とんねるず主義+

クラシック喜劇研究家/バディ映画愛好家/ライターの いいをじゅんこのブログ 

トラブルボックス 恋とスパイと大作戦

2006年12月06日 22時01分57秒 | 世界的笑世界
『トラブルボックス 恋とスパイと大作戦』
(Don't Drink The Water ウディ・アレン監督 1994 アメリカ)


マイケル・J・フォックス+ウディ・アレン=??
劇場公開作品ではなくって、94年にABCテレビで放映されたTV映画だそうです。

<あらすじ>
東西冷戦まっただなかの1960年代。舞台は欧州の、とある共産主義国家にあるアメリカ大使館。大使の帰国中、大使の息子で外交官のアクセル・マッギー(マイケル・J・フォックス)が管理にあたることに。ところがアクセルは外交能力ゼロのダメ息子だった。そこへ、アメリカ人観光客のホランダー一家(ウディ・アレン、ジュリー・カヴナー、メイム・ビアリク)が逃げ込んできたからさあ大変。スパイに間違われた彼らは、助けを求めて大使館に駆け込んだのだ。何年も幽閉されている手品好きの神父や、ゲテモノ料理専門のシェフ、中東の要人たちも巻き込んで、大使館はもう大騒ぎさ。


昔ウディ・アレンが書いてヒットした舞台の戯曲を、テレビ用に書き直して映像化。

ウディ・アレンとテレビ・・・という組み合わせも意外だし、ウディ・アレンとマイケル・J・フォックス・・・という組み合わせもちょっと意外ですよね。その意外性に惹かれて、観てみました。マイケル・J・フォックス、好きだし。

おもしろかったですよ~!笑いこけました!

ウディ・アレンの初期のスラップスティックが好きな方なら、若いころのアレンが戻ってきたような感覚に、涙ちょちょぎれること間違いなしです。

一応「冷戦」を皮肉ってるんだけど、同時に、どこへ行ってもオレ流を通そうとするニュージャージーの田舎のおっちゃん(ウディ・アレンが演じている)をもおちょくって描いている。

ウディ・アレンの親父役もめずらしいですが、これがめちゃめちゃハマってるんです。大使館のシェフとのバトルなんて、もう最高(笑)。ジュリー・カヴナー(←すばらしいコメディエンヌ)との夫婦漫才ぶりも、ほほえましくもバカバカしい。
「オレはビーチに行きたかったのに、お前のアニキがヨーロッパを勧めるからこっちに来たんだ。言わんこっちゃない!」(笑)

どうしても哲学的になってしまうクセのあるウディ・アレンですが、この作品はそんなもんはどっかにうっちゃって、ドタバタに徹しています。だから、な~んも考えずに気楽に楽しめる。

テレビだからなのか、細かいカット割りなどはせず、長回しを多用し、手持ちカメラでドキュメンタリータッチで撮っています。ナレーションは60年代のニュース映画風。初期の『泥棒野郎』や『バナナ』に戻ったみたいに遊びまくっている。

キャメラマンは90年代のアレン作品でおなじみカルロ・ディ・パルマ。あら。フィルモグラフィーをみると、この人『摩天楼<ニューヨーク>はバラ色に』でマイケル・J・フォックスと仕事をしたことがあるんですね。

さてキュートなマイケルはといえば、ちょっとぬけたドラ息子を好演しています。ウディ・アレンのパワーに気押されながらも、何とか食らいついていこうという真剣さがにじみでていて、うまく役にハマっていると思います。ふたりの身長も同じくらいで、観てて可愛い(笑)。

自伝『ラッキーマン』の中でマイケルは、
「ウディ・アレンの次の企画がなににせよ、『マイケル・J・フォックス』の名前が1番目、2番目、3番目、いや47番目であってもウディ・アレンの頭に浮かんでくるなんて思ってもいなかった」
と書いています。でも、おそらく彼は、ウディ・アレンの作品に出たいという希望をずっと持っていたんじゃないかな~という気がします。

1994年は、マイケルにとって転機でした。90年にパーキンソン病を宣告されてから、絶望、そしてアルコールにおぼれるどん底の日々を経験していた彼が、カウンセリングを受けてようやく心の平穏を得たのが94年の春(この経緯は『ラッキーマン』に詳しく書かれていますが、非常に感動的です)。

なにがなんでも「映画スター」の地位を守らねばならない、という強迫観念から解放されて、「自分のやりたいことだけをしよう」とマイケルは決心します。で、何年ぶりかでテレビに戻り、ウディ・アレン作品に出演。やったね、マイケル。

『ラッキーマン』には、映画以外で「忘れられないこと」として、撮影当時のウディ・アレンの状況についてもふれられています。そう言われれば・・・この時期、ウディ・アレンは韓国系アメリカ人の少女との恋愛がスキャンダラスに報じられて、私生活が泥沼状態だったんだ・・・。

「ウディが演じたり監督したりするところを見ていると、その日の朝ニューヨークのタブロイド紙の一面いっぱいに彼の顔写真と彼が経験している厳しい試練のことが載っていたことなど思いもつかなかった。・・・同時に、あの当時はぼくも自分の悩みが片時も頭を離れなかったので(ありがたいことに、まだ一般の人の目には触れていなかったが)、彼の集中力を見て自分を励ましていた」


人生の最悪の時期をくぐりぬけつつあったふたりのアーティストが、こんなにもおバカで楽しいドタバタ喜劇を作ってくれたんだなあ・・・彼らに心からの敬意を表したい!



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