ある産婦人科医のひとりごと

産婦人科医療のあれこれ。日記など。

分娩に関する用語

2010年05月03日 | 周産期医学

分娩(labor、delivery)

[定義] 分娩とは、胎児およびその付属物を母体から完全に排出、または娩出することをいう。

1) 妊娠持続期間による分娩の分類
①流産(abortion):
 妊娠22週未満の妊娠中絶

②早産(premature delivery):
 妊娠22週以後、37週未満の分娩

③正期産(term delivery):
 妊娠37週以後、42週未満の分娩

④過期産(post-term delivery):
 妊娠42週以後の分娩

2) 娩出の方法による分娩の分類
①自然分娩(spontaneous labor):
 自然の娩出力によって自然産道から娩出するものをいう。

②人工分娩(遂娩):
 なんらかの人工介助(薬剤、理学的処置、手術など)を加えることによって、分娩を遂げしめることをいう。

3) 娩出される胎児の数による分娩の分類
①単胎分娩(single labor):
 胎児が1個である分娩

②多胎分娩(multiple labor):
 胎児が2個以上の分娩

4) 分娩の経過による分類
①正常分娩(normal labor):
 正期産でさらに正常胎位、胎勢をもって自然分娩し、母児共に安全であるものをいう。

②異常分娩(abnormal labor):
 流早産、過期産のように分娩時期に異常のあるもの。または胎位、胎勢などに異常があって母児に危険を伴うもの。および人工分娩などをよぶ。


NTとは何か?

2010年05月01日 | 周産期医学

妊娠初期の胎児を超音波断層法の矢状断面で観察している時に、項部(後頸部)付近の皮膚が浮き上がって膨隆した形に見えることがある。膨隆した部分は無構造で、超音波が透過した抜けた形であるため、これを胎児項部透過像(NT: nuchal translucency) とよぶようになった。

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NT (nuchal translucency)

Inc20nty
(左:正常例、右:NT肥厚例)
Fetal Diagnostic Centers, Dr. DeVore

Ob_1_abnormal_nuchal_translucency_2
(NT肥厚例、5.8mm)
OBGYN.net, Daniel Cafici

Ob_1_abnormal_nuchal_translucency_3
(NT肥厚例、4.1mm)
OBGYN.net, Joseph Allen Worrall

Ob_1_abnormal_nuchal_translucency
(NT肥厚例、3.7mm)
OBGYN.net, Mario Ernesto Libardi

Ob_1_abnormal_nuchal_translucency_h
(NT肥厚例、13mm)
OBGYN.net, Martin Horenstein

Nt
(日本産婦人科医会研修ノートNo.74。必ずしも項部に最大厚みがみられるわけではない。このNTは項部で2.6mm、後頭部で3.8mm)

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NTの臨床的意義

1992年にNicolaidesらが、妊娠初期の胎児のNTの幅とダウン症の発生頻度に正の相関がみられることを報告した。さらにその後の研究によって、妊娠初期の胎児のNT肥厚例では、染色体異常、先天性心疾患、中枢神経疾患、消化器疾患、泌尿器疾患、神経筋疾患、代謝障害などの疾患に罹患している可能性があることが明らかとなってきた。すなわち、妊娠11~13週の胎児の正中矢状断面で計測し、NTの幅が3mm以上の場合に、Down症などの染色体異常や先天性疾患などの胎児異常の確率が増加するといわれている。

しかしながら、NT肥厚例であっても染色体異常も先天異常もない児が数多く存在するという事実を決して忘れてはならない。NTは胎児異常の可能性を示すものであって、確定診断にはならない。

NTは染色体異常や先天異常のマススクリーニング法として欧米で急速に広まった検査項目であるが、現在の我が国ではこのようなマススクリーニング法が容認される状況ではない。NTは推奨される検査項目ではないので積極的にNT計測を実施する必要はないが、NTを検査するつもりがなくても、CRLなどの他の目的で超音波検査を行った際に、NTが確認できてしまうこともある。

「胎児異常に関する情報提供」の希望有無の確認がとれてない妊婦にNTの増大が認められた場合、妊婦に告げるべきか、などの取り扱いについて現時点では学会などの指針はないが、患者と十分なコミュニケーションをとり、インフォームドコンセントを行うことが大切である。