にんげんが とけてゆく
自分とは 全く違う
人間になるために
魂の内側に手を入れて
いやだと思うところを
無理やりまげて きれいにした
そうしたら 心のきれいな
良い人間になれると思った
あこがれの なりたかった自分に
なるために 馬鹿なことは
いっぱいやった
うつくしい 人間になるために
できることは 全部やった
みんな うそです
本当に美しい人間になるには
べんきょうしなくちゃいけないんです
でも それがいやだからって
みんな 嘘やずるいことでやったら
あたまが 今
こわれそうに なるほど
痛いんです
無理やり曲げてきれいにしたところが
頭の中で 変な音を立てて
殺虫剤みたいな変な薬を
しょっちゅう 心の中に流すのです
自分の中に いやなことをしようとする
気持ちが起こったら
殺虫剤が出てきて わたしの心を殺すのです
それでわたしは 苦しくて
吐き気もして 気持ち悪くて
悪いことをするのはやめるんだけど
体中が 石みたいに重いのです
息が苦しくて 目眩がして
セミが耳元にいるように
耳鳴りの嵐が脳味噌を掻き回す
あんまりにつらくて
いつになったら終わるんだって
そんなことばかり考えて
ビルの向こうの 夕焼けを見る
なりたかった人間に なったはずだった
つらい思いをして 魂の勉強をするよりは
頭の中を自分で改造して
きれいにする方が楽だと思った
できることはみんなやって
ともだちもたくさんできたけど
ほんとうはみんな 嘘なんです
愛の振りしていいことは言ってくれるけど
心の中には 何にもないのよ
愛なんて 愛なんて
どこにもないのよ
だって人間はみんな 嘘ばっかりだから
無理やり曲げたところをなおして
元の自分に戻りたいと思っても
元の自分の形がどんなふうだったか
もうわからない
夕焼けの中で自分じゃない自分を抱きながら
涙をぼろぼろ流して泣いていると
天使が 馬鹿者めと言いながら
わたしのところにきて言ってくれる
滅多に誰もやらぬような馬鹿をするから
そんなことになる
難しい勉強をして 苦い己を無理にでも飲み下し
狂った自分をなおさねばならない
人間が 嘘ばかりついて
やってきたことのすべてを
正しく治してゆくために
おまえは命を切られるほどの痛い思いをして
おのれのためにでなく皆のために汗して働き
鼠のようなものにもひざまずいて頭を下げねばならない
痛い思いや つらい思いをするのが
いやだと言ったらそれでおしまいなんです
だれもいなくなる なんにもなくなる
馬鹿みたいなことをして みんなのために働くなんて
いやだって言ったら もうおしまいなんです
天使は二度とやって来ない
にんげんがとけてゆく
ぼろぼろ涙を流しながら
夕焼けにとけてゆく
あと5秒のうちに返事をしろと天使が言う
わたしはなんといえばいいの