エコポイント&スマートグリッド

省エネ家電買い替え促進で有名となったエコポイントとスマートグリッドの動向を追跡し、低炭素社会の将来を展望します。

原発稼働とエネルギーシステムを巡る「不都合な真実」とスマートグリッド

2011-12-13 05:59:21 | Weblog
あまり指摘されていませんが、日本においては、遅くとも2020年までにこうしたエネルギー供給システムの大転換を行わなければならないという差し迫った事情があります。福島第一原発事故後、日本のエネルギー構成にあり方を巡って、政府の審議会、新聞、テレビなどのマスコミなど数多くの場で原発推進派と原発反対派との間で“ホット”な議論が展開されています。論点はいろいろありますが、最後まで残る論点は、安全性に関する判断や未来世代の負担という持続可能性に関する判断など価値判断に関わるものです。価値判断が伴う問題に対しては簡単には答えは出せませんが、ここで指摘したいのは、そうした価値判断の前にある冷徹な事実とそれに伴う事実認識の必要性です。事実として、使用済み核燃料の保管場所がなくなることが制約となって、2020年までにはいくら安全な原発であっても稼働しえない状況が生まれます。あと10年弱の短期間で、エネルギーシステムの大転換を成し遂げなければならないのです。

原発稼働に伴って出てくる使用済み核燃料に関しては、現在は日本各地にある原発の原子炉建屋内のプールに貯蔵されていますが、あと5年を待たずして満杯になる状況です。使用済み核燃料を再処理してプルトニウムを抽出し、プルトニウムは高速増殖炉や軽水炉における燃料として利活用するとともに、抽出後の高レベル放射性廃棄物に関しては、地中深く地層処分するというのが政府の方針ですが、青森県六ケ所村にある再処理工場は稼働のめどが立たず、高速増殖炉のもんじゅは、度重なるナトリウム漏えい事故等もあり廃炉の可能性すら検討されている状況です。さらに、地層処分の最終処理場の選定や立地に関してはまったくめどが立っていません。そうすると、残る手段としては金属製のキャスクと呼ばれる容器に封入して貯蔵するしかありませんが、これとて原発の敷地内外の適地は次第に満杯になっていきます。現に敷地外の貯蔵地として中間貯蔵施設が青森県むつ市に建設されていますが、貯蔵能力に限界があり、福島第一原発事故後の原子力をめぐる厳しい地元世論の動向を見ると、新たな中間貯蔵施設の建設は無理な状況です。米国をはじめとする他の原発先発国においても、このような使用済み核燃料の保管場所がなくなるという限界に直面しています。

さらに、東日本大震災、福島第一原発事故がわれわれに突き付けた課題は、大規模・集中型エネルギーシステムではエネルギーの64%を捨てる構造となっており、その見直しが急務になっているということです。現状のエネルギーシステムでは、火力や原子力など発電段階でのエネルギー効率は40%。60%は熱として捨てています。さらに送電ロス、直流から交流、交流から直流への変換ロスをあわせて5%強が消え、家庭や産業などの需要家に届くエネルギーは元のエネルギーの36%程度に過ぎません。発電用に確保したエネルギーのうちの64%は、使わずに捨ててしまうわけです。これは日本に限った話ではありません。各国の状況を見ると、アメリカが約62%、イギリス63%、フランス72%、そして中国は79%と、いずれも非常に高い数字が出ています(データは「2005年エネルギー白書」)。

この構造を変えるのがスマートグリッドです。64%を捨ててしまう大規模・集中型エネルギーシステムの仕組みを根本から見直す。具体的には、エネルギーを電気だけではなく熱としても取り出すコジェネ、発電効率が飛躍的に向上するコンバインドサイクル発電(ガスタービン発電と蒸気タービンによる発電を組み合わせたシステムで、発電した後に排気されたガスの廃熱を使って、もう一度蒸気タービンを回す非常に効率の良い発電システム)の導入、太陽光や風力など小規模の発電システムを各所に設置する分散型電源を取り入れて、エネルギーロスの少ない小規模・分散ネットワーク型のシステムを整備していくことです。スマートグリッドというと、ともすれば、太陽光や風力などの再生可能エネルギーの導入拡大の問題とリンクして捉えられることが多いのですが、単に再生可能エネルギーの導入拡大の問題にとどまることなく、広く、各種の分散型電源の導入拡大、発電効率の向上、電気だけではなく熱も考慮した総合エネルギー効率の向上などの多くの課題に対応するエネルギー網を構築するというものとしてスマートグリッドを捉える必要があります。