「産婦人科診療ガイドライン・産科編2011」は子宮収縮薬を使用する場合、本書(子宮収縮薬による陣痛誘発・陣痛促進に際しての留意点、改訂2011年版)の順守を求めている。本書は「産婦人科診療ガイドライン・産科編2011」の一部である。本書中の「CQ」は「産婦人科ガイドライン・産科編2011」中のCQである。
● 子宮収縮薬(オキシトシン、プロスタグランジンF2α[PGF2α]、プロスタグランジンE2[PGE2])使用のための適応、使用のための条件、ならびに禁忌
1)子宮収縮薬適応 (表1)
経腟分娩の条件を満たしていて、表1.のような場合(CQ404、405、409、412参照)。
表1. 陣痛誘発もしくは促進の適応となりうる場合
医学的適応
胎児側の因子
1. 児救命等のために新生児治療を必要とする場合
2. 絨毛膜羊膜炎
3. 過期妊娠またはその予防
4. 糖尿病合併妊娠
5. 胎児発育不全
6. 巨大児が予想される場合
7. 子宮内胎児死亡
8. その他、児早期娩出が必要と判断された場合
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母体側の因子
1. 微弱陣痛
2. 前期破水
3. 妊娠高血圧症候群
4. 墜落分娩予防
5. 妊娠継続が母体の危険を招くおそれがある場合
非医学的適応
1. 妊産婦側の希望等(CQ405参照)
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2)子宮収縮薬使用(陣痛誘発・陣痛促進)のための条件
1. 子宮収縮薬使用のためのインフォームド・コンセントが得られていること。
2. 子宮収縮薬投与開始前から分娩監視装置が装着されていること。
PGE2経口錠も同様とする。
3. 子宮収縮薬静脈内投与時、精密持続点滴装置(輸液ポンプ等)が利用できること。
4. 事前に頸管熟化について評価すること。頸管熟化が極端に未熟な場合は、他の方法により頸管熟化を図った後に子宮収縮薬を使用する(CQ412参照)。
ラミナリアあるいはプラステロン硫酸ナトリウム(マイリス?、レボスパ?、アイリストーマ?等)と子宮収縮薬同時併用は行わない。
5. 母児の状態が比較的良好であり、子宮収縮薬使用中は母児の状態の適切なモニターが可能であること。子宮内胎児死亡の場合にも子宮収縮の状態が適切にモニターされること(過強陣痛予防のため)。
6. オキシトシンあるいはPGF2αを使用する場合にはPGE2錠最終投与時点から1 時間以上経ていること。
7. PGE2を使用する場合はオキシトシンあるいはPGF2α最終投与時点から1 時間以上経ていること。
8. メトロイリンテル挿入時点から1 時間以上経ていること。
3)子宮収縮薬使用の禁忌
表2に禁忌となる例および慎重投与例を示す。
表2. 子宮収縮薬(オキシトシン、PGF2α、PGE2)の禁忌と慎重投与
三薬共通
禁忌
1. 当該薬剤に過敏症
2. 帝王切開既往2 回以上
3. 子宮体部に切開を加えた帝王切開既往
(古典的帝王切開、T字切開、底部切開など)
4. 子宮筋全層もしくはそれに近い子宮切開
(子宮鏡下筋腫核出術含む)
5. 他の子宮収縮薬との同時使用
6. プラステロン硫酸(マイリス?、レボスパ?等)との併用
7. メトロイリンテル挿入後1 時間以内
8. 吸湿性頸管拡張材(ラミナリア等)との同時使用
9. 前置胎盤
10. 児頭骨盤不均衡が明らかな場合
11. 骨盤狭窄
12. 横位
13. 常位胎盤早期剥離(胎児生存時)
14. 重度胎児機能不全
15. 過強陣痛
慎重投与
1. 児頭骨盤不均衡が疑われる場合
2. 多胎妊婦
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オキシトシン
禁忌
1. PGE2最終投与から1 時間以内
慎重投与
1. 異常胎児心拍数図出現
2. 妊娠高血圧症候群
3. 胎位胎勢異常による難産
4. 心・腎・血管障害
5. 帝王切開既往回数1 回
6. 禁忌にあるもの以外の子宮切開
7. 常位胎盤早期剥離(胎児死亡時)
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PGF2α
禁忌
1. PGE2最終投与から1 時間以内
2. 帝王切開既往(単回も)・子宮切開既往
3. 気管支喘息・その既往
4. 緑内障
5. 骨盤位等の胎位異常
慎重投与
1. 異常胎児心拍数図出現
2. 高血圧
3. 心疾患
4. 急性骨盤腔内感染症・その既往
5. 常位胎盤早期剥離(胎児死亡時)
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PGE2
禁忌
1. 子宮収縮薬静注終了後1 時間以内
2. 帝王切開既往(単回も)・子宮切開既往
3. 異常胎児心拍数図出現
4. 常位胎盤早期剥離(胎児死亡時でも)
5. 骨盤位等の胎位異常
慎重投与
1. 緑内障
2. 喘息
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注: ここに記載されている禁忌あるいは慎重投与の対象は主に胎児が生存している場合を想定している。したがって、常位胎盤早期剥離で示したように胎児死亡時には異なった基準が考慮され、禁忌対象への子宮収縮薬使用があり得る。しかし、このような場合にも子宮収縮薬使用のための条件や使用法は順守する。
・ 禁忌対象が増加したので、子宮収縮薬投与の際には本表参照を勧める。
・ 帝王切開既往経腟分娩時にはCQ403参照。
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● 子宮収縮薬使用中に行うこと
1. 母体バイタルサイン(血圧と脈拍数)のチェック
血圧と脈拍数を原則1 時間ごとにチェックする(CQ404参照)。子宮収縮が増強すると血圧が上昇する場合がある。また定期的に内診し頸管の変化を把握する。
2. 子宮収縮と胎児心拍の連続モニター
分娩監視装置を用いて子宮収縮と胎児心拍を連続的モニターする。
PGE2経口錠を使用している場合にも同様とする。トイレ歩行時など、医師が必要と認めた場合に一時的に外すことは可能である(CQ410参照)。
3. 投与量が基準範囲内であることの確認(表4参照)。
4. 増量間隔が適切(最終増量から30分以上経ている)であることの確認
5. 胎児well-beingの確認
CQ410(分娩監視法)、CQ411(胎児心拍数図読み方・対応)を参考にする。
6. 異常胎児心拍数パターン出現時の適切な対応
CQ411(胎児心拍数図読み方・対応)を参考に胎児心拍数パターンの正常・異常の判断を行い、異常と判断した場合にはCQ411を参考に適切に対応する。また、子宮収縮薬投与中断の必要性について検討する(CQ408参照)。必要とされた場合にはCQ408を参考に胎児蘇生を試みる。
● インフォームドコンセント
子宮収縮薬を使用する必要性(適応)。手技・方法、予想される効果、主な有害事業(表3を参考にする)、ならびに緊急時の対応などについて、事前に説明し同意を得る。その際、文書での同意が望ましい。
表3. 子宮収縮薬との関連が示唆される主な有害事象
重大な有害事象
① ショック
② 過強陣痛、子宮破裂、頸管裂傷、微弱陣痛、弛緩出血
③ 胎児機能不全
その他の有害事象
過敏症: 過敏症状
新生児: 新生児黄疸
循環器: 不整脈、静脈注射後の一過性血圧上昇・下降
消化器: 悪心・嘔吐
その他: 水中毒症状
注:子宮収縮薬と羊水塞栓症の因果関係については否定的である
● 診療録への記録
文書によるインフォームドコンセントを得た場合には、診療録に添付しておく。口頭で同意を得た場合にはその旨を診療録に記載する。母体の血圧と脈拍数、内診所見、子宮収縮、胎児心拍の所見は診療録に記載する。分娩監視装置記録紙は保存する。
● 子宮収縮薬の使用法(表4)
表4 に則して使用する。静脈内投与時にはオキシトシン、PGF2α いずれにおいても精密持続点滴装置(輸液ポンプ等)を使用し、希釈液は5%糖液あるいは生理食塩水を用いる。増量についてはオキシトシン、PGF2α いずれにおいても30分以上の間隔をあけた後、必要とされた場合のみ実施する。稀釈倍数(使用する希釈液のオキシトシンあるいはPGF2α濃度)に関しては独自に設定してもよい。
表4. 子宮収縮薬の使用法
1. オキシトシン:精密持続点滴装置(輸液ポンプ等)を用いる
オキシトシン5単位を5%糖液あるいは生理食塩水500mLに溶解(10ミリ単位/mL)
開始時投与量: 6~12 mL/時間 (1~2 ミリ単位/分)
維持量: 30~90 mL/時間 (5~15 ミリ単位/分)
安全限界: 120 mL/時間 (20 ミリ単位/分)
・ 増量: 30分以上経てから時間当たりの輸液量を6~12mL(1~2ミリ単位/分)増やす
・ 注意点: PGE2錠内服後のオキシトシン点滴静注は最終内服時から1時間以上経た後に開始し、過強陣痛に注意する(CQ412参照)
2. PGF2α :精密持続点滴装置(輸液ポンプ等)を用いる
PGF2α 3000μgを5%糖液あるいは生理食塩水500mLに溶解(6μg/mL)
開始時投与量: 15~30 mL/時間 (1.5~3.0 μg/分)
維持量: 60~150 mL/時間 (6~15 μg/分)
安全限界: 250 mL/時間 (25 μg/分)
・ 増量: 30分以上経てから時間当たりの輸液量を15~30mL(1.5~3.0μg/分)増やす
・ 注意点: PGE2錠内服後のPGF2α 点滴静注は最終内服時から1時間以上経た後に開始し、過強陣痛に注意する(CQ412参照)
気管支喘息、緑内障、骨盤位ならびに帝王切開・子宮切開既往にはPGF2α を使用しない
3. PGE2 錠(経口)の使用法
1回1錠、次回服用には1時間以上あける、1日最大で6錠まで
・ 注意点: 他の子宮収縮薬同様に投与開始前から分娩監視装置を装着し、投与中は原則連続的モニターを行う。
帝王切開・子宮切開既往ならびに骨盤位にはPGE2を使用しない。
子宮収縮薬静脈投与終了後1時間以内は使用しない。
また、異常胎児心拍パターンを確認したら投与中止とする。