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漢検一級 かけだしリピーターの四方山話

漢検のリピート受検はお休みしていますが、日本語を愛し、奥深い言葉の世界をさまよっています。

貫之集 737

2025-04-22 05:18:13 | 貫之集

おなじ人の下るに、逢坂までおくらむとて兼通の大夫のこの料によませたる

いでてゆく みちとしれれど あふさかは かへらむときの なにこそありけれ

出でて行く 道と知れれど 逢坂は 帰らむときの 名にこそありけれ

 

同じ人が下るに際して、兼通大夫が逢坂の関まで見送るとして、そのために詠ませた歌

逢坂は都から出て行くための道筋にあるとは承知していますけれど、「逢坂」という名は、あなたさまがお帰りになるときにまたお逢いできるという意味なのですよ。

 

 「兼通の大夫」は藤原兼通(ふじわら の かねみち)のこと。「同じ人」、すなわち藤原興方(ふじわら の おきかた)の甥にあたります。「逢坂」はその名から好んで歌に詠まれる歌枕ですね。

 

 


貫之集 736

2025-04-21 03:37:59 | 貫之集

ひとはいさ われはむかしの わすれねば ものへとききて あはれどそおもふ

人はいさ われはむかしの 忘れねば ものへと聞きて あはれとぞ思ふ

 

他の人はいざ知らず、私は昔のことを忘れないので、あなたさまが遠くへ行くと聞いて、寂しく思います。

 

 同じ詞書(734)による三首目の歌。「ひとはいさ」と聞けば、あまりにも有名な歌が思い出されますが、あちらは「人」と「花」との対比、こちらは「他の人」と「自分」の対比ですね。

 

ひとはいさ こころもしらず ふるさとは はなぞむかしの かににほひける

人はいさ 心も知らず ふるさとは 花ぞ昔の 香ににほひける

古今集 0042、貫之集 790)


貫之集 735

2025-04-20 04:12:48 | 貫之集

そのひとの とがにおぼゆる からころも わすらるなとて ぬげるなりけり

その人の とがにおぼゆる 唐衣 忘らるなとて ぬげるなりけり

 

私が衣を贈るのも、遠くへ行ってしまうというあなたさまの罪だと思いますが、私を忘れてしまうことのないよう、脱いで贈るのですよ。

 

 詞書は 734 と共通。次の 736 も同じです。誰が誰に脱いだ衣を贈ったのか、はなむけの宴の歌ですから普通に考えれば贈られたのが旅立つ興方ということかと思いますが、興方が残してゆく妻に贈ったとする解釈もあるようです。難解な歌ですね。


貫之集 734

2025-04-19 05:02:36 | 貫之集

尾張守藤原興方が下るに、幣、装束やるとて加へたる

たつぬさの わがおもひをば たまぼこの みちのべごとの かみもしるらむ

裁つ幣の わが思ひをば 玉ぼこの 道のべごとの 神も知るらむ

 

尾張守藤原興方が任地に下るに際して、幣、装束を贈るのに添えて詠んだ歌

裁つ幣に込めた私の思いを、道中のおりおりであなたさまをお守りする神も、おわかりいただけることでしょう。

 

 「玉ぼこの」は「道」にかかる枕詞ですね。


貫之集 733

2025-04-18 06:05:45 | 貫之集

筑後守の下るに、扇やるに加へたる

あふげども つきせぬかぜは きみがため わがこころざす あふぎなりけり

あふげども つきせぬ風は 君がため わがこころざす 扇なりけり

 

筑後守が任地に赴くにあたって贈られた扇にそえた歌

扇をあおって尽きることなく立つ風は、あなたさまのために私が心を込めてお贈りする扇の風なのですよ。

 

 「あふぐ」という語が印象的ですね。695 にも出てきた語です。