ある記憶

遥か遠くにいってしまった記憶たち

夏休み、暑い夏、肝試し

2010-07-10 08:07:54 | 


朝5時に目が覚めました。もう夏なんだね。こんな時間にすっかり日が昇っています。
昨日までのじめじめした天気が嘘のように太陽はさんさんと照りわたっています。
やや湿気がありますが久々に気持ちの良い朝です。

というわけで暑さが本格化する前にひとっ走りしてきました。
近くの公園を横切ると20人くらいの人が円を描いてラジオ体操をしていました。
えっ?もう子供たちは夏休みなの???と近づいていくとご年配の方々でした。
お爺ちゃん、お婆ちゃんが元気よく体を動かしています。中にはお孫さんを連れてきている方も。

子供の頃の夏休みの「ラジヲ体操」を思い出しました。毎日欠かさず通いました。
妹と弟を連れて、近所の学校の仲間達と競うように。
帰りにハンコをもらい皆勤賞を目指しました。
今日は何をしようか。その場は悪ガキ達の「作戦会議」の場でもあった。
今思えば大したこともしていないのになぜか毎日が楽しくてしょうがなかった。


山へかぶと虫、くわがた虫を取りに行きました。
近くの湖沼にフナや小魚を釣りに行きました。
まだプールがなかったこともあり川で水浴びに行きました。
地域の「子供会」では花火大会や肝試し、海水浴等の催し物が目白押しでした。
写生大会や勉強会なんかもあり夏休みの宿題をみなでやったりしました。
そう、午後に毎日やってくるアイス屋さんが楽しみだった。
1本数十円の氷菓子、汗をぶったらして遊ぶ合間にこれは重要な水分補給でした。
隣町の畑のスイカを失敬しその場でかち割りスイカを手ですくって食べた…
メロン(瓜??)とかブドウなんかもあった。
そんなこともいっぱいしました。悪ガキだったんですね。

この辺は多分小学校2~3年くらいの記憶でしょうか。





中でも肝試しは恐かった。
地域の河原や田んぼの中を一周するだけでしかもまだ夜の8時前後だし
普通ならそんな恐いことはありません。
実はその前に1本怪談映画を皆で見るのです。
ある町工場の空き地にて白い布をスクリーン代わりに垂らし映写機でカタカタ写しだされます。
白黒映画で画像や音声はそれこそ最悪でした。けれどそれが妙にリアル感を醸し出します。
なんだったろう。怪談かさねが淵だったろうか。めちゃめちゃ恐かった。
それを見た後に2人1組で懐中電灯を手に一回りしてくるという催し。
もう駄目ですね。
5分ほど間隔をあけてスタートしますが少し行くと何かに追われるように皆走り出します。
相手も置いていかれまいと必死に走ります。
小さい子らは置いてけぼりでワンワン泣き出しました。
めちゃくちゃな肝試し大会だったなぁ…
もちろん大人も管理者として参加してましたのでアフターフォローはしっかりしてましたから、
特に事故や変なことは起こりませんでしたが、やはり刺激が強すぎるとかで、
そうした映画付きの肝試しは何年後かには無くなったようです。
少し残念でした。


子供大人一緒になって地域というものが実体を持っていた頃の懐かしいお話です。

そんなこんなで洟垂れ小僧は逞しく成長していったのでした。


節度ある恋

2010-07-03 11:24:13 | 
昭和のよき時代のお話です。

ある商店街の酒屋の娘さんがショッピングモールを通る学生さんに恋をしました。
W大学に通う典型的な貧乏学生さんで当時流行していたグループサウンズのメンバーの
一人に大変酷似していたため勝手に〝サリー〟という愛称をつけました。

その商店街に古本屋がありある時そこで立ち読みするサリーさんの姿を見た娘さんは、
お酒の配達の途中にも関わらず古本屋で立ち読みするふりをして、
サリーさんがどんな本を読んでいるのか確かめたくなりました。

サリーさんが去った後、その本を確かめると海外文学を解説する難解な古書でした。
娘さんにはちんぷんかんぷんの内容でしたがペエジをつらつらめくっていくと、
あるところに「Y・T」という文字がインクで書かれている厚紙を見つけました。
貧乏でこんな高い古書を買えないサリーさんはここで立ち読みするのが精いっぱい。
そして毎回読んだペエジに栞代わりにこの厚紙を差し込んでいるのだと彼女は思いました。

Y・Tとは彼のイニシャル。そう思った娘さんは、エプロンのポケットから小さなメモ用紙と
鉛筆を取り出し、

 「難しい本ですね K・K」

と書き、栞があったペエジにその紙を一緒に挟み込み、本を元にあった場所に戻しました。

 「君は誰ですか Y・T」

数日後、恐る恐る手に取った古本には白い紙の栞に奇麗な文字でそう書かれてありました。

めったに古本屋になど行ったことのない娘さんでしたが、それからというもの店主のお爺さんの訝る目が気になりつつも、
恐る恐る店に行き古書を手に取る日々が続きました。

 「あなたを尊敬する者です」

 「君もランボオが好きなのですか。 Y・T」

 「勉強中です K・K」

 「ランボウは素晴らしいですね Y・T」

 「そうですわね。K・K」

   ……

栞の文通は約二カ月ほど続きました。
話せばきっと5分で済んでしまうような短い会話の数々…
娘さんにとっては相手の言葉の一つ一つが愛しかった。

その間も、商店街でサリーさんをちょくちょく見かけることはあったけれど、
彼女は声をかけかねていました。


その切ない恋にやがて意外な転機が訪れます。

大学生のサリーさんがある時、きれいな彼女を連れて娘さんの酒屋にお酒を買いにやってきました。
二人の会話からサリーさんの名前は「Y・T」でないことを知ります。
しかもサリーさんは彼女が想像していた姿とは全く違う性格の人でした。


すると今まで栞で文通していた「Y・T」とは誰?


娘さんは古本屋のお爺さんに全ての事情を話しました。
そして「Y・T」の秘密がお爺さんの口から明らかになっていきます。


本の著者である学生は太平洋戦争末期、神風特攻隊で無念の死を強いられました。
享年24才でした。名前はY・T。

彼女は特攻隊で死んだその若者と時空を超えた恋をしていたのでした。

とても不思議な話です。



『栞の恋』という短編です。



昔は文通という手紙のやりとりで恋心を語る文化がありました。
最近は携帯、メールですし、恋愛に節度などありません。
ましてや古本屋で栞を手紙に、一言ひとことに思いを込め…
などということは、小説の世界以外はあり得ないでしょう。

淋しい限りです。