大峰正楓の小説・日々の出来事・日々の恐怖

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日々の恐怖 3月15日 女学生

2013-03-15 18:43:40 | B,日々の恐怖



   日々の恐怖 3月15日 女学生





      女学生




 景気がいまよりも随分といい時代で、その頃勤めていた板金工場の仕事がいつも夜遅くまであり、帰りはいつも夜中近くだった。
まだ下宿の一人住まいだったので、空になった弁当箱をぶら下げて、暗い田舎道を歩いて帰ったものである。
 その道は広い田んぼの横を曲がりくねって伸びており、反対側によく茂った竹林があった。
そんな真夜中の帰り道で、時々先を歩く女学生をみかけたことがあった。
 ふと見やると、その暗い竹林の間からとぼとぼと出てきて20メートルほど先を歩いていく。
最初に見かけたときは、こんな夜遅くあんなところで何をしていたのだろう。
学校か、家の用事でもあったのだろうかと思った程度だった。

 そんなことが度々あった。
おかっぱでセーラー服の後ろ姿は年のころ、中学か高校生のようだった。
彼女は確かにこちらより先を歩いているのだが、やはりこちらは男の足である。
だんだんと二人の距離は近づいていくのだが、追い抜いたことはなかった。
 曲がりくねった道を竹林に隠れた角を曲がり、自分がそこを通るともういない。
裸電球が数えるほどもない道で、その竹林は真っ黒な影のかたまりのようになってあまり気持ちのいい帰り道ではなかった。

 しかし、田んぼの一本道を自分と同じ方向に歩いて帰るには、同じく駅から歩くくらいしかないのだが、駅で見かけることはない。
そうするとあの竹林のどこかに、近在の者しかしらないような横道がいくつかあって、彼女はそこを通るのだろうか。
そうなると、学校帰りと思ったが、それらしいカバンもなく手ぶらであるところからしてもやはり近所に住んでるのだろう。
 でもこんな夜遅くまであんなところを歩いているなんて、ひょっとしたら家に帰りづらいことでもあるのかもしれない。
あの娘もこんな夜道を一人で歩くのは気持ちのいいものではないだろうし、きっとこちらのことも気づいていて、内心震えながらあの曲がり角に来て駆け出しているにちがいない。
一度声をかけて安心させてやりたい、そしてもし自分でよければ帰り道を送ってやろう。

 当時、自分も働いているとはいえ19の子供である。
田舎から集団就職で出てきて、親しい友達も都会で遊ぶ楽しみも知らない寂しい生活だった。
 知らず知らずに、その娘に思いを寄せていたのだろう。
何より彼女の顔が見たかったのかもしれない。
 その後も何度かその娘を見かけるたびに歩みを早めて、近づいてみるが、いつものように曲がり角でいなくなる。
曲がり角のほんの少し先に竹林に入っていく小道があり、およそ少女が一人で入っていくような道ではないが、なるほど、ここからどこか通じる家があってやはりあの娘は近所の娘なのだと納得した。

 最初見かけた時の距離は20メートルほどだったが、その後見かけるたびに縮まっていった。
一度思い切って、

「 おぉい、きみ、送ってやろうか・・・。」

と遠めに声をかけたが、彼女はまったく反応せず、同じようにとぼとぼと歩いていくだけだった。
 聞こえなかったのだろうか、でもそもそもこんな夜道で声をかけられたら誰だって振り返れないかもしれないじゃないか。
ああ、これだから俺は田舎モンで駄目なヤツだ・・・・。
 しょんぼりして、もう気にしないことにしようと決めてみてもしばらくすると、どうしても彼女の後ろ姿が思い出される。
やはり、もし何か困っているのなら話くらいは聞いてやりたい。
次見かけたら、近くまでいって話しかけてみよう。

 それから半年ほど女学生をみかけることはなかった。
悶々としながら仕事に追われ、珍しく早あがりの帰りなどはわざと時間をつぶして遅く帰ってみたりした。
一旦家に帰りついたものの、その道まで出直してみたりもした。
 今思い出せば、そんな笑ってしまうような幼いことをしつつ、秋口を迎える帰り道、ようやく彼女をみかけた。
心臓が早鐘のようになった。
 走り出したい気持ちになったが、駆け寄る足音であの娘を怖がらせてはいけない、こないだのような馴れ馴れしい声もかけないほうがいい。
とにかく自然に近くまで行って・・・・だが、なんて声をかけよう。
 いつもあの曲がり角までは追いつけないのにその日に限って、不思議と距離がどんどん近づいていったという。
手を伸ばせば肩に手が届くほど近くまで来て、暗がりなのにおかっぱの奇麗なうなじがはっきり見えたそうだ。

 初めて二人してあの曲がり角を曲がった。
ひょっとしてあの娘は歩みを緩めて、俺を待ってくれてるんじゃないだろうか・・・。
そう思うと急に勇気がわいて、思わず、

「 こんばんわ、いつも遅いですね。」

と声をかけたという。
 すると、娘は立ち止まった。
振り返らない。
またドン臭いことを言ってしまったのだろうか、本当に怖がらせてしまったかも・・・、と謝ろうとドモりながらその時になって初めて、そういえばなぜこの娘はずっとセーラー服姿なんだろうと思い始めたそうだ。
 その時、ふとおかっぱの頭のてっぺんに何か見えた。
月の光か、裸電球か、とにかく何かの光にキラリと光ったという。
それが何か確かめるまもなく、次の瞬間、

「 つぃっ!と、まるでエサが釣り上げられていくように、その娘は頭のてっぺんを引っ張られるように宙に飛び上がって、そのまま竹林の上を超えて、消えてしまった。」

 高度経済成長も始まった時代、Tさんはこんな経験をしたそうだ。
その後も一度だけ、その娘を見かけたがもう追いかけることはせず、素直に帰り道を変えたという。




















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