満月と黒猫日記

わたくし黒猫ブランカのデカダン酔いしれた暮らしぶりのレポートです。白い壁に「墜天使」って書いたり書かなかったり。

『心の宝箱にしまう15のファンタジー』

2006-05-30 01:42:25 | 

久しぶりに本の感想です。

『心の宝箱にしまう15のファンタジー』(ジョーン・エイキン著、三辺律子訳、竹書房)

わたしの大好きなイギリス児童文学作家、ジョーン・エイキンさんが、70歳になった記念に自ら特に気に入っている短編を選んで集めた本です。

今の児童虐待にも通じる環境で育ちながら決してくじけない少女が、たったひとつ与えられた自分だけの宝物を取り上げられそうになった時、不思議が起きる『ゆり木馬』、ものすごくマイナーなシリアルの箱に印刷された庭園模型を切り抜いて作ったら、その庭が本物になって、そこで主人公マークが不思議なお姫様と出会う『シリアル・ガーデン』、宮部みゆきの『ICO』にも通じるものがある少女の冒険物語『魚の骨のハープ』、活動的でちょっぴり不思議なおばあちゃんの家に預けられた孫デボラの物語『からしつぼの中の月光』など、15編も素敵な短編が収められています。

どれもすごくよかったのですが、わたしは特に『シリアル・ガーデン』が好きです。マークが不思議なお姫様と出会ったり、同じシリアルのシリーズで別の庭が印刷された箱を探したり、そのへんはいかにも児童文学的なのですが、マークがシリアル・ガーデンの中で出会ったお姫様と現実との間に思いも寄らないつながりがあり、そこからは大人も十分読み応えがあります。
このマークとその家族、アーミテージ家を主人公にした作品はいくつも書かれたらしく、この本の中にも複数収められています。それぞれ少しずつ無視できない繋がりがあるので、未訳のものがあるのなら是非とも訳して一冊にまとめて頂きたいところです。

わたしはエイキンさんを『ウィロビー・チェイスのおおかみ』などの空想的歴史小説で知ったのですが、このシリーズは本当に面白いので、未読の方には是非とも読んで頂きたいです。ただ、出版年が古いので、図書館などじゃないと見つけるのが
難しいかも。amazonには画像がありませんでした(涙)。

『ウィロビー・チェイスのおおかみ』→『バターシー城の悪者たち』→『ナンタケットの夜鳥』→『ぬすまれた湖』→『ささやき山の秘密』→『かっこうの木』と続くんですが、途中からほぼ主役の座を得るダイドー・トワイトという女の子が非常にいいです。生意気で向こう見ずで、どんな環境でも決してくじけない。また、お世辞にも美人ではないという設定がまた妙にリアルでいい(笑)。初登場時は正直かなりムカつく子どもなのですが、あまり愛情を貰えずに育ったからのようです。物語が進むにつれ、大好きなサイモンのために頑張って頑張って、『かっこう』でついに・・・!という感じ。
このシリーズの見所は、絵描きを志す優しい少年サイモンと生意気で暴れ者だけどとても魅力的な少女ダイドーの冒険とすれ違い、そして関西弁を喋る王族です(笑)。ホントに笑った。

ちなみに面白いお話では決まってそうなのですが、エイキンさんの書くお話も食べ物が非常に美味しそうです。これとか『指輪物語』とか読んでたら、「イギリスは食事が不味い」という定説はどうにも信じられません・・・。だってイギリスの児童文学のご飯はたいてい滅茶苦茶美味しそうだよ?

ところで今調べたところ、このシリーズは邦訳されていないものがまだあるようです!ギャー読みたい・・・!児童書レベルなら英語でも読めるかしら・・・!

途中から別の本に話題がずれてしまいましたが、『心の~』はこの2月に出た新刊なので、一番手に入りやすいと思います。短編の醍醐味、わくわくやハラハラやしんみりなどなど、いろんな味が味わえますよ。おすすめ!


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