くろにゃんこの読書日記

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彼方 J-K・ユイスマンス

2004年10月15日 | 海外文学 その他
主人公、デュルタルは小説家。
彼は、中世の悪魔主義の帝王、ジル・ド・レーの物語を書こうとしている。
この小説は、ジル・ド・レーの物語と、その小説を書く間にデュルタルが体験した出来事や考えたことを克明に綴っている。

<青髭>と称されるジル・ド・レーとは、かつては、ジャンヌ・ダルクとともに戦場をかけぬけた勇将であるが、ジャンヌ・ダルクが処刑された後は、チフォージュの居城に退き、
贅を尽くした暮らしをするが、財政の欠乏のために錬金術に没頭するも望みかなわず、
悪魔礼拝に走るようになる。
悪魔礼拝により、幼い子供(主に男児)を虐殺し、その数、800を下らないという。
自分のためだけに多くの罪無き少女を殺害した、エリザベート・バートリのようでもあるが、もしかすると、それより凄いかもしれない。

ユイスマンスの書く、ジル・ド・レーの描写は、真に迫っていて圧巻だ。
幼児を殺害する場面は、血なまぐさく恐ろしいが、反面、幻想的であり、
エロティシズムを感じさせる。
結局は、火刑に処せられるわけだが、極悪の罪人としてではなく、心から贖罪を熱望し、
悔いる1人の人間として死んでいく。

主人公デュルタルは、レーの本を書きながら、神秘主義の世界へとのめり込んでいく。
彼の理解者であり友人のデ・ゼルミーの紹介で、信心深い鐘撞きや、占星術師と知り合いになったり、はたまた、奇妙な行動を取るシャントルーヴ夫人と関係を持ったりするうちに、現実ではつかめない<彼方>の存在を意識するようになる。

この本は、絵画の描写がとても素晴らしい。
見たことの無い絵でも、想像させることができる。
と思っていたら、ユイスマンスは画家の家系であるらしい。納得。
観察眼も鋭くて、デュルタルの飼い猫ムッシューの様子がとても愛らしく、
猫好きには見逃せない。
きっとユイスマンスは猫を飼っていたに違いない(と勝手に思い込む)。

彼方創元推理文庫


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