(前編からの続き)
体の力を抜くためのレッスン。
まずは、浮き輪やビート板等を使い、ただひたすら仰向けに浮いてみるといい。深いプールだと恐怖心に囚われやすいので、子供向けの浅いプールを選ぶこと。もちろん浮かんでいる時は、体の力を抜くのを意識すべきだが、それよりも、水に浮かぶことの気持ちよさを、しっかり味わってもらいたい。
泳げない人は、恐怖、嫌悪感等、水に対するマイナスの記憶がある。この記憶が、泳げない人を泳げないままにさせている。なので、水の気持ちよさを知ってもらい、その気持ちよさ――つまり、プラスの記憶――で、マイナスの記憶を上書きする。そうしていけば、マイナスの記憶が少しずつ薄れ、力の強張りが抜けていくはずだ。
ある程度浮かぶことに慣れてきたら、浮き輪等を外し、単独で浮かぶチャレンジをする。ここがなかなか難しいかもしれないが、確実にクリアしなければならないポイントだ。言い換えると――泳ぐことと浮かぶことはほぼイコールなので――これが出来れば泳げるようになったも同然である。
ここに至るまでには、いくら口で説明してもどうにもならないので、各自実践してもらいたい。
で、これをクリアできたとして、次はどうするか。理屈を続けたい。
浮かべるようになればいいとは言っても、完全に脱力しきっているだけでは、泳いでいるのではなく、ただ浮いているだけである。当然手足の動きが必要になる。それには、力を入れないといけない。
浮かぶためには力を抜かねばならないが、泳ぐためには力を入れねばならない。この矛盾を、どう架橋するか。
必要最小限の力で手足を動かせばいいのである。
ただ手足を動かしたとしても、関節に力が入ってないと、グニャグニャした動きになり、推進力には繋がらない。関節を固定する力も必要である。すなわち、泳ぐための必要最小限の力とは、手足を動かす力+それによって関節がグニャグニャにならないよう固定する力である。
この最小限の力だけであれば、入れても沈まない。
それ以上の力を入れれば、沈む。
泳ぐというのは、そういうことである。
さて、小生は泳ぐことは浮かぶことだと言った。だから、浮かび方を教えた以上、他に教えるべきことはほとんど残されていない。
最後に、技術的なことを幾つか。
息継ぎに関してであるが、呼吸というのは、吸って、吐いてのくり返しである。吸ったあとは、必ず吐かねばならない。吸い続けることも、吐き続けることもできない。何を当たり前のことを、と思われるかもしれないが、上手な息継ぎのためには、この点をよく押さえておかねばならない。
泳いでいるときは、基本顔を水に浸けており、一瞬だけ浮かべるのが息継ぎである。この、顔を浮かべていられる時間は、結構短い。この短い時間に、適切に息継ぎをするにはどうしたらいいか。
水中では息を止めて、顔を上げてから吐いて、吸って、としていると、“吸う”ことに充分時間を取れない。なので、水中にいるときに、鼻から息を吐いておく。そして、顔を上げた時には、もう“吸うだけ”にしておく。
水中で息を吐いておかないと、顔を上げてから吐かねばならない。吐く時間と、吸う時間の、両方が必要になる。水中で吐いておけば、顔を上げてからは吸うだけでよくなる。
これが適切な息継ぎである。このような息継ぎができないのも、カナヅチの人が苦しくなる一因だろう。
ただ、鼻から息を吐くといっても、顔を水につけ、次に上がるまでの間、どのタイミングで、どれくらいのペースで吐けばいいのかが、よくわからないだろう。とりあえずは、泳がずに顔だけ水に浸けて、息継ぎのリズムを身につける練習をすればいい。
それから、バタ足。
このバタ足を、バシャバシャと水を蹴り上げるものだと思い込んでいる人もいるかと思う。バシャバシャが大きければ大きいほどいい、と。しかし、そもそもバタ足は何のためにするのかと言えば、前に進むための推進力を生むためである。しかるに、バシャバシャは水を上に飛ばす働きであって、ここからは推進力は生まれない。水は上ではなくて、後ろに押しやらねばならない。なので、バタ足の時は、水をバシャバシャさせるのではなく、後ろに押しやることを意識してやるべきなのだ。このような誤解が生まれている原因は、おそらく「バタ足」という名称にあるのだろう。
なぜバタ足がバシャバシャしているかと言えば、水面に浮いている以上、どうしても力が上に漏れてしまうので、それがバシャバシャを生じさせているのである。つまり、バシャバシャはやむを得ず現れてしまう産物であり、できれば無くすべきもの、必要のないものなのである。
さて、どうだろうか。
ここまで学んできて、話を聞いただけなのに、なんだかもう泳げるような気がしてきたのではないだろうか。あなたが要領を理解したならば、あとはそれを体に伝えるだけだ。きっと泳げるようになる。
あとは、自らの実践で頑張って欲しい。
オススメ関連本・高橋秀実『はい、泳げません』新潮文庫
体の力を抜くためのレッスン。
まずは、浮き輪やビート板等を使い、ただひたすら仰向けに浮いてみるといい。深いプールだと恐怖心に囚われやすいので、子供向けの浅いプールを選ぶこと。もちろん浮かんでいる時は、体の力を抜くのを意識すべきだが、それよりも、水に浮かぶことの気持ちよさを、しっかり味わってもらいたい。
泳げない人は、恐怖、嫌悪感等、水に対するマイナスの記憶がある。この記憶が、泳げない人を泳げないままにさせている。なので、水の気持ちよさを知ってもらい、その気持ちよさ――つまり、プラスの記憶――で、マイナスの記憶を上書きする。そうしていけば、マイナスの記憶が少しずつ薄れ、力の強張りが抜けていくはずだ。
ある程度浮かぶことに慣れてきたら、浮き輪等を外し、単独で浮かぶチャレンジをする。ここがなかなか難しいかもしれないが、確実にクリアしなければならないポイントだ。言い換えると――泳ぐことと浮かぶことはほぼイコールなので――これが出来れば泳げるようになったも同然である。
ここに至るまでには、いくら口で説明してもどうにもならないので、各自実践してもらいたい。
で、これをクリアできたとして、次はどうするか。理屈を続けたい。
浮かべるようになればいいとは言っても、完全に脱力しきっているだけでは、泳いでいるのではなく、ただ浮いているだけである。当然手足の動きが必要になる。それには、力を入れないといけない。
浮かぶためには力を抜かねばならないが、泳ぐためには力を入れねばならない。この矛盾を、どう架橋するか。
必要最小限の力で手足を動かせばいいのである。
ただ手足を動かしたとしても、関節に力が入ってないと、グニャグニャした動きになり、推進力には繋がらない。関節を固定する力も必要である。すなわち、泳ぐための必要最小限の力とは、手足を動かす力+それによって関節がグニャグニャにならないよう固定する力である。
この最小限の力だけであれば、入れても沈まない。
それ以上の力を入れれば、沈む。
泳ぐというのは、そういうことである。
さて、小生は泳ぐことは浮かぶことだと言った。だから、浮かび方を教えた以上、他に教えるべきことはほとんど残されていない。
最後に、技術的なことを幾つか。
息継ぎに関してであるが、呼吸というのは、吸って、吐いてのくり返しである。吸ったあとは、必ず吐かねばならない。吸い続けることも、吐き続けることもできない。何を当たり前のことを、と思われるかもしれないが、上手な息継ぎのためには、この点をよく押さえておかねばならない。
泳いでいるときは、基本顔を水に浸けており、一瞬だけ浮かべるのが息継ぎである。この、顔を浮かべていられる時間は、結構短い。この短い時間に、適切に息継ぎをするにはどうしたらいいか。
水中では息を止めて、顔を上げてから吐いて、吸って、としていると、“吸う”ことに充分時間を取れない。なので、水中にいるときに、鼻から息を吐いておく。そして、顔を上げた時には、もう“吸うだけ”にしておく。
水中で息を吐いておかないと、顔を上げてから吐かねばならない。吐く時間と、吸う時間の、両方が必要になる。水中で吐いておけば、顔を上げてからは吸うだけでよくなる。
これが適切な息継ぎである。このような息継ぎができないのも、カナヅチの人が苦しくなる一因だろう。
ただ、鼻から息を吐くといっても、顔を水につけ、次に上がるまでの間、どのタイミングで、どれくらいのペースで吐けばいいのかが、よくわからないだろう。とりあえずは、泳がずに顔だけ水に浸けて、息継ぎのリズムを身につける練習をすればいい。
それから、バタ足。
このバタ足を、バシャバシャと水を蹴り上げるものだと思い込んでいる人もいるかと思う。バシャバシャが大きければ大きいほどいい、と。しかし、そもそもバタ足は何のためにするのかと言えば、前に進むための推進力を生むためである。しかるに、バシャバシャは水を上に飛ばす働きであって、ここからは推進力は生まれない。水は上ではなくて、後ろに押しやらねばならない。なので、バタ足の時は、水をバシャバシャさせるのではなく、後ろに押しやることを意識してやるべきなのだ。このような誤解が生まれている原因は、おそらく「バタ足」という名称にあるのだろう。
なぜバタ足がバシャバシャしているかと言えば、水面に浮いている以上、どうしても力が上に漏れてしまうので、それがバシャバシャを生じさせているのである。つまり、バシャバシャはやむを得ず現れてしまう産物であり、できれば無くすべきもの、必要のないものなのである。
さて、どうだろうか。
ここまで学んできて、話を聞いただけなのに、なんだかもう泳げるような気がしてきたのではないだろうか。あなたが要領を理解したならば、あとはそれを体に伝えるだけだ。きっと泳げるようになる。
あとは、自らの実践で頑張って欲しい。
オススメ関連本・高橋秀実『はい、泳げません』新潮文庫
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