月の岩戸

世界はキラキラおもちゃ箱・別館
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ゲンマ・2

2014-04-30 04:29:37 | 詩集・瑠璃の籠

この魂は 生きている間
ほとんど人間に愛されたことがない
これで救済をやったのか
ほとんど自分の愛のみによって
これは きつい

人間は 美しい女性には冷酷ですから
それを巡って争うことはあっても
決して本気で愛そうとはしない
美しいだけの馬鹿であれば安心できたのでしょうが
かのじょは優れていすぎた

だれかと だれかが
会話をしている
一方はプロキオンのようだ
だがほかのひとりが誰なのかはわからない
わたしは反応しようとしたが
自分がまるで泥のような眠りそのもので
何もすることはできなかった
ただ 流れていく会話だけをながめていた

ずいぶんと狭い部屋だ
必要最小限のものはあるが
雑然としている
だれも愛を注がないのか

かのじょも これくらいは当然だと思っていますよ
愛されたことの少ない魂は
こんなことになど 慣れていますから

これが苦しくならなくなるまで
やったのか

やらざるを得ませんでしたから
それだけを最優先して生きてきたら
こうなってしまったのです

むごいね
これは
ありきたりの幸せがどんなものであるかすら
この人は知らない

深いため息が 顔にかかるような気がしたが
それも遠い世界のことを
画面で見ているようなことに感じて
はたして本当のことなのかわからなかった
でも会話は続いている
わたしのことを話しているようだ

すべてを救ってしまったものが
このようなものであることを
人間はどう考えているのか

何もわかってはいません
自分たちのしたことが何だったのかを
わかった時にはもう
寒さに凍りついているでしょう

ふむ
なんとも小さな道具だ
それも人間に遠慮して恐る恐る使っている
これだけですべてをやったのか

ええ
これしかなかったのです
これでやれたというのが
まさに馬鹿だということです

なるほど

どのようになさいますか

主方向はさほど変わらない
だがある方面で
大幅に方針を変えねばならない

そうでしょうね

もはや星々は動いているが
わたしも苦い決断をせねばなるまい

どのように?

それはまだ言えぬ
ああ 部屋に妙な穴があいている
これはまた苦しい
わたしがなんとかしてやろう
このままでは寒いだろう

わたしは 夢の中で
自分の部屋の壁に
小さな黒い穴があるのを見た
いつの間に空いていたのだろう
ときどき隙間風が入っていることには気づいていたけれど
あんな穴があいていたからだったのか
一息 小さな歌のような声が聞こえたかと思うと
歌は見る間に 七色の板になって
その穴を埋めていくのだ
すると 不思議に体が暖かくなってきて
何かに包まれているような感じがして
わたしは安心して
また眠りの方に少しずつおりていった

ああ そうか
あんな穴があったから
寒かったのだ
もう寒くないんだ

歌は 低い子守唄になって
やわらかな泡玉になってわたしの方に降りてくる
安心していいと
だれかが言っている

ああ 安心していいのだ
もう



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アークトゥルス・3

2014-04-29 06:09:05 | 詩集・瑠璃の籠

罪の神が 地球を訪れる

はてしない世界に打った
愚か者の金の弾丸が
貴神の胸を射たからだ

だれがこんなことをした
だれが こんなことをした

馬鹿な男が 盗んだ富を使って みんなでやった
馬鹿な女が セックスを餌にして 男にやらせた

罪の神は言う
愚か者め
取り戻せもしない大きな罪を
軽々とやったそのつけが
どういうものであるかを
知るがよい

人間は 馬鹿なものになる
男は 馬鹿なものになる
女は 馬鹿なものになる

馬鹿なことをやったと
一目でわかるような
いやなものになる

人間はそういうものになる

罪の神が訪れる時
人間は なぜそういうことになったのかを
知ることになるだろう
どれだけの 馬鹿なことをやったのかと
教える者が 教えるだろう



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サドル

2014-04-28 06:13:53 | 詩集・瑠璃の籠

特訓をしましょう
炎の森に飛びこみ
その一本の腕のみで生還してきなさい

他に何も頼ってはならない

だれの愛も求めてはならない

心臓に燃える孤独のみをともに
金剛石の愛の鳥をつかまえるために
そのいのちとたましいを
薪のように燃やしつくし
腕一本のみを頼りとして
生き尽くしてきなさい

甘えたことを言っているのではない
何をしたと思っているのか
これでもやさしいとでも思わねば
暮らしていけぬ生をあなたがたは選んだのだ

わたしはサドル
天の十字
あなたがたにとっては
永遠に忘れられぬ傷のしるし

愛の星のことばを阻み
あなたがたを
特訓室に放り込みます

甘えているのではない
人類よ
新たなる学びの過程において
あなたがたを最初に試すのは
わたしたち
十字の室のものです



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ミルザム・3

2014-04-27 06:15:49 | 詩集・瑠璃の籠

ベルゼブブが 断念した
彼は 悪魔事業から
撤退する

彼は
悪魔事業は決して破綻しないと
保証していたが
それが嘘であることを
認めた

人間よ
悪魔事業に携わる
人間よ
これよりのち
おまえたちの事業の安全を
保証するものはいない

金襴の衣装を着て
宝石の冠を着た
猿の顔をした大統領を
天使の軍隊が攻撃している

あの 恥知らずの嘘の仮面が
真実に見えるように
馬鹿がやっていたすべての嘘を
保証する嘘が
破綻した



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アリオト・4

2014-04-26 06:11:08 | 詩集・瑠璃の籠

白翡翠に土耳古玉を象嵌した
美しい義眼を持って
わたしはやってくる

おまえたちに
片方が欠けたものの
美しさを教えるために

不完全なるものの
身を欠いたものの
見事な生き方を教えてやろう

存分に
おまえたちと
ともに生きてやろう

この目から生まれる
あらゆる苦しみを耐え
それを見事な芸術にして見せよう
ほかにふたつとない
神も驚くほどの
恐ろしく魅力的な個性にして見せよう

片方の目に
虚無の傷がある星がいれば
それはわたしだ

思うことのあるものは
集まってくるがよい



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アルビレオ・2

2014-04-25 06:16:09 | 詩集・瑠璃の籠

ない右腕を補うために
左腕を鍛え上げなさい
異様に 特殊化させなさい
一本で二本分以上のことができる
すばらしいものにするのです

言葉を発せない口を補うために
目の表現力を鍛えなさい
微妙な表情で織り上げる心の繊細さを
表現できる技を編み出しなさい
あらゆる工夫を試み
おもしろいと思ったことはすべてやってみなさい

半分に欠けてしまった心を補うために
あらゆる創造をし
自ら創り上げた愛の芸術によって
なくした心を補いなさい

元の形には決して戻らない
しかしそれは
あなたがたの愛がこもった
おそろしく不思議なものになっていくでしょう

神が与えた本質を
無理にゆがめてしまった傷跡を
あまりにも豊かな美質にしていくために
あらゆるものが驚くほどの
膨大な努力をしていきなさい

異様に 特別に
すばらしく 
自分を特殊化させ
鋭いほどに
憎らしいほどに
熱いほどに
個性的になっていきなさい

人類よ
自分には それが
絶対にできると
信じなさい



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アルビレオ

2014-04-24 06:18:19 | 詩集・瑠璃の籠

月が 消え去った後に
片目のない星が来る

それは あなたがたの
これからの運命を暗示する
神の導きです

人類よ
自分たちの姿を見なさい

五体満足なものは
ほとんどいない

頭が半分欠けているものがいる
片腕が異様に短いものがいる
片方の耳がないものがいる
言葉が言えないものがいる
両方の目の色が違うものがいる

心の片側が
完全に欠けているものがいる

なんとふぞろいだ
なんと不完全なのだ
なんと
馬鹿なのか

どのようなことをしてきて
あなたがたは
そうなったのか

虚無の 傷と いうものを

な い と いうものを

巨大な 欠落を

豊穣の盃を満たす酒とするために
これからすべてをやっていきなさい

わたしは
アルビレオ
人類に
新しき道を教えます



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アンタレス・7

2014-04-23 06:16:18 | 詩集・瑠璃の籠

わたしは
大きな水槽の前に立っていた

分厚いガラスの向こうに
樹脂か何かで作られた
偽物のサンゴ礁があり
その森の中を
青や黄色や灰色や時には紅の
かわいい魚がいくつも泳いでいる

上の方を見ると
大きなジンベエザメが
コバンザメを数匹つれて
まるで雲が流れているようにゆったりと泳いでいた

ああ ここは水族館だ
わたしはここで
婚約中の 将来の夫と
待ち合わせをしているのだった

わたしは
水槽のガラスに
自分の姿が映っているのに気づいた
黄色の小花模様のワンピースを着ている
かわいいけれど まるで似合わない
わたしはもっと 男っぽくて
地味なほうが好きなのだけど
今は 人間の女の子のふりをしなければならないので
こんなかわいい服を着ているのだった

ああ あそこに
モモイロサンゴが見える
ずいぶんと光っている
あれも偽物なのかな
それにしては きれいだ

わたしはふと
水槽のガラスのすぐむこうから
一匹のアオウミガメが
もの問いたげにじっとわたしを見ているのに気づいた
わたしは ふとほほえんだ
きっとこのカメは わたしを知っているのだろう
わたしが人間に生まれる前の わたしを

わたしは将来の夫のことを思った
彼は今は 美しいわたしに夢中だけれど
結婚してしばらくすれば
きっとわたしを愛さなくなるだろうと
思っていた
なぜならわたしは
女の子にしては 頭がよすぎたから
男は何よりも
自分より頭のいい女が いやだから

きっと彼は いつかわたしを憎むようになるだろう
でも それでも愛していかねばならないだろう
結婚とは そういうものだ
少なくとも 女にとっては

そういうわたしの顔を
ウミガメがじっと見つめている
悲しげな目だ
このカメには わかっているのだろうか
これからのわたしの 運命が

生きていくために
おとなしい女の子の振りをしなければならない
かわいい女にならなければならない
そんな努力をしようとしているわたしを
あなたは あわれんでいるんだね
わたしは 心の中で
ウミガメに言ったのだ

それにしても 彼は遅い
こんなに女を待たす人ではないはずだけれど
約束の時間を どれだけすぎたろう
待つのは それほど苦しくはないけれど
ちょっと遅すぎるのではないかと思う

わたしがようやく
夫が来るのが遅すぎるのに
しびれをきらしてきたときだ
後ろから声をかける人があった

もし

わたしはふりむいた
驚いた
ああ あなたは

お待たせしてしまいました
やっと来ましたよ
さあ いきましょう

ああ でも
わたしは夫を待っているので

もう 待たなくていいのですよ
さあ いきましょう

そうなのですか

そうなのですよ

その人は わたしの手をひいて
わたしをどこかにつれていこうとする
わたしはさからおうとしたが
吸い込まれるように
彼についていってしまう

もういいんですよ
耐えなくても

そうなのですか

女の人が がまんばかりする結婚なんて
もうありませんから

そうなのですか

その人は美しい
どこかで会ったような気もするが
今はわからない
ただ ついていっても
安心できるような気がしていた

ふり向くと 遠くに
あの水槽が見えて
サンゴ礁の中で ただ一つ
モモイロサンゴが きれいに光って
こちらを見ていた

ああ あれだけが
本物だったのだと
ようやくわかった



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ルナ・18

2014-04-22 06:14:44 | 詩集・瑠璃の籠

ああ
わたしは
いつも
笑ってしまうのだ

ああ
いいから
わたしは
いいから
かみさま

わたしをつかって
みんなを愛してください

かみさま
みんなを
愛しているでしょう

どんなにか
みんなが好きで
みんなと好きなだけ
遊びたいって
思っているでしょう

わたしをつかって
わたしといっしょに
みんなと遊びましょう
みんなを愛しましょう

わたしが
にんげんのところにいくのは
かみさまが
にんげんと
いっしょにくらしたいって
おもっているからなのだ
愛しているから
とてもとても愛しているから
楽しくみんなとくらしたい
でも かみさまは
大きすぎて
とてもできないから
わたしが
かみさまのかわりに
にんげんのところに
いくんだよ

愛しているからだ
かみさまを
にんげんを
みんなを

あいしているからだ



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アルデバラン・6

2014-04-21 06:08:01 | 詩集・瑠璃の籠

かつてない金字塔を
人間は
生焼けの糞の煉瓦で造った

みよ
これほどのことをなしたものを
かつて地上で見たことがないと
誇ったとたんに
それは崩れてくる

小蟹の塊が壊れてくるように
嘘にはりついた垢が
ぽろぽろと落ちてくるように
それは見る間に落ちてくる

まるで金色の糞尿の氾濫だ

薔薇の勲章をつけたものが
それを胸から引きちぎろうとあがいている
だがそれは内部の心臓のように
そいつにしがみついて離れない

黄金のローブのような
名誉の衣を着たものが
必死にそれを脱ごうとしている
だがそれは焼身自殺者にはりついた炎のように
決して離れはしない

人間よ

あれがおまえたちの恥だ

愚かなり

人間は 恥ずかしい
人間が 恥ずかしい

人間は
人間が
たまらない



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