人の国へ下るに、旅にてよめる
いとによる ものならなくに わかれぢの こころぼそくも おもほゆるかな
糸による ものならなくに 別れ路の 心細くも 思ほゆるかな
人が地方へ下るに際して、旅の道中に詠んだ歌
糸に縒ることができるわけでもないのに、別れて旅路を行くのは、まるで糸のように心細く思われることであるよ。
この歌は、古今和歌集(巻第九「羇旅歌」 第415番)、拾遺和歌集(巻第六「」 第330番)に入集しています。
古今集のページでもご紹介しましたが、この歌に関して吉田兼好は徒然草第十四段で
貫之が、「絲による物ならなくに」といへるは、古今集の中の歌屑とかや言ひ傳へたれど、今の世の人の詠みぬべきことがらとは見えず。
と記載しています。兼好は反論していますが、当時「歌屑」と酷評された歌でもあったのですね。