くろにゃんこの読書日記

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復刻 エラリイ・クイーンズ・ミステリ・マガジン〈No.1‐3〉

2006年04月15日 | ミステリー 海外
翻訳ミステリファンには垂涎の本書。
ところが私は、熱狂的なミステリファンではありません。
そんな私が、なぜこの本を図書館から借りたのかといえば、
フランシス・アイルズが載っていたからです

フランシス・アイルズといえば、アントニイ・バークリーの別名義で、バークリーが書くのが探偵小説であるのに対し、アイルズは犯人の心理、被害者の心理を巧みに描くところが特徴です。
本書所収の「暗い旅路(Dark Journey)」も殺人を犯す主人公の犯行前の決意、犯行時の冷静さ、犯行後の動揺をきめこまやかに描き、自分が殺人を犯してしまったら、主人公と同じようなことをするかもしれないと思わせるものがあります。
ラストはイギリスらしい皮肉が利いており、さすがはアイルズです。
殺されてしまう女性は、活動的で決断力があり実際家で、女性の私からみても魅力的だと思うんですが、主人公の男性は、女性にファンタジーを持っているようで、リラダン「未来のイヴ」に出てくるイギリス紳士を思い浮かべてしまいました。
リラダンのイギリス紳士像は、あながち間違っていなかったということで。

本書には、きっとマニアは読みたいだろうという短編がいっぱい詰まっていると思うんですが、私が目に留めたのはフレドリック・ブラウンとチャールズ・ディケンズ。
フレドリック・ブラウンはSF作家だとばかり思っていたんですが、
ミステリも書いていたんですね。
「後ろをみるな(Don’t Look Behind You)」は、不思議な味わいを持つミステリで、主人公の夢ともうつつともいうべき世界へ読者を迷い込ませ、ラストの耐え難いほどの緊迫感は、本を持つ手も震えるほどです。
心臓の弱い人は読まないほうがいいでしょう。

ディケンズ「追いつめられて(Hunted Down)」は、
さすがは文豪、うならせてもらいました。
下手な推理作家が書く推理小説よりも推理小説らしく、
ところどころに伏線があり、謎もここになにかあるぞと匂わせていて、読者に推理の余地を与える、比較的フェアな推理小説であるといえます。
髪の毛の分け目にこだわるところなど面白く、種明かしでの、
ある男性の独白などは迫力満点です。
人物模様もラストもディケンズらしいといえましょう。
この短編はディケンズ唯一のミステリ短編小説で、アメリカの雑誌向けに書かれた最初で最後のもので、原稿料も1000ギニーという破格の高値だったそうです。

こういう昔の雑誌を読んでいて面白いなぁと思うのは、広告です。
なつかしの作家の名前がずらりと並び、それが新刊として紹介されていて、
ポケミスの値段は一冊140~250円くらい。
この雑誌が創刊された当初の海外ミステリに対する並々ならぬ熱意を感じて、
胸が熱くなるワタクシでした。

復刻 エラリイ・クイーンズ・ミステリ・マガジン〈No.1‐3〉


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4 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
EQMM (kazuou)
2006-04-15 21:32:29
これはいい企画でしたよねえ。同時に出た復刻SFマガジンとともに購入しました。雑誌の方も持ってたんですが。

EQMMは、ミステリに限らない多様なジャンルの小説を載せていて、今でもそうですが、総合的なエンターテインメント雑誌として素晴らしいと思います。この号にもディケンズなんか載ってますが、後にはトルストイとかスタインベック、モラヴィアなどの純文学系の作家や中国の古典、落語なんかも載せてました。とくにすごいのは1970年代、フィリップ・K・ディックのSF、ラヴクラフトのクトゥルー神話、ロバート・E・ハワードのヒロイックファンタジーなど、ミステリの雑誌とは思えないようなすごい展開を繰り広げていました。そして今でも続いている「幻想と怪奇」特集!

とはいえファンの間ではこの雑誌3号までは面白くないというのが定評(?)です。ミステリプロパーの作品ばっかりになってしまっている感がなきにしもあらず。4号から断然面白くなってくるんですよ。その点、同じ復刻版SFマガジンの方が面白かったような気もします。
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携帯からこんばんは (くろにゃんこ)
2006-04-16 21:28:53
PCの問題発生により、携帯から書き込んでいます。

しばらく更新出来ないかも。



そうですね、3号まではどの作品もミステリから外れていませんでした。私が面白く思ったのも3号でしたから、きっとこれからもっと面白くなるんだろうと予\感させてくれました。

図書館には本書の横にSFマガジンの復刻版が並んでいます。

確かに、こちらの方が興味をそそるものが多いのは否めません。

根がSFファンですから。
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ブラウン (Takeman)
2006-04-17 15:12:15
ほう、「後ろをみるな」はEQMMにも掲載されていたんですね。私は「真っ白な嘘」で読んだのですが、面白いこと考える人だなあとこれを読んだとき思いました。

ブラウンは短編はSFの方が多いんですが、長編はミステリの方が多いんですよ。エド・ハンターシリーズなんかはミステリとしてはそれほどたいしたことはないんですが、作者の暖かいまなざしみたいなものが見え隠れしていてなかなか面白かったです。

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フレデリック・ブラウン (くろにゃんこ)
2006-04-17 20:22:02
へぇ、そうなんですか。

「後ろをみるな」も、ミステリとはちょっと違う不思議な魅力があります。

ブラウンは、ミステリらしさにこだわりがないのかもしれないですね。

私もこだわりのないほうなので、ブラウンのような作風は大好きです。

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