goo blog サービス終了のお知らせ 

漢検一級 かけだしリピーターの四方山話

漢検のリピート受検はお休みしていますが、日本語を愛し、奥深い言葉の世界をさまよっています。

貫之集 747

2025-05-02 05:23:56 | 貫之集

河原の大臣亡せたまひてのちに、いたりて、塩釜といひしところのさまの荒れにたるを見てよめる

きみまさで けぶりたえにし しほがまの うらさびしくも みえわたるかな

君まさで 煙絶えにし 塩釜の うらさびしくも 見えわたるかな

 

河原の大臣が亡くなってのちにやってきて、塩釜という場所が荒れてしまっているのを見て詠んだ歌

あなたさまがいらっしゃらなくなって、塩を焼く煙を絶えてしまった塩釜が、うら寂しく見えていますよ。

 

 この歌は、古今和歌集(巻第十六「哀傷歌」 第852番)に入集しています。
 「河原の大臣」は第52代嵯峨天皇の皇子で左大臣の源融(みなもと の とおる)のこと。その邸宅の庭に、奥州の塩釜を模した一角があったとされています。百人一首(第14番)の歌も著名ですね。

 

みちのくの しのぶもぢずり たれゆゑに みだれそめにし われならなくに

陸奥の しのぶもぢずり 誰ゆゑに 乱れそめにし われならなくに


貫之集 746

2025-05-01 04:21:19 | 貫之集

主亡せたる家に桜花を見てよめる

いろもかも むかしのこさに にほへども うゑけむひとの かげぞこひしき

色も香も むかしの濃さに にほへども 植ゑけむ人の 影ぞ恋しき

 

主人が亡くなった家の庭に咲く桜花を見て詠んだ歌

色も香りも昔と変わらない濃さで咲き匂っているけれども、今は亡き、それを植えた人の姿が恋しい。

 

 この歌は、古今和歌集(巻第十六「哀傷歌」 第851番)に入集していますが、そちらの詞書には、「あるじ身まかりにける人の家の、梅の花を見てよめる」とあり、梅の花を詠んだ歌とされています。私の中では、桜は花の美しさが、梅は匂い立つ香りがより多く詠まれるイメージがありますが、この歌はその両方を詠んでいるので、桜と梅どちらでも良い、と言ったら身も蓋もないですかね ^^;;;
 なお、「にほふ」は古語では視覚・嗅覚両方で用いられます。


貫之集 745

2025-04-30 04:21:40 | 貫之集

山寺に行く道にてよめる

あさつゆの おくてのやまだ かりそめに うきよのなかを おもひぬるかな

朝露の おくての山田 かりそめに 憂き世の中を 思ひぬるかな

 

山寺に行く道で詠んだ歌

朝露の置いた山田の晩稲を刈り始める時分であるが、自分はこの憂い多い世の中をかりそめのものと思うようになったよ。

 

 第三句「かりそめ」は「狩り初め」と「仮そめ」の掛詞。初二句がその「かりそめ」を導く序詞になっていますね。
 この歌は、古今和歌集(巻第十六「哀傷歌」 第842番)に入集しており、そちらの詞書には「思ひにはべりける年の秋、山寺へまかりける道にてよめる」とあります。「思ひ」はここでは喪の意で、友則の喪とも貫之の母の喪とも言われているようです。

 


貫之集 744

2025-04-29 04:30:03 | 貫之集

紀友則亡せたるときによめる

あすしらぬ いのちなれども くれぬまの けふはひとこそ あはれなりけれ

明日知らぬ 命なれども 暮れぬまの 今日は人こそ あはれなりけれ

 

紀友則が亡くなったときに詠んだ歌

明日をも知れぬ私の命であるけれども、今日が暮れぬ間のひととき、亡くなった人のことをあわれに思うのであるよ。

 

 貫之と友則は従兄弟同士で、古今和歌集の選者4名のうちの2名ですね。この歌は古今和歌集(巻第十六「哀傷歌」 第838番)、拾遺和歌集(巻第二十「哀傷」 第1317番)に入集います。選者である友則の死に際して詠まれた歌が入集していることで、友則が古今和歌集の完成を待たずに没したことがわかります。
 なお、両勅撰集入集歌では、第二句が「わがみとおもへど」、第五句が「かなしかりけれ」とされています。

 


貫之集 743

2025-04-28 04:56:05 | 貫之集

あひ知れる人の亡せたるによめる

ゆめとこそ いふべかりけれ よのなかは うつつあるものと おもひけるかな

夢とこそ いふべかりけれ 世の中は うつつあるものと 思ひけるかな

 

互いに知っている人が亡くなったので詠んだ歌

この世ははかない夢であるとこそ言うべきであったのだ。あのひとと共に生きたこの世の中には、確かな現実があると思っていたけれども。

 

 現実と思っていた世の中は、親しい知人を亡くしてみると、実は儚い夢であったのだと実感されたという詠歌。悲しい歌ですね。
 この歌は、古今和歌集(巻第十六「哀傷歌」 第834番)、拾遺和歌集(巻第二十「哀傷」 第1318番)に入集しています。

 

 本日から、貫之集第八「哀傷」の歌のご紹介です。