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読んだ本の感想と旅行の日記を書いていきます。
後、その他なんかあれば・・・

55冊目:「こゝろ」

2011-08-09 22:11:49 | 
総評:★★★★★ 日本文学の最高峰だと思う
面白い度:★★★★★ なぜか引き込まれる
読みやすい度:★★★★★ 国語の教科書に載るだけある
ためになる度:★★★☆☆ 人の心とは
また読みたい度:★★★★★ あらすじを分かっているのに引き込まれる


有名すぎる夏目漱石の小説。
高校の時に夏休みの宿題で、この小説の読書感想文を書くように言われた。
当時は長そう、だったり、小説なんて、て思っていたが、夏休みが終わった後にイヤイヤ読んで書いてみた。

そしたらスイスイ読んでしまったという思い出がある。
当時は友達から小説を借りていたのだが、以前ブックオフで買っておいたので、この機会にまた読んでみることにした。


なんだろう。
この小説には独特の雰囲気があり、間がある。
それもまたスイスイ読まされてしまった。

高校生だった当時と比べて、文章の内容や、登場人物の感情などについて、さらに読解力が生まれていると思う。
そういった今の感受性をもってしても、やはりこの小説はとても面白いと思う。


・内容について
この小説は3部作となってはいるが、ほぼ、3部目の「先生と遺書」をメインとして書かれたものだ。
むしろ主人公は「僕」でなく「先生」である。
1部は先生を「僕」という読者?の視点から客観的に描きだしている。
その上で、先生の振る舞いの端々に見える「影」を謎として描き出し、読者の興味を誘っている。

僕と先生が知り合うきっかけやら、僕が先生と仲良くなっていく話については、本当に現実にはそこまで人に興味が湧くか?と思いつつも、先生にはやはり何かしらの魅力やら、人間的な深さを感じる。
1部は先生に興味を持ってもらい、先生に何かしらの影がある「謎」を感じてもらうための導入部分である。

2部は完全に3部につなげるためのブリッジであると思う。
クライマックスの3部に持っていくため、僕=読者に遺書を見せるために必要な出来事などの内容が書かれているが、前回読んだ時も今回読んだ時も実はあまり記憶に残っていない。

3部がこの小説の核心部分であり、先生が今まで僕に見せていた謎の全てが判明する。ここまで見て、やっとなるほどと思わせる内容になっている。
この3部がとても面白い。


・登場人物について
人に疑念を抱く先生。下宿先の奥さんの優しさと甲斐甲斐しさ、そして好意を寄せるお嬢さんとの生活。
ほのぼのとした生活の中、すさんでいた先生の心が少しずつ溶けていくくだりは、見ていてとても幸せな気分になる。そして先生の抱く恋がとても新鮮でうらやましい気持ちになった。

そしてKの登場。
先生の人生に大きな影響を与えるKの存在。
Kの人となりは、強情な所があり、ひたすら自分の道を突き進むといった性格であっても、どこか憎めない。
そして次第に変わっていくKの心情。。。


この小説の登場人物は、とても人間らしい人たちなのだと思う。
ホントに身の回りを探したらいそうな人。
その人達が、普通にありえそうなことをしている日常。そんな普通の描写の中でも、恋だったり、心の変化だったり、小さな出来事を通じての変化。
それがとても細かく、それでいて面白く書かれていると思う。

この何でもない日常を面白く書ける夏目漱石は本当にすごいと思う。


・Kについて
こゝろは登場人物のこころの変化がとても細かく丁寧に書かれていると思う。
Kが悩む姿は見ていて、Kだったらこう感じているんだろうな、とかこう変わってきたんだなとかが良く分かる。
Kが先生に悩みを打ち明けた時、先生が言った一言。
言葉そのものだけ見れば、そこまでひどいようには見えないが、今まで読んできた読者なら分かる。

Kにとっては何もかもを壊してしまう一言だったんだろうと思う。
ここがある意味この作品のクライマックスであるのだと思う。
実際そのような空気が伝わってくる。
Kは最終的に自殺をしてしまうが、自分はKは先生を恨んで死んだようではないと考える。

「覚悟」といっていたが、それは先生も後で思い返しているが、それはお嬢さんに、という訳ではなく、自分に対して、の覚悟であったと思う。
実際にああいった結末にはなったが、Kの考えている結末はそれはそれで大きく変わらないものであったのではないかと考える。
ただKの覚悟に対して背中を押したのは先生であったというのはあると思うが・・・


・こころについて
先生は若い頃犯してしまった自分の「罪」を後世まで自分の中に留めてきた。
それは誰かに話してもどうにもならないような葛藤であったと思う。
あの事件で、先生は世間から姿を消し、隠居のごとき生活を送ってきた。
先生の中にある影は歳を経るごとに大きくなるというわけではなく、常にある一定の大きさを持っており、それは小さくなることはなく、必ず先生の一部を占めていた。

叔父や親戚に見た自分が嫌ったはずの人間の醜さ。
誠実に生きてきたながらも、自分にもそれがあった、ということを突きつけられて、大きく悩み、そして悩み続ける。

誰でも持っているようなことだし、そういうことは多くの人がやったりすると思う。
しかし結果が結果となって先生を大きく縛り付けた。

先生は人間を嫌いになり、そして自分自身を嫌いになった。
先生の中の闇は常に先生自身を脅かし、自分自身と対話しつくした結果、先生は自殺を考えるようになる。


心の不安定さ、心の闇を持つ中でも、大切な人がいることでの心の安定、大切な人を幸せにしたいという気持ち。普段の日常の中の葛藤。そんな心の動きがとても綿密に書かれた小説でした。

読んだ後の後味は悪くはない。何か自分の心の中に一つ、充実したものが残った気がしました。

読んだのは2回目だが、とても面白く読めた最高峰の小説でした。
夏目漱石の文学はまだあまり読んではいないのだが、他にも色々読んでみようと思う。
コメント
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