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6 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
それはきっと (和田ヶゐ)
2020-02-11 22:45:58
不安をあおる方が金になると思う人たちがいるからですよ(@_@)
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和田ヶゐさん江 (徳丸無明)
2020-02-13 23:04:09
たしかに、煽る側の視点を含めると「金になる/ならない」の軸もあるでしょうね。
フェイクニュースに限らず、病気や災害の専門家であっても、不安を煽ったほうが自分の仕事が増えるから、意図的に大袈裟な言い方をする人がいるそうですからね。
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だから俺も (和田ヶゐ)
2020-02-13 23:25:40
煽ってます(@_@)
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和田ヶゐさん江 (徳丸無明)
2020-02-14 22:13:02
え、煽る側なんですか?
それで金儲けしてるとか?
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すみません (和田ヶゐ)
2020-02-14 23:52:56
言ってみたかっただけです(@_@)

健全な、至って貧乏です
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和田ヶゐさん江 (徳丸無明)
2020-02-15 21:43:11
言ってみたかっただけかい!
気をつけないと誤解されますよ。
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