夏になると、ヤモリがやってきます。
夜、窓からこぼれる電気の光に引き寄せられてやってくる虫たちを食べるためです。手足の吸盤を駆使して、窓全体を自由自在に行ったりきたり。音もなくぺた、ぺた、と獲物に忍び寄っては、目にも留まらぬ速さで舌を伸ばします。
Ｔが小さくてまだ言葉をよく話せない頃、窓にヤモリがやってくると、彼は真っ先にそれを指差し、声をひそめて“ちょこ！ちょこ！”と言っていました。彼なりの、ヤモリの呼び方だったようです。
今、５才になってまた窓にやってくるヤモリを楽しく観察する彼ですが、小さな頃自分がヤモリを“ちょこ”と呼んでいたのを覚えているかと尋ねてみたところ、不思議そうな顔をして首を振りました。
獲物をとるヤモリ、縄張り争いをするヤモリ、夏の夜は居ながらにしてヤモリの生態系をじっくり観察することができます。…さて、Ｒはこの珍客をなんと呼ぶようになるのかな？