今年で、リリースから30年となる。
『YOUTHANASIA』は、デイヴ・ムステイン、デイヴィッド・エレフソン、マーティ・フリードマン、ニック・メンザという、初期の黄金期を彩ったラインアップで作り上げた3枚目で、バンドとしては6thアルバムにあたる。
1990年に入ってから、スラッシュメタルという音楽形態は過渡期を迎え、ヘヴィメタルという音楽自体が大きく変容しようという時期を迎えていた。
上記のラインアップで最初に作られた『RUST IN PEACE』は、MEGADETH屈指の名盤として語られるアルバムであるが、この時からMEGADETHは既に自身が掲げていたインテレクチュアル・スラッシュメタルの音楽指向からやや離れ始め、より普遍的なHR/HM的アプローチをとり始めて来ていた。
スピードよりもヘヴィネスなグルーヴに重点を置いた音楽に取り組む様になったスラッシュメタルバンドは当時かなり多く、ALICE IN CHAINSやPANTERAの台頭、そしてMETALLICAがブラックアルバムをリリースした事が、90年代、特にスラッシュメタルシーンにとっては間違いなく転換期となった。
MEGADETHも例に漏れず、と見られてもおかしくはなかったが、1992年にリリースした『COUNTDOWN TO EXTINCTION』は、エッヂの効いたリフと、無機質な冷徹音を感じさせるサウンドプロダクションの作用、そして何よりも楽曲クオリティの高さにより、速さで勝負しない❝歌もののMEGADETH❞としては最高傑作とも言われるほどのアルバムとなった。
他の同系統のバンドがスピードでの勝負をしなくなった途端に魅力が失速したのをよそに、MEGADETHが成功したのは、そのMEGADETHらしいフレーズ構築を失わなかった事が一番の要因だろう。
ミドルテンポを軸にする事で、そのらしさというのを上手く生かすには?という考案を巡らせたバンドの明晰さが、他のバンドと確実な差を生み出したのは明らかだし、何だったらそれ以前のMEGADETHもそういった点では孤高であったかと思うんだよな。
んで、
『YOUTHANASIA』はその『COUNTDOWN~』の2年後にリリースされたのだが、スピード勝負に打って出ないというのは前作と同じ路線と言えるのだが、サウンドプロダクションはメタル然としたものというよりはもっとオーガニックな、ハードロック的な質感に寄せている。
しかも、速い曲はほぼ無い、ちょっと速いと感じるくらいの曲は1、2曲程度で、あとはミッド/スローテンポ。
MEGADETH初にして屈指のバラード「A TOUT LE MONDE」は、このアルバムに収録されている。
そんな事から、このアルバムはバンド歴代のアルバムとしても、強力な内容を詰め込んだ一枚とは言い難い。
特に「初期MEGADETHこそ至高」という崇高な思想を持ったファンからしたら、失敗作の一つと見られている事も多いんじゃないだろうかね。
思い入れの度合いの差はあれど、オレはMEGADETHのアルバムは基本的に全て良いと感じている。
アルバムの内容としての出来の良し悪しは出ていたりするものだが、トータルで判断した際に駄作と呼べるほどのものは存在してないんだよねェ。
この辺りファンだから偏った感性になっているのかもしれないが(笑)。
『YOUTHANASIA』は、オレにとっては重要なアルバムなんだよね。
元々、MEGADETHに触れたのは『PEACE SELLS...BUT WHO’S BUYING?』で、一聴した瞬間に「このバンドはヤベェ、カッコイイ」と思い、一気にハマった。
METALLICAよりもカッコイイと、あの当時正直思った。
残念ながらオレはMEGADETH結成時から追う事は出来ない年代でもあったため、当然後追いの身であるが、彼らを知ってからそこまでのカタログを聴いてきた。
その当時最後に聴いたアルバムが、『YOUTHANASIA』だった。
7th『CRYPTIC WRITINGS』は、まだリリースされていなかった時である。
『COUNTDOWN~』も聴いて良いアルバムだなと思っていたが、何故か『YOUTHANASIA』はそれ以上に琴線に触れるアルバムと感じた。
MEGADETHというバンドの生み出す魅力の核心に触れている様な気がしたんだよな。
「RECKONING DAY」での強烈なギターリフと展開は開放感がありながらも緊張感が漲り、「TRAIN OF CONSEQUENCES」でのトリッキーなメインリフと抒情性に溢れた旋律の進行と、この冒頭2曲は強大なインパクトだった。
以降の曲もミッドテンポであるからこそ上手く機能した聴かせどころを持っており、このアルバムの唯一の良点が「A TOUT LE MONDE」だけであるという物言いでバッサリ切り捨てるにはあまりにも勿体ない楽曲陣が居並んでいる。
当時アルバムに収録されていたボーナストラックにして唯一のスピードナンバーである「A CROWN OF WORMS」を含めたこのアルバムは、MEGADETHの何が魅力であるのか?というのをむき身で感じ取れるものだとオレは確信している。
スピードによって誤魔化した刺激を持たせず、意識過剰なメロディック路線にしてしまうわけでもなく、飽くまでもMEGADETHが従来持ち合わせている魅力的なリフ/フレーズを、赤裸々に曝け出したものが『YOUTHANASIA』である。
実際、このアルバム制作前、ムステインはドラッグとアルコール中毒に陥った事により、バンドの危機に(また)直面していたという。
その後のリハビリにより復活したムステインは、セラピー的な意味合いを持って曲を創り上げていた可能性があり、その為、この様なオーガニックなサウンドプロダクションに仕立て上げられたものであるとも考えられる。
この考察が当たらずとも、アルバムの質感がこうなった事が奏功したのは間違いないと思う。
その後、リマスターされたアルバムがリリースされる事になるが、やはりオリジナルのものと比べると引き締まってしまい、それにより重みある響きも失われた様に感じる。
今では出回っている過去カタログは、コレがスタンダードになってしまってるからなァ・・・・・・正直、『COUNTDOWN~』以降のアルバムはオリジナル盤の方が良いんだよな。
かつてほど耳にするという事はなくなっているが、やはり今でも好きなアルバム。
MEGADETH陣営も、このアルバムがリリース30年を迎える事をちゃんと広報してほしい。