素人、考古学・古生物学を学ぶ

人類の起源・進化・移動や太古の昔、日本に棲んでいたゾウ類にも関心があり、素人の目線で考えてみます。

  始祖鳥についての改訂増補版(5)

2024年04月14日 19時14分12秒 | 絶滅と進化
          
            始祖鳥は「鳥類」なのか、それとも「恐竜」なのか(5)
          


            第1章 始祖鳥の化石とその標本について
                     
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 今ではよく知られていることですが、地球上では三畳紀の中頃からジュラ紀そして白亜紀にかけて恐竜が大繁栄した時代だったと言われています。そんなわけで、われわれは中生代を恐竜の世代とも呼んでいるのです。ゾルンホーフェンが石灰石の採石所のある町と聞きますと、私たち日本人は戦前の三井・三池などの鉱山町の印象を受けますが、ゾルンホーフェンは自然の美しさ、文化遺産、そして化石など多くの遺産の組み合わせを示している風光明媚な村だといわれています。また、ゾルンホーフェンは、ジュラ紀後期の古代生物を明らかにする化石の宝庫であり、そして石灰岩でも有名な町ですが、上述しましたように始祖鳥(アーケオプテリクス)の化石でも有名です。多くの驚くべき化石標本が、ビュルガーマイスター・ミュラー博物館に収蔵されており訪問者を喜ばせてくれるそうです。始祖鳥の最初の骨格標本として知られる「ロンドン標本」は、1861年にゾルンホーフェンの隣町ランゲナルトハイムで発見されましたが、1863年にリチャード・オーウェン(Sir Richard Owen:1804-1892)が Archaeopteryx macrura として記載し、「大英博物館自然史分館」(現在のロンドン自然史博物館)の所蔵するところとなったと言われています。わたしは大英博物館には2度行っているのですが、始祖鳥の標本については気にもとめませんでした。実にもったいないことをしたと、今悔やんでいます。

 わが国の多くの博物館で展示されている始祖鳥の標本の殆どが「ベルリン標本」のレプリカのように思います。
確かに、最初の骨格の記載標本は、「ロンドン標本」ですが、いろいろ調べてみて、「ベルリン標本」が始祖鳥の化石標本としては大変評価が高いことが分かりました。
 本稿で取り上げています「ベルリン標本」は、群馬県多野郡神流(かんな)町中里地区にある「神流町恐竜センタ-」に展示されているものを前提にしています。その理由は、センター内に「写真撮影自由」という掲示が出ており、個人のブログで紹介する程度なら、敢えて許可をとらなくても問題ないのではないかと勝手に解釈しているからです。

 始祖鳥の標本は、2014年までに12体が発見されています。因みに、最初の標本は、上述のように、ロンドン標本(London Specimen)、2番目がベルリン標本(Berlin Specimen)、3番目がマックスベルク標本(Maxberg Specimen)、4番目が、ハールレム標本(Haarlem Specimen)、5番目がアイヒシュテット標本(Eichstätt Specimen)、6番目がゾルンホーフェン標本(Solnhofen Specimen)、7番目がミュンヘン標本(Munich Specimen)、8番目がダイティング標本(Daiting Specimen)、9番目が、ブルガーマイスター・ミュラー標本(Bürgermeister-Müller Specimen)、10番目がサーモポリス標本(Thermopolis Specimen)、11番目が2011年、そして12番目が2014年発見されたもので個人の手元で保管されています。以上の12体がこれまで確認されている始祖鳥標本のすべてです。

 ところで、わが国を代表する博物館、上野の国立科学博物館(略称:「科博」)の地球館に常設展示されている始祖鳥の標本は、本稿に掲載した「ベルリン標本」と全く同じレプリカです。ただ、「科博」の常設展示では、分類階級の綱名が「鳥綱」となっています。異論を唱える訳ではありませんが、始祖鳥の綱名を「鳥綱」としますと、現生鳥類の「スズメ」などと同じ扱いになりますので、1億5000万年前に生息していた始祖鳥がスズメなど現生鳥類の直接の祖先のようにも受け止めかねません。それだけのことなんですが、始祖鳥の綱名を爬虫綱としている事例も多くありますから一言注釈があった方が素人には親切ではないかと思っています。

 因みに、「まえがき」でもふれましたがもう一度スズメについて分類階級を表しますと、学名は Passer montanusです。綱名は鳥綱、目名はスズメ目、科名はスズメ科、属名はスズメ属、種名はスズメ種、亜種はP. montanus. montanus (Linnaeus, 1758)など9亜種あります。始祖鳥もそれで良いのかどうか、何か引っかかるものがあるのです。そこで英文のWikipediaのArchaeopteryx(アーケオプテリクス:始祖鳥)の説明を調べてみました。
そこには「ベルリンのアルケオプテリクスの標本を例に、学術分類の「綱」に相当するClade(クレード)はDinosauria(ダイノサウリア:恐竜)」と表記してありました。
以上のことからも、分類学上の「階級」問題は素人には実に厄介で、且つ難しいものであることを痛感した次第です。それにしても、「科博」の始祖鳥の綱名には一言解説が欲しいですね。

 始祖鳥の文献は、論文・図鑑などが多くありますが、わたしが手放せないのがマルコ・シニョウーレ(Marco Signore:1971~ )の『始祖鳥とジュラ紀のなぞ;飛ぶことを学んだ恐竜たちの出現』(2008)です。いまだに繰り返し読んでいます。著者はイタリア・ナポリの出身で、ナポリ大学フェデリコⅡ世で脊椎動物古生物学部を卒業、英国ブリストル大学で「古生物学とタフォノミー(taphonomy、「化石生成論」)」の研究を行い、博士号を取得しています。本人の「教育研究経歴」によりますと、「主な活動分野は、コミュニケーション(特に科学コミュニケーション)、博物館学、および海洋環境における脊椎動物の古生物学である」、と記しています。

 マルコ・シニョウーレによりますと、「始祖鳥は科学の歴史の中で、名誉ある地位を与えられている」、と言っています。その理由として、始祖鳥は、獣脚類に羽毛があったことを実証し、また、鳥類と恐竜が近縁であることも明らかにした」、と述べています。今日ではこのことについて論争する研究者はいないとも述べています。そして始祖鳥の化石は、世界でも最も有名な化石の一つであるとも指摘しています。それだけにいろいろな情報も錯綜するのだとも言っています。
 そのひとつが、天文学者のフレッド・ホイルと生物物理学者のリー・スペトナ-の二人の科学者によるロンドンの自然科史博物館の始祖鳥の化石標本は「にせ物だ」とする告発本を書いたことだ、と指摘しています。しかし、この「にせ物説」は、英国の古生物学者らによって退けられたと、と言う話も有名なことなのです。

 1億5000万年前に生息していた始祖鳥の化石を研究し、最初に「鳥類」として扱ったのは、英国の古生物学者であり、また比較解剖学者でもあったリチャード・オーウェン(Sir Richard Owen、1802-1892)であると言われています。1863年1月、オーウェンは始祖鳥の化石を大英博物館自然史分館のために購入したそうです。
この彼の意図は、大英博物館自然史分館(現在のロンドン自然史博物館)を彼の管理下おきたかったからではないかと見られています。それもあながち間違いではないのです。なぜなら、彼は1856年に大英博物館自然史部長になるまで、王立外科医師会のハンテリアン博物館の教授の職務を務めていました。その後、自然史関係専門の国立博物館を作るという壮大な計画にその精力の大部分を注ぎ込んだと言われているからです。

 オーウェンが大英博物館自然史分館のために購入したその始祖鳥の化石は、それは長い尾椎と翼に指のある原鳥類と考えていたダーウィンの始祖鳥観を満たすものだったのですが、オーウェンは進化論には反対する立場から始祖鳥を鳥類として記載したと言われています。しかし、この記載に対しては、鳥類の起源に関する研究で高名な英国の生物学者の一人、トマス・ヘンリー・ハクスリー (Thomas Henry Huxley、1825–1895)が猛反論したとも言われています。
また、オーウェンはいまから凡そ180年前の1842年に、恐竜の亜目名を「恐ろしいトカゲ」(英名:Dinosaur)、ダイノサウリア(Dinosauria)であると記載して、英国科学振興協会で報告したのですが、その際、この「巨大化したトカゲ」に対して、オーウェンは独自に亜目名を設ける必要のあることを提起したのだそうです。しかし、このことについても世界の研究者の間では諸説あると聞いています。

 英国の科学誌ネイチャーを出典とする分類「系統図」の一つには下記のような図(図は割愛します)も見かけます。図中にありますように、「始祖鳥は鳥ではない?」、と疑問符が付されています。それでは一体「始祖鳥」とは何なんだろう、と言う疑問が生じます。昨今では、鳥類学者の中からも大空を自由に飛翔している現生鳥類は、およそ6600万年前まで繁栄し、地上を支配していた恐竜の子孫であることを認める一説も飛び出し、その意味では恐竜のすべてが完全に絶滅したわけでないとする見方もあるわけです。
 鳥類学者で国立研究開発法人森林開発・整備機構森林総合研究所の川上和人氏は、氏の蘊蓄の宝庫とも言える著書「鳥類学者だからって鳥が好きだと思うなよ」(新潮文庫、239頁)において、絶滅した恐竜は「非鳥類型恐竜」だとも言われています。