デューク・アドリブ帖

超絶変態ジャズマニア『デューク・M』の独断と偏見と毒舌のアドリブ帖です。縦横無尽、天衣無縫、支離滅裂な展開です。

映画キャロルで流れた Easy Living

2016-03-20 09:15:59 | Weblog
 まず予告編にやられた。クールビューティーのケイト・ブランシェットとバックに流れるジョー・スタッフォードの「No Other Love」がシンクロされて脳裏に焼き付く。アカデミー賞にノミネートされたトッド・ヘインズ監督の「キャロル」だ。残念ながら賞は逃したものの傑作といっていい。この作品でカンヌ国際映画祭女優賞を受賞したルーニー・マーラがたどたどしいながらも美しいメロディーラインをピアノで弾くシーンがある。

 「Easy Living」だ。そして♪Living for you is easy living It's easy to live when you're in love・・・が流れる。1937年にブロンズウィックに吹き込んだビリー・ホリデイの決定的名唱だ。テディ・ウィルソン楽団がバックで、勿論レスター・ヤングも参加している。しかもLP時代になってコロムビアから発売された10吋盤も出てくる。更に驚いたのはジャケットがピッカピカで、ディスクもノイズがない。時代設定は1950年代前半なので、1949年にリリースされたこのレコードが傷んでいては台無しということか。こんなに状態の良いものを所有しているコレクターに敬服する。

 「気ままな暮らし」というそれこそイージーな邦題が付いているが、歌の内容からいうと歌詞の頭の「あなたのために生きるなら」というタイトルのほうがしっくりくるし、映画の内容もこれに近い。多くの録音からレス・ブラウン楽団の専属シンガーとして売り出したルーシー・アン・ポークを取り出してみた。同楽団の先輩のドリス・デイに似て明るいルーシーだが、レスター派のボブ・ハーダウェイの参加と余分な音を出さないマーティ・ペイチのピアノというバックに引っ張られる形でレイジーに歌っている。ビリーがけだるい感じを出したことからその唱法がお手本になったようだ。

 ケイトに「もう一度かけて」と言われてルーニーが針を下ろすシーンがある。10吋盤にこの曲が収録されているのはB面3曲目で、僅か1ミリの溝に音を跨がず落とすあたりはなかなかのものだ。レコード世代でもけっこう難しいので何度もNGを出したのかもしれない。そしてB面4曲目、つまり最後のトラックに収録されているのは「When You're Smiling」だ。最高のエンディングを暗示している。

コメント (11)
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