☆パンズ・ラビリンス(2006年 メキシコ、スペイン、アメリカ 119分)
原題 El laberinto del fauno
英題 Pan's Labyrinth
staff 監督・脚本/ギレルモ・デル・トロ
製作/ギレルモ・デル・トロ ベルサ・ナヴァロ アルフォンソ・キュアロン
フリーダ・トレスブランコ アルバロ・アウグスティン
撮影/ギレルモ・ナヴァロ 音楽/ハビエル・ナバレテ
美術/エウヘニオ・カバイェーロ セットデザイン/ピラール・レヴェルタ
特殊効果/レイエス・アバデス 視覚効果/エヴェレット・バレル
衣装デザイン/ララ・ウエテ ロシオ・レドンド
cast イヴァナ・バケロ ダグ・ジョーンズ セルジ・ロペス アリアドナ・ヒル
☆1944年、スペイン
フランコ政権下のとある山間に、物語は展開する。
簡単にいうと、ゲリラ組織と方面軍の一部隊との局地戦で、そこに、おもいきり陰鬱な暗黒おとぎ話が挿入される。
で、そのおとぎ話は、牧神pan(スペインだとfaunoらしい)に導かれて、地底王国の王女に戻れるようになるため、3つの試練に挑む少女の物語なんだけど、3つの試練を通過したところで、なんとも皮肉な話に、王女になるためには現実世界に別れを告げなければならない。
つまり、死だ。
地上の世界では、父親はとうに死に、母親は部隊司令官の妻になり、腹に子を宿してる。当然、義父と母の興味はやがて生まれてくる跡継ぎ(男の子と決めつけられてる)に集中し、彼女はうとまれ、邪魔者あつかいされ、頼りになるのはゲリラの弟をもつ家政婦だけだ。と、ここで妙な符号に気づく。主人公の少女にはやがて弟が生まれてくる。副主人公ともいえる家政婦にはゲリラになって戦ってる弟がいる。地底王国の王女は死んでしまっているのだけれど現実の彼女が死ねば蘇ることができる。もしかしたら、地底王国の王女には弟がいたんじゃない?っていう符号だ。
物語の中途で、これに気づき、こんなふうに考える。
「あれれ、てことは、ゲリラの弟と少女が死ぬと、地底王国の姉弟が蘇るの?」
地上と地底は、ある種の対称をつくっている。地上の人間どもは容姿こそ美しいものの、心は残酷で、いがみ合い、戦争を続けている。地下の妖精たちは容姿こそ醜いものの、心は優しく、怪物との戦いから身を引いている。地上にせよ、地下にせよ、心を持って生息していくなら、醜さよりも優しさを欲しないだろうか?
そんなふうに、この残酷なのに妙に美しい異形の宴をおもわせる物語は、いってるんじゃないかな?
映画は、音楽もまた美しい。冒頭から聞こえてくるハミングは、副主人公の家政婦(ゲリラの姉)の子守唄のようで、いままさに死にゆこうとしている少女にかぶさり、そこから本編が始まるんだけど、佳境になって、また彼女は口ずさむ。つまり、この単調な旋律ながら哀愁のこもった美しいハミングは、鎮魂曲なわけね?
でも、小難しいことはともかく、王国やクリーチャーのデザインは天下一品だし、CGの凄さには「いや、まあ、すごいでしょ、これっ」てな風に、脱帽するしかない。そこらじゅうで、いろんな賞を獲得してるのも、充分にうなずける。
ただね~、たしかにスペイン内戦は悲惨だったんだろうけど、どうにもやるせないっていうか、切なくて、辛くて、悲しくて、暗~い気分にはなれましたわ。