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日々の恐怖 3月31日 ICU

2013-03-31 18:25:52 | B,日々の恐怖







    日々の恐怖 3月31日 ICU







 看護士のHさんの話です。
ICUで勤務していた時のことです。
夜勤で真夜中、ようやく一段落して一緒に夜勤をしている看護士とベットが見える位置にある休憩室に入り、お茶を飲んだ。
少しだけライトを暗くして、あたりは心電図モニターの音だけがピッピッと鳴り響いていた。

「 今日は落ち着いてるね。」

と同僚が休憩室にあるテレビのスイッチを入れると、なんと稲川淳二の怖い話をやっていた。
しかも、よりによって話の舞台は病院のようである。
イヤだなァ・・・、と思って、

「 怖いよ、消そうよ~。」

と私が言ったその瞬間、

“ ペタ・・。”

はっきり聞こえた。
スリッパの音である。
 同僚の看護士にも聞こえたようである。
二人で目を合わせた。

“ ペタ・・、ペタ・・。”

また聞こえた。
スリッパで歩く音だ。
その音は部屋から聞こえる。
間違いない。
 しかし、それ以上に間違いない真実なのが、ここはICUで仕切りのない大きなフロアにベットが6つ、患者数は4人。
その全ての人が、人工呼吸器をつけている重症で心筋梗塞だったり心臓外科の術後だったりして、どの人も起き上がることなんて不可能なのである。
そもそも、ここにはスリッパなんて置いてない。

“ ペタ、ペタ、ペタ、ペタ・・・・。”

なのにスリッパの音がする。
 出入り口は全てにカギをかけている。
部外者が音もなく入ってくることは不可能だ。
同僚と目を合わせたまま、互いに身動きが取れない。
音がする方向を見ることも出来ない。
気のせいか、こっちに近づいてきているような感じがする。
 私は汗だくになった。
同僚の顔は血の気を失いつつあった。

“ ガチャリ!”

出入り口のロックされていたキーが開いた。

「 わっ!」

一瞬驚いたが、

「 おつかれ~~!」

と言いながら、能天気な医者が差し入れを持って入ってきた。
とたんに重たかった空気がなくなり、私と同僚は安堵のため息をついた。
 二人で医者に半泣きでワーワー言いながら事情を説明するが、ワハハと笑われた。
でも、確かに聞いた。
音がした方向を見たが、何もなくいつもと変わらぬ光景だった。
















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