小児科医の間で話題になり問題視されているテレビCM二つを紹介します。
まずはご覧ください;
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企業広告 TVCM「インフルエンザ検査技術」篇/富士フイルム
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シオノギ製薬 インフルエンザ早期治療啓発キャンペーン「ママ友会議」尾木直樹
どんな印象を持たれましたか?
この二つのCM内容をまともに信じると、
「
インフルエンザが疑われたら夜でも休日でもすぐ医療機関を受診して検査をし、陽性なら点滴で治してもらうのがよい」
という気持ちになりませんか。
では何が問題なのか、私見を述べさせていただきます。
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富士フイルムのCMについて
現在市販されている迅速診断キットでは発病初期は感度が低いので、最低6時間、できれば半日以上経ってから検査するというのが暗黙の了解。
CMの中で「インフルエンザを早期発見できる」と言ってるけど、半日以内でも感度が100%に近くなったの?ホント?
と疑問に思い、富士フイルムのHPを覗いてみました。
すると「
発病後時間別感度」というデータが公開されているのを見つけました;
確かに「発病後6時間未満」では他社キットの69.2%より高い84.6%という数字をたたき出しています。
しかし、その後の「6~12時間」と「12~24時間」のデータは75~76%の数字に落ちてしまっています。感度がよいなら時間と共にどんどん数字も上がるはずなのに・・・不可思議な現象です。
かつ発病6時間以降は他社キットとの差が無くなっており、富士フイルム製検査キットの優位性は?
何より根本的問題として、検討症例数が余りにも少なく統計学的解析対象としては不十分です(数百例くらいないと説得力に乏しい)。
というわけで、6時間未満の数字がよいのは「たまたまなんじゃないの?」といぶかってしまう私。
全国放送のテレビCMで主張するなら、もっと科学的評価に耐えうるデータを提示すべきでしょう。
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塩野義製薬のCMについて
こちらはインフルエンザの点滴薬「ラピアクタ®」を販売している製薬会社のCMです。
はっきり言ってませんが「インフルエンザは点滴治療するのが有利」と視聴者の頭にすり込む目的であることは明白です。
そもそもインフルエンザの症状はピンキリで、体がつらくて動けないという人から、ほとんど症状が出ない人(不顕性感染者が2割)までさまざまです。そして抗インフルエンザ薬の効果は「未使用の場合と比較して1日早く解熱する」というもの。
すると、こんな疑問も生まれてきます;
全員に抗インフルエンザ薬が必要なの?
熱が高くなければ、使う必要はないのでは?
副作用として高校生の自殺などもあったし・・・
効果は内服薬でも吸入薬でも点滴でも変わりません。
小児科医の立場からすると「点滴もあるよ」などと簡単に言っていただきたくありません。乳幼児に点滴をするのは大変なのです。血管は細く、泣いて暴れるため、ベテラン小児科医でも1回で成功するとは限りません(私は「3回まで失敗しても許してね」と親に言ってから点滴に望んでいます)。
さらに点滴治療を標準にしてしまうと、インフルエンザ流行期に大変な混乱を招きます。
開業医院に用意されているベッドはせいぜい2~3つ。毎日押し寄せる数十人の患者さんを点滴治療するのは事実上無理なのです。
現在、医師の間では「
重症感が無ければ必ずしも抗インフルエンザ薬は必要ない」という考え方が一般的です。
私が昨シーズン点滴治療した患者さんは高校受験を控えた中学3年生1人だけでした(残念ながら熱はすぐには下がりませんでした)。
以上、検査会社・製薬会社の誇大広告がインフルエンザ診療の現場を混乱させ医師を疲弊させる、というお話しでした。
大企業の倫理観って、こんなものなんですかね。
もっと社会的影響を熟慮し、社会的責任を担う立場でのCM制作をしていただくことを切に願う次第です。