デューク・アドリブ帖

超絶変態ジャズマニア『デューク・M』の独断と偏見と毒舌のアドリブ帖です。縦横無尽、天衣無縫、支離滅裂な展開です。

50年代のビルボード誌には毎週パティ・ペイジの名があった

2013-01-20 08:51:08 | Weblog
 評論家の中村とうよう氏が編集長として健筆を奮っていたミュージック・マガジン誌だったか、書き下ろしの著書だったか定かではないが、「テネシー・ワルツ」を例に挙げ、声のコントロールはもとより、節回しの細かさ、正確な歌詞の発音、その歌詞の内容を踏まえた表現力、さらに完璧といえる歌唱力等々、評論家というより一ファンとして絶賛していた。1月1日に亡くなったパティ・ペイジが余程好きだったのだろう。

 「テネシー・ワルツ」が大ヒットしたことから、その後リリースされる曲に原題に関係なく「泪のワルツ」、「ワンワン・ワルツ」、「君待つワルツ」のタイトルが付けられ、すっかりワルツの女王の称号が似合うペイジだが、スタンダードを歌っても実に上手い。エマーシー盤の対をなす「The East Side」と「The West Side」は、ジャズヴォーカル・ファンに注目されたアルバムだが、同レーベルにもう1枚見逃せないアルバムがある。サラ・ヴォーンやキャノンボール・アダレイにも同じタイトルがあり、エマーシー・レーベルの専売特許ともいえる「In the Land of Hi-Fi」だ。タイトルだけでジャズファンなら手が出るだろう。

 アレンジは先に挙げた作品と同じくピート・ルゴロで、J.J.ジョンソンやピート・カンドリ、バド・シャンクが参加した豪華版だ。「Taking A Chance On Love」や「Love For Sale」といったミディアムテンポで歌う曲もスケールの大きさを感じさせるが、なんと言ってもパティの魅力はスロー・テンポでじっくり歌い上げるところにあり、ドラマティックな展開の「The Thrill Is Gone」は聴き応え十分である。興奮が覚めて、ときめきがなくなってしまったわ、という過ぎ去った恋を回想する歌だが、パティ自身そんな経験をしたのだろうか、と思わず顔を覗きたくなるような展開で、まさにスリルさえ走る。

 パティ・ペイジはバックコーラスを雇う予算がなかったため複数のパートを一人で歌って多重録音をした最初のシンガーとしても知られているが、先のヒット曲の他にも「モッキンバード・ヒル」や「ユー・ビロング・トゥ・ミー」、「ふるえて眠れ」等々、自身のウェブサイトによると、ビルボードチャートの40位までに入ったのは84曲にのぼるという。ポピュラー史の1ペイジを大きく飾った偉大なシンガー、享年85歳。テネシー・ワルツは永遠に流れる。
コメント (17)
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