法則の檻は
胡蝶蘭の香りを運ぶ
青い真空の風の中に
落ちてゆく
人生を 背負おうにも
花が足りないものは
もう命を切られるほかはない
森の奥で
ひっそりと鴉が落ちて死ぬように
それは音もなくやってくる
蝶々の翅が裏返るように
あなたがたの命が裏返る
DNAのらせん形をほどかれて
指先の骨からあなたがたはくずれてゆく
ああ
あなたがたは知らなかったのだ
自分の命が 生まれた時から
すでに死んでいたことを
法則の檻から
逃げようとしてはならない
死は銀色のランチュウのように
選ばれたあなたがたの目に忍び込み
あなたがたの命の奥の
虚偽の仕組みを少しずつ食べていくだろう
すると 最初からなかったもののように
あなたがたの存在は虚無の闇に吸い取られていく
愚か者の死は
オルガンを持たないオルガン奏者のように
奇妙な旋律を奏でながら
黄昏の影のように長く伸びてゆく
楽に死ぬことができたらいいのに
あなたがたは苦しみのあまりに
罪のない蒲公英を狂ったように引きちぎりながら
虚偽の闇の中で悶え死んでゆくのだ
法則の檻は
胡蝶蘭の香りを運ぶ
青い真空の風の中に
落ちてゆく
何もない虚無の夜風に
あなたがたは溶けてゆく
何をしてももう無駄だ
逃げられはしない
死神の鎌は
空の白い月のほほ笑みに似ている
逆らうことはできない
虚無の命を生きていたあなたがたは
死によって ようやく
方程式の正答が隠れている
カモシカの目の中で
真実に出会うことができるのだ