素人、考古学・古生物学を学ぶ

人類の起源・進化・移動や太古の昔、日本に棲んでいたゾウ類にも関心があり、素人の目線で考えてみます。

アケボノゾウをさぐる(7)

2022年06月04日 10時59分30秒 | 絶滅した日本列島のゾウたち
         
       アケボノゾウをさぐる(7)


   アケボノゾウのご先祖さん(その5)
  
  
  ハチオウジゾウ発見の瞬間 ―相場博明先生の記録(報告)を読む―(2)

 〔前回の文中の「 」内は、「浅川産ハチオウジゾウを使った体験学習のための基礎的研究と実践」(『とうきゅう環境浄化財団報告書』2005)相場博明「ハチオウジゾウ発掘記」からの引用です。なお、文中にありますように、便宜上「相場」(2005)と略して用いています。〕

「相場」(2005)の文の中にありますが、「メタセコイア」という植物についてですが、日本では滋賀県高島市マキノ町(マキノ高原)の現存種のメタセコイア並木は、四季を彩る風物詩となっていることでも有名です。絶滅種のメタセコイアは、6000万年前から200万年前に栄えた植物です。
 
 また、つい先日まで、国立科学博物館では、2021年1月26日(火)から2021年 4月4日(日)までの期間、「メタセコイア -生きている化石は語る」と題するテーマで企画展が開かれていました。同博物館には、鉄平石を2、3枚重ねたような厚さのメタセコイアの化石が保管されていますし、埼玉県立自然の博物館には高さが30から35メートル位にまで成長した現存種のメタセコイアが4本あります。小さなマツぼっくりのような実が落ちているのを拾ってきたことがあります。

 最近は、街路樹として、また校庭などにも植えてあるところがありますが、成長が速く場合によっては数十メートルにもなりますから、街中では気を付けた方がいいようです。

 1949年に現存種のメタセコイアの苗が、米国の育苗学者から天皇に献上されたのが、わが国のメタセコイアの現存種の第1号と言われています。

 絶滅種のメタセコイアと言う名は1939(昭和14)年、植物学者三木茂(1901-1974)博士(大阪市立大学教授)がセコイアに似た植物の化石を発見し、メタセコイアと命名しています。一説には1941年に発見したとも言われていますが、わたしは下田 親(しもだ ちかし)大阪市立大学名誉教授の『科学エッセイ:生命の森をさまよう』(第169回「メタセコイアと三木茂先生」)を参照しております。
 
 1941年説は、多分「特に1941年には、メタセコイアの化石を発見し、博士が復元したとおりの現生のメタセコイアが中国で発見され話題になりました」(大阪市立自然史博物館の特別陳列「三木茂博士が収集したメタセコイア化石と水草標本」の記事中に)と言う説明に依拠したものだと思われます。しかし、この文の意味は、「中国で発見され話題に」なったのが「1941年」、と言うことではないでしょうか。

 大分横道に逸れてしまいましたが、おそらく相場先生も太古のロマンを求めてメタセコイアの化石を求めておられたようです。ところが、290万年~210万年も太古の時代に生息していたと新種のゾウの化石に発見されたのです。

 半世紀ぶりの新種のゾウ、ハチオウジゾウの化石が相場先生によって発見されたその瞬間は、以上のような経緯によるものだったのです。

  NHKは、新種のハチオウジゾウについて、2010年7月31日、「発見の化石は新種の古代ゾウ」として、以下のように報じています。

 9年前、東京・八王子市で見つかった古代のゾウの化石が、歯の特徴などから日本固有の新しい種類のゾウと確認されました。新種のゾウの化石が確認されたのはおよそ50年ぶりで、進化を探るうえで貴重な手がかりと期待されています。

 この化石は9年前、八王子市の河川敷で、教員などでつくる研究グループが230万年前の地層から発掘しました。長さ1メートル60センチの牙2本をはじめ、歯や足の骨などあわせて40点が見つかっています。研究グループで、種類を見分ける決め手になる歯の構造を調べたところ、アジアを中心に生息した古代のゾウ「ステゴドン」の仲間で、奥歯の凹凸の数から日本固有の新しい種類だとわかりました。

 「ハチオウジゾウ」と名付けられたこのゾウは、体の高さが2メートル50センチほどあったとみられます。日本固有のステゴドンの仲間は、400万年前から80万年前にかけて生息し、体の高さは3メートルから2メートルほどに小さくなっています。日本は300万年前ごろから徐々に大陸から離れたとみられています。今回の発見は、その後、古代のゾウが日本で小型化していく過程を知る貴重な手がかりと期待されています。日本固有の新しい種類のゾウの化石が確認されたのは、昭和34年の宮城県の「ミヨコゾウ」以来、およそ50年ぶりのことです。

 ところで、相場先生をはじめとするハチオウジゾウ発掘チームにひと言ふれておきますと、その学術的貢献はもとより、発掘した化石を実践的に理科教育における教材として、いかに活用するか、室内教育と野外実習教育を結び付ける新たな教育の方向性を示す研究に取り組まれたのです。それが、「浅川産ハチオウジゾウを使った体験学習のための基礎的研究と実践」(『とうきゅう環境浄化財団報告書』2005、以下『報告書』と略称します。)と題するテーマでまとめられました。その中にすでに指摘しました「相場」(2005)も含まれています。

 また、『報告書』(2005)の「はしがき」で、編者の馬場勝良(慶應義塾幼稚舎 教諭)先生は、第一に、「ハチオウジゾウを産した八王子市楢原の北浅川河床に露出する地層や化石を基に,ハチオウジゾウを用いた新たな野外地質教材の教材化を行った」こと。第二に、「教材化と実践を行うにあたり,野外実習だけを実施するのではなく,教室をできる限り野外に近づけた室内学習も計画,実施し,それら2つの実習についての評価も行い比較研究を行った」ことを明らかにしています。そして第三に、この報告では、「2つの実習を比較することにより,室内実習はどこまで野外実習の代わりになりうるのかということが明らかになると同時に,野外実習ならではの教育的な効果についても言ハチオウジゾウを用いた地学野外実習及し,新たな視点で野外実習の重要性を指摘」して、『報告書』(2005)の意義を一層明確にしています。

 なお、この点に関しては、同報告書の中に、相場博明、小林まり子、松川正樹の3人よる共同論稿が、「ハチオウジゾウを用いた地学野外実習─室内学習と野外学習の比較に基づく地質学習の意義と評価方法の検討─」として収載されています。