千駄木・ブリックワン。
▼国枝昌人 『bystand』
五月に見た時とやっていることは基本的に変わらない。ただ前回はひたすら好き勝手に動きまくっているだけだったのが、今回は観客の視線に応えようという意識からか、挑みかかるような視線やポーズが加わり、ややナルシスティックに見えた。いずれにせよ、踊ることと、見ることとが、切り離された別々のこととして考えられているのではないか?と思いながら見ていた。舞台手前で仰向けになり両手両足を浮かしている状態の時に、次の神村がドドッと走り込んできて、奥で同じポーズを取り、交代。Dance Seed ではこうやってつなぎを工夫している。
▼神村恵 『もう無理、もう無理?』
四つん這いになり頭を床にこすりつけながら長々と前進してきて、上手側にたどり着くと立ち上がり、片足になって、走っているような横向きのポーズを取る。そのままギリギリと関節を締め上げていく。宙に浮いた足の膝、前後に折り曲げられた両腕の肘がギュウギュウ締まって、立っている方の足が揺らぐ。もうこの時点で何だかさっぱりわからない奇妙なノリが始まっていて、目が釘付けだった。バランスを取ろうとしているようでいて、それほど本気にも見えず、しかし粘りはやけにある。そして粘った挙句、クライマックスらしきものもなしに何となくやめてしまうのだ。どこまで計算しているのかつかめない、真偽定かならぬ無頓着ぶりが見る者を緊張させる。また舞台奥へ行き、妙な動きで壁伝いに移動。踊りらしい踊りも入って、身体能力が高いことは見えるのだが、主となるのは「振り」というより「貧乏揺すり」のようなダンスだ。床に寝て、震えていると、無音だったところへサティのワルツが流れ出す。いきなり足で壁を蹴ってすっ飛ぶ。それをニ、三回やる。パッと見はただ部屋でゴロゴロしているみたいなのだが、髪に隠れた半開きの眼でもって確実に観客を意識している。唐突な動きで見事にスキを突いてくるし、注意を引きつけたと思うと黙って軽くいなしてしまう。起きて立ち上がり、観客に後ろを向け脱力したままヨタヨタと千鳥足でボックスを踏む。再び無音。踏み間違えたり足がもつれたりしていて、そこに本気と冗談、演技とはぐらかしがメチャクチャに交錯している。こんな単純な行為の中にこんなややこしいことが行われている、その事実に驚いていると一瞬笑い声が聞こえた。後ろ向きで、ヨタヨタドタドタとステップを踏みながらこの人は笑ったのだ。気を抜いていたらつい出てしまった、というような。それまではこちらも半笑いで見ていたのに、神村本人が笑った時むしろ逆に背筋が寒くなった。「ワケがわからない」という意味で途轍もなく面白いのだが、しかし何せ「わからない」だけに少し怖くさえある。
▼新井英夫×早川るみ子 『a piece of paper』
初めて見る二人。まず新井が新聞紙をフワフワと腕に載せて現われる。裾の広い黒のパンツだが、動き出してみるとやはりKARASの動きだった。少しぐらい隠したらどうかとも思うのだが、こうして見ると勅使川原三郎の、動きの様式の堅牢さと、影響力の強さとを実感してしまう。ぼくの知る限りフォロワーは男性ばかりだ。女性でKARAS丸出しの人は見たことがない。途中から早川が現われて、新聞紙を千切って、カーテンの裏に隠れる。フロアでは新井が動き回っていて、時々カーテンの裏で動く早川の足が隙間からのぞいたりする。早川は終わり近くになってからちょっとだけ表に出て踊り、再びカーテンに隠れて、裏側から風がブワッと吹くと同時にどこかへ消え失せる(カーテンの裏に戸口がある)。二人の関係のコンセプトがもう少しクリアーに見たかったと思う。
▼譱戝大輔 『満曜日(みちようび)』
この人も初めて見る。というか名字が難しすぎて読めない。白のワイシャツに、下はベージュのパンツ一丁。桟敷の客の眼の前でしゃがみ込んだり、客席の方を無言で覗き込んだりして、おもむろに鼻をほじり始める。アイヌの民謡とともにそれが延々とエスカレートしていく。鼻血が出ないだろうかと心配になる。しゃがんだまま尻を突き出して、桟敷の客を嫌がらせたりする。鼻からこぼれてしまったらしい何か「大事なもの」を、客にも一緒に探すよう促すと、舞台にたくさんの客が這い回るという実に馬鹿馬鹿しい状況が見事に生まれた。体が密集している中で、ざわざわと動きの波が起こってきて、照明が落ちた闇の中で皆が床をバンバン叩き出す。ちょっとした恐怖と動揺に対して、人々はヤケクソ気味にリアクションを返し、それが波状に連鎖していく。ヤバい集団ヒステリー一歩手前なスリルを垣間見た。最後はソウルがかかり出演者も全員出て踊った。
▼国枝昌人 『bystand』
五月に見た時とやっていることは基本的に変わらない。ただ前回はひたすら好き勝手に動きまくっているだけだったのが、今回は観客の視線に応えようという意識からか、挑みかかるような視線やポーズが加わり、ややナルシスティックに見えた。いずれにせよ、踊ることと、見ることとが、切り離された別々のこととして考えられているのではないか?と思いながら見ていた。舞台手前で仰向けになり両手両足を浮かしている状態の時に、次の神村がドドッと走り込んできて、奥で同じポーズを取り、交代。Dance Seed ではこうやってつなぎを工夫している。
▼神村恵 『もう無理、もう無理?』
四つん這いになり頭を床にこすりつけながら長々と前進してきて、上手側にたどり着くと立ち上がり、片足になって、走っているような横向きのポーズを取る。そのままギリギリと関節を締め上げていく。宙に浮いた足の膝、前後に折り曲げられた両腕の肘がギュウギュウ締まって、立っている方の足が揺らぐ。もうこの時点で何だかさっぱりわからない奇妙なノリが始まっていて、目が釘付けだった。バランスを取ろうとしているようでいて、それほど本気にも見えず、しかし粘りはやけにある。そして粘った挙句、クライマックスらしきものもなしに何となくやめてしまうのだ。どこまで計算しているのかつかめない、真偽定かならぬ無頓着ぶりが見る者を緊張させる。また舞台奥へ行き、妙な動きで壁伝いに移動。踊りらしい踊りも入って、身体能力が高いことは見えるのだが、主となるのは「振り」というより「貧乏揺すり」のようなダンスだ。床に寝て、震えていると、無音だったところへサティのワルツが流れ出す。いきなり足で壁を蹴ってすっ飛ぶ。それをニ、三回やる。パッと見はただ部屋でゴロゴロしているみたいなのだが、髪に隠れた半開きの眼でもって確実に観客を意識している。唐突な動きで見事にスキを突いてくるし、注意を引きつけたと思うと黙って軽くいなしてしまう。起きて立ち上がり、観客に後ろを向け脱力したままヨタヨタと千鳥足でボックスを踏む。再び無音。踏み間違えたり足がもつれたりしていて、そこに本気と冗談、演技とはぐらかしがメチャクチャに交錯している。こんな単純な行為の中にこんなややこしいことが行われている、その事実に驚いていると一瞬笑い声が聞こえた。後ろ向きで、ヨタヨタドタドタとステップを踏みながらこの人は笑ったのだ。気を抜いていたらつい出てしまった、というような。それまではこちらも半笑いで見ていたのに、神村本人が笑った時むしろ逆に背筋が寒くなった。「ワケがわからない」という意味で途轍もなく面白いのだが、しかし何せ「わからない」だけに少し怖くさえある。
▼新井英夫×早川るみ子 『a piece of paper』
初めて見る二人。まず新井が新聞紙をフワフワと腕に載せて現われる。裾の広い黒のパンツだが、動き出してみるとやはりKARASの動きだった。少しぐらい隠したらどうかとも思うのだが、こうして見ると勅使川原三郎の、動きの様式の堅牢さと、影響力の強さとを実感してしまう。ぼくの知る限りフォロワーは男性ばかりだ。女性でKARAS丸出しの人は見たことがない。途中から早川が現われて、新聞紙を千切って、カーテンの裏に隠れる。フロアでは新井が動き回っていて、時々カーテンの裏で動く早川の足が隙間からのぞいたりする。早川は終わり近くになってからちょっとだけ表に出て踊り、再びカーテンに隠れて、裏側から風がブワッと吹くと同時にどこかへ消え失せる(カーテンの裏に戸口がある)。二人の関係のコンセプトがもう少しクリアーに見たかったと思う。
▼譱戝大輔 『満曜日(みちようび)』
この人も初めて見る。というか名字が難しすぎて読めない。白のワイシャツに、下はベージュのパンツ一丁。桟敷の客の眼の前でしゃがみ込んだり、客席の方を無言で覗き込んだりして、おもむろに鼻をほじり始める。アイヌの民謡とともにそれが延々とエスカレートしていく。鼻血が出ないだろうかと心配になる。しゃがんだまま尻を突き出して、桟敷の客を嫌がらせたりする。鼻からこぼれてしまったらしい何か「大事なもの」を、客にも一緒に探すよう促すと、舞台にたくさんの客が這い回るという実に馬鹿馬鹿しい状況が見事に生まれた。体が密集している中で、ざわざわと動きの波が起こってきて、照明が落ちた闇の中で皆が床をバンバン叩き出す。ちょっとした恐怖と動揺に対して、人々はヤケクソ気味にリアクションを返し、それが波状に連鎖していく。ヤバい集団ヒステリー一歩手前なスリルを垣間見た。最後はソウルがかかり出演者も全員出て踊った。