くろにゃんこの読書日記

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「ニルス・ホルゲルソンの不思議なスウェーデン旅行」と「ムーミン谷の冬」

2007年01月26日 | ノーベル賞作家
ラーゲルレーヴ「沼の家の娘」が大変面白かったので、
続けて「ニルス・ホルゲルソンの不思議なスウェーデン旅行」を、さらに先記事でも紹介したトーベ・ヤンソン「ムーミン谷の冬」を読みました。
どちらも名高い児童文学ですから、幼少時代に読んでいらっしゃる方も多いでしょう。
私は読まないで大人になってしまいましたが(笑)
そんな人でも大丈夫。
「ニルス」も「ムーミン」も、大人になってから読んだとしても面白く読めますよ。

「ニルス・ホルゲルソンの不思議なスウェーデン旅行」が所収されているノーベル賞文学全集(主婦の友社)という全集は、作品はもちろんのこと、作家ごとに賞を受けるに至る経緯、受賞演説、著者略歴、著作目録などが含まれていますので、とても参考になるものです。
ラーゲルレーヴの受賞演説は、亡き父に受賞を知らせるという空想を
彼女の作品のワンシーンのように語っていて、感謝と優しさのなかに彼女の信条がしっかりと織り込まれたとても素敵な演説です。
彼女の作品では、登場人物がまるで現実に感じているような空想をする場面があり、
伝承的な物語のモチーフが顔を出して、時として幻想的な場面を作り出すんですが、そういうところは、マジックリアリズム的かなと、ちょっと思っていました。
ラーゲルレーフの「人と作品」(エリー・プールナール)によりますと、彼女は生まれたときに彼女の叔母のトランプ占いで、その運命が予言されたと言います。
そして、信じられた。
あら、一族のなかにそういう人がいるなんて、イサベル・アジャンデみたい。
イサベル・アジャンデのメメ(おばあさん)も不思議な力があったっけ。
なるほどなぁと納得。
教会の教えとは別に、そういった迷信や妖精などが信じられた土地に生まれたことは、
彼女に大きな影響を与えたことでしょう。
もう一つ、「人と作品」で驚いたことがあります。
スウェーデンでは、当時、女性の数が男性の数よりも多く、
女性は自分の力で自活する道を探さねばならず、社会状況の変化から女性解放運動の気運が高まっており、ラーゲルレーヴもその運動に参加していたということ。
でも、過激な闘士は好きになれなかったというところから、彼女らしさを感じますね。

「ニルス・ホルゲルソンの不思議な旅」は、
偕成社文庫の完訳版「ニルスのふしぎな旅」と同じ香川鉄蔵訳です。
アニメ放送をしていたので、多くの方が内容をご存知だと思いますが、少年ニルスが小さなトムテ(妖精のようなもの)になってしまい、ニルスの家の白ガチョウのモルテンの背に乗って、ガンの一行と渡りの一年を共にするというお話。
文庫にして4冊というたいへんな長編であるけれど、大きなストーリィの流れのなかに、数々の小さな珠玉の挿話があり、飽きずにどんどん読んでしまいます。
もりだくさんの全てのお話が、どれもこれも面白く、ワクワクする冒険であったり、想像力をかきたてられるものであったり、病気や死についてのものだったりとバラエティー豊かで、読み終えたときには、何一つ言うことはないと思いました。
子供は子供なりに、ニルスと一緒に旅を体験し、ガンのアッカとの別れを惜しむだろうし、大人は大人なりに、自然の摂理について、または、人間にしかできないことについて、善意について考えさせられることでしょう。

「ニルス」の感想は書けないだろうと思ったので、続けて「ムーミン谷の冬」を読みました。
ムーミン一家は、毎年冬を冬眠して過ごします。
ところが、まだ冬だというのに、ある日ムーミンは目がパッチリと開いてしまって、
それから毎日朝が来れば目が覚めてしまうようになりました。
冬を体験したことのないムーミンは一人ぼっちで悲しくなりましたが、
冬には冬にしかない出来事や、生き物がいるのです。
今まで知らなかったことを体験したり、知らないひとたちと過ごすことで、ムーミンはだんだん冬が好きになり、冬を自分の力で乗り越えることになるのです。
あれ、と気付く方もいるでしょう。
「ニルス」によく似ていますね。
全然違う面白みを持った2つの物語が似ているというのも、興味深いと思われませんか。
解説の高橋静雄氏の解説が、これまた「ニルス」にもピッタリなのです。
少し引用してみましょう。
「冬のはじめにムーミントロールは、冬を生きぬくぞというような、決意らしい決意をしていません。ムーミントロールが生きられたのは、多くの他者(ムーミン谷やよその谷の人々、えたいのよくわからない生きもの、冬の自然)と交流できたからではないでしょうか。」
適宜、言葉を「ニルス」に合うように変換してみてください。
また、この2つの物語に共通する点は、自然をその美しさだけではなく、厳しさもそのまま受け入れているというところにもあると思います。

ノーベル賞文学全集〈18〉ラーゲルレーヴ.メーテルリンク.ヒメネス (1971年)
ムーミン童話全集〈5〉/ムーミン谷の冬




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6 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
娘に勧められて… (ディック)
2007-01-29 22:08:40
パソコン脇の本棚にムーミンが5冊。
次女がはまっていて、あれこれ楽しそうに話すので…。
これは近いうちに読みます。ギリシャ悲劇よりは敷居が低く感じますし…(笑)
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ムーミン談議 (くろにゃんこ)
2007-01-30 09:41:18
ムーミンは、うちの長女が小さいときに新シリーズのアニメ放送をしていたこともあって、長女と話が合うんですが、スナフキンがミィと親戚関係(種族的に)あるという新事実(笑)を教えてやると、「うそだぁ~~、スナフキンのイメージがぁ~~!」とショックなようでした。
新シリーズは原作にとても近いので、アニメを娘さんとご覧になっても良いのでは?
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ムーミン・フリークの次女 (ディック)
2007-01-30 22:51:16
次女は元旦にムーミン・グッズのショップへ福袋を買いに行ったのですよ。早朝のとんでもない時間に起きて、確か東京ドームの近くだったと聞いていますが…。
大きな袋を抱えて帰ってきました。
そのスナフキンとミーに関するような話題を次から次へと教えてくれます。
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ムーミン・グッズの福袋! (くろにゃんこ)
2007-01-31 10:52:25
ムーミン関連グッズが盛りだくさんなのでしょうね!
お嬢さんのマニアっぷり、見事です。
おみそれしました(笑)
ムーミン・ショップというのも、新シリーズのアニメが世界的な人気になったために出来たとか。
アニメの影響力は凄いですね!
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「たのしいムーミン一家」を読みました (ディック)
2007-02-01 23:00:28
講談社文庫の第1作「たのしいムーミン一家」を読みました。
誰でも招いて家に入れてしまうムーミントロールの家庭は楽しそうです。
どうということはないんですが、おもしろいというよりは、ほんとに「たのしい」物語。
彼らは日常生活そのものが楽しそうです。
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ムーミンの楽しさ (くろにゃんこ)
2007-02-02 09:37:24
ムーミン谷のキャラクターは個性豊かで、楽しいですよね。
極端だけど、あんな人いるなぁと感じたり、童話なのに、おしゃまさん(トゥテッキー)は哲学的なこと言うし。
ムーミン家は誰にでも門戸を開いていますが、あれはムーミンママの性格もありますよね。
私は小さい頃にみたムーミンシリーズでも、新シリーズでも、ムーミンママは憧れの存在で、あんな母親になりたいなあと今でも思っています。
物怖じせず、動じず、自分の意思もキチンと持っていて、どんなことでも受け止めてくれて、先のことも見通すこともできる。
そして、いつでもハンドバックは忘れない。
北欧の理想を凝縮したようなキャラクターです。
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