ある記憶

遥か遠くにいってしまった記憶たち

「恋愛小説」を読みたくなり

2011-09-23 16:52:19 | 

書店で物色し、吉田修一の「東京湾景」を喫茶店で一気に読んだ。


単調といえば、実に単調な仕事なのだが、
自分にはこのような単調な仕事が、
肌に合っているのではないかと亮介は思う。
どんな物でもいい、今ある場所から、
どこか別の場所に何かを動かすという作業は、
決して退屈な仕事ではない。
ただ、ときどき訳もなく虚しさを感じることもある。
本当に理由などまったくないのだが、
たとえば自分が運んでいるこれらの荷物の中身が、
実は全て空っぽなのではないだろうかと、
何の根拠もないのだが、ふと思ってしまうのだ。


…人ってさ、そういう誰かのこと、好きになれないだろ?
俺、あの人と別れてからそう思った。
誰かのことを好きになるって、俺に言わせりゃ、
自分の思い通りに夢を見るくらい大変で、
なんていうか、俺の気持ちのはずなのに、
誰かがスイッチ入れないとONにならないし、
誰かがスイッチ切らないとOFFになってくれない。
好きになろうと思って、好きになれるもんじゃないし、
嫌いになろうと思ったって、嫌いになれるもんじゃない…


まるで自分が、亮介ではなく、
亮介のからだに魅かれているような言い方。
あれは、もしもこの恋が終わっても、
亮介と別れるのではなく、
亮介のからだにと別れただけなのだと、
自分に言い聞かせるための準備だったのかもしれない。


本当に、自分たちは心と心で繋がってるんだって、
心と心だけでしか繋がってないんだって、
そう胸を張って言える人に、
いつか出会いたいって、


亮介のことを心から自分が愛しているのだと分かったその夜に、
美緒は亮介と一緒の布団の中で、たった一人で眠った。



亮介のからだではなく、彼の何かが、東京湾をまっすぐに、
今、自分のほうへ泳いできている。




というハッピーエンドの物語。
「恋愛小説を読みたい」という僕の中の欲求はいちおう満たされた。

言葉に記し残さないと恋愛という心の動きは自分でも分からない。
逆に、自分でもわからないまま、人は恋愛を通り過ぎるのかもしれない。
小説で語られるほど冷静ではいられない。
それが恋愛なのだろう。







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