ある産婦人科医のひとりごと

産婦人科医療のあれこれ。日記など。

母体搬送の受け入れ先決定までに時間を要した事例(その8)

2008年11月08日 | 地域周産期医療

私見(コメント):

現在の周産期医療の搬送システムは、胎児・新生児の救命という点を主軸に構成されています。総合周産期母子医療センターでも、常勤医師の専門分野が新生児科、産科、麻酔科、新生児外科などの胎児・新生児の管理に特化している施設も少なくありません。

妊婦の脳出血への対応ということになると、母体搬送の受け入れを要請する電話連絡では、患者を送り出す側の医師も、患者を受け入れる側の医師も、両方とも産科医で、脳出血に関しては全くの素人どうしの電話のやり取りですから、双方とも脳出血に対してどのように対応したらいいのか?の専門的知識に乏しく、瞬時に適切な判断を下すことが困難な場合も時にあり得ます。

都内のどこかで産科の緊急事態が発生する度に、個々の医療機関の産科医達が必死の思いであちこち電話しまくって、多くの候補の中から搬送先を何とか探し出すというような患者搬送システムでは、運が悪いと超緊急時でも搬送先が決定するまでに何時間もかかってしまうことが時に起こり得ます。人口が集中し、多くの医療機関を選択できる大都会では、関係する人の数が非常に多くなるので、適切な調整役が必要だと思います。

妊婦のけいれんや意識障害は、我々の施設でも時々経験します。子癇などの純粋な産科疾患で産科病棟だけで何とか対応できる場合が多いのですが、時には、患者が搬送されて来た直後に脳神経外科でただちに緊急手術をしていただく場合もあります。そういう緊急事態の場合は、夜中でも、産科、脳神経外科、小児科、麻酔科などの医師達がほぼ全員集合し、みんなでわいわい協議し、一致団結して事にあたります。(たまたま今の勤務先には大学の同級生が多く勤務していて、長い付き合いで互いの性格、技量を知り尽くしている仲間達なので、緊急時はみんな本当に頼りになります。)地方病院では、医師達は病院から10分以内のところに住んでいることが多いですから、一大事に関係医師を全員呼び出すことは比較的容易です。また、母体搬送の受け入れが可能な医療機関は地域ごとにほぼ1施設に限られてしまい、他に選択肢が全くないので、受け入れ先決定までの時間はほとんど問題になりません。

母体搬送の受け入れ先決定までに時間を要した事例

母体搬送の受け入れ先決定までに時間を要した事例(その2)

母体搬送の受け入れ先決定までに時間を要した事例(その3)

母体搬送の受け入れ先決定までに時間を要した事例(その4)

母体搬送の受け入れ先決定までに時間を要した事例(その5)

母体搬送の受け入れ先決定までに時間を要した事例(その6)

母体搬送の受け入れ先決定までに時間を要した事例(その7)

****** 産経新聞、2008年11月6日

続く脳内出血の妊婦受け入れ拒否 医療機関の連携急務

 東京都で9月下旬、30代前半の妊婦が脳内出血となったものの、杏林大病院(三鷹市)など少なくとも6つの病院に受け入れを断られた末、意識不明に陥っていることが分かった。東京では10月上旬にも、やはり脳内出血になった妊婦(36)が都立墨東病院(墨田区)など8病院に搬送を断られた末に死亡したばかり。2つの事例からは、脳内出血という症状の特異性や、医療機関同士のコミュニケーション不足が、共通する問題点として浮かび上がっており、早急な対策が求められている。

 ■コミュニケーション

 杏林大医学部の岩下光利教授は5日会見し、「脳内出血とは聞いていない。緊急性は伝わらなかった」と説明した。一方、妊婦の受け入れを要請した飯野病院(調布市)は「激しい頭痛を訴えているのでとにかく診てほしい」と切迫性は伝えたし、FAXもした。

 双方が食い違う説明をしているが、都立墨東病院のケースでも、搬送要請元と、受け入れ先の主張は対立していた。

 都内の大学病院で働くある産科勤務医は「医師同士のやりとりについても改善すべきところがある」と指摘。「拠点病院と地域病院が、日常的に顔の見える関係を作っておく必要があるのではないか」という。

 しかし、飯野病院がある東京・多摩地域は、人口400万人と東京都の3分の1が住むにもかかわらず、高度な医療設備を持つ総合周産期母子医療センターは杏林大病院しかなく緊急病床は日常的に満杯。都内にセンターが9施設あることを考えると、医療体制の偏りが受け入れ拒否の背景にあった可能性がある。

 ■産科と救急の連携

 「現在のセンターでは、脳内出血や心筋梗塞(こうそく)などの疾患に対応できない」。杏林大の岩下教授はそう釈明している。杏林大病院、墨東病院が関係した2つのケースは、ともに妊婦が脳内出血を起こしていた。

 産科医の専門外の疾患だ。石原慎太郎都知事は5日、「妊婦が心臓病を持っていたら心臓の専門家がいる。場合によっては脳外科、麻酔科も」と、他の専門医との連携の必要性を指摘した。舛添要一厚労相も「救急医と産科医の連携が課題」としているが、まだ具体的な“処方箋(せん)”はみえない。

 ■脳内出血の特異さ

 産科医の間では妊婦の脳内出血は特異な例と受け止められている。杏林大病院は5日の会見で、「十分な重症判断ができなかった」と、受け入れを断った一因を説明した。

 墨東病院が関係した事例とともに医師らが脳内出血を疑わなかったことが、受け入れ拒否につながった可能性があるが、昭和大の岡井崇教授は「ベテラン医師でなければ別の症状を疑うだろう」と現場の状況を話す。

 ただ、妊婦の脳内出血に警告を発してきた医師らもいる。

 国立循環器病センターの池田智明医師らは、全国1107医療機関に平成18年に発生した妊婦の脳血管障害を調べたところ、184人が該当。うち39人の脳内出血があり、7人が死亡していたとの報告書をまとめた。そのなかで、池田医師らは「脳血管障害を念頭においた管理をする必要がある」と指摘していた。

(産経新聞、2008年11月6日)

****** 朝日新聞、2008年10月24日

妊婦の脳血管障害184人、10人が死亡 06年

 お産に関連して脳血管障害を起こした妊産婦が06年に少なくとも184人いて、このうち10人が死亡したことが、厚生労働省研究班(主任研究者=池田智明・国立循環器病センター周産期科部長)の初の全国調査でわかった。脳出血では診断までに3時間を超えると死亡率が上昇。産科だけではこうした患者を救えず、脳神経外科との連携が課題として浮かび上がった。

 奈良県で06年8月に妊婦が19病院に搬送を断られ、脳出血で死亡したため、研究班は、全国1107カ所の病院で06年1~12月、妊娠中か産後1年以内に脳血管障害を起こしたケースを調べた。

 184人の内訳は脳出血39人、くも膜下出血18人、脳梗塞(こうそく)25人など。妊娠中のけいれん、高血圧で嘔吐(おうと)や意識障害が起きる高血圧性脳症は82人いた。死亡の10人のうち7人は脳出血だった。

 脳出血の39人がコンピューター断層撮影(CT)による検査を受けて診断が出るまでの時間をみると、3時間以内に診断を受けた人で死亡したのは8%なのに対し、3時間以上では36%に達した。ただ、重い後遺症が残った人は3時間以内では7割にのぼり、3~24時間がかかった場合の5割よりも高かった。研究班は「診断までの時間が短ければ予後が保たれるわけでもない」とみている。

 脳出血の26%に妊娠高血圧症候群が認められた。妊娠高血圧症候群の妊婦で、頭痛やけいれん、意識障害などの症状が出たら、脳血管障害を疑って搬送するなどの対処も求められるという。

 脳血管障害が起きる妊産婦は1万人に1人程度。妊娠中は胎児に血液をめぐらすために血液量が増えるなどして血管への負担が大きくなり、普通の人よりリスクが高まるとされる。

 池田さんは「妊産婦にはすべて産科で対応するという認識を改めなければいけない」と指摘。「総合周産期母子医療センターの指定要件として、脳神経外科との連携態勢を義務づけることなども検討すべきだ」と話している。【武田耕太】

(朝日新聞、2008年10月24日)

****** 読売新聞、東京、2008年11月6日

拠点・杏林大も7割拒否知事、開業医の当直協力要請

 脳出血を起こした調布市内の妊婦(32)が今年9月、杏林大病院(三鷹市)など6病院に受け入れを断られ、意識不明の重体となった問題は、多摩地区の産科医療の窮状を浮き彫りにした。重症妊婦らの緊急治療を行う「総合周産期母子医療センター」は、23区に8か所あるのに対し、多摩地区は、杏林大病院の1か所しかない。お産や治療が集中するため、同病院は母体搬送の受け入れを約70%も断っていた。

 杏林大病院は5日午前に記者会見を開いた。産婦人科の岩下光利教授は、12床ある「母体・胎児集中治療室(MFICU)」について、「ベッド不足が非常に深刻」としたうえで、「切迫早産などの母体搬送の依頼の約70%について、受け入れ出来ない状態だ」と現状を明らかにした。

 都内では先月、脳出血を起こした江東区内の妊婦が都立墨東病院(墨田区)でいったん受け入れを断られ、出産3日後に死亡する問題が起きている。墨東病院も同センターに指定されているが、岩下教授は「墨東は千葉から、杏林は山梨からも患者が運ばれてくる。東京は地域別に総合周産期センターが守りに当たっているが、東(墨東)と西(杏林)については決壊したに等しい」と訴えた。

 都福祉保健局によると、2007年の多摩地区の分娩(ぶんべん)数は3万4726件。産婦人科医は261人(06年)で、7・5人の医師で1000件の分娩に対応していることになり、区部(14・4人)のほぼ倍の負担になる計算だ。

 調布市内の妊婦が受け入れを断られたのも、病院側の多忙さが理由だった。都立府中病院(府中市)は「1人当直の産科医が分娩対応中で、受け入れが困難だった」とし、武蔵野赤十字病院(武蔵野市)は「帝王切開の手術直後で、患者の術後管理もあって断らざるを得なかった」としている。

 石原知事は5日、都医師会の鈴木聰男会長と面会し、都立病院の産科医不足を解消するため、地域の開業医に当直勤務を手伝ってもらう新制度への協力を要請した。鈴木会長は報道陣に、「できるだけのことを進めていきたい」と語った。

(読売新聞、東京、2008年11月6日)

****** 毎日新聞、東京、2008年11月6日

調布の脳出血妊婦受け入れ拒否:総合周産期母子医療センター、多摩には1カ所

 ◇杏林大などが受け入れ拒否

 ◇多摩には1カ所だけ 普段から患者集中

 脳出血を起こした調布市の妊婦(32)が今年9月、都内の6病院から受け入れを拒否された問題は、リスクの高い妊婦に対応する「総合周産期母子医療センター」が多摩地区には杏林大病院の1カ所しかなく、普段から患者が集中する実態を浮かび上がらせた。また、妊婦の脳出血が医師の間でうまく伝わらず、救急病院への搬送遅れが続けて発覚したことで、妊娠に直接関係しない疾患の対応に盲点があることも改めて分かった。【中村牧生、内橋寿明】

 ■最後のとりで

 総合周産期母子医療センターは、母親や新生児用の集中治療室があり、産科救急医療の最後のとりでとなる病院。都内では9病院が認定されているが、多摩地区には杏林大病院しかないうえ、周辺の埼玉、神奈川、山梨県などからも救急患者が運ばれてくる。このため集中治療室や一般病棟は常に満床で、杉浦正俊副センター長は「搬送依頼の7割は断らざるを得ない」と話す。

 都によると年間約10万件のお産件数のうち、多摩地区は3分の1を占める。杏林大病院だけで産科救急をこなせないため、23区にある8病院でローテーションを組み、当番病院が受け入れ先探しに協力している。

 今回の場合、帝王切開手術を終えた杏林大病院産婦人科の当直医が近隣で妊婦の受け入れ先を探したが、すべて断られ、当番の愛育病院(港区)に依頼し、最終的に墨東病院(墨田区)に決まった。

 ■東京ERも拒否

 東京ER(総合救急診療科)を持つ都立府中病院(府中市)も依頼を受けたが、1人しかいない産婦人科医の当直が分娩(ぶんべん)対応中で、「受け入れ困難」と回答。庶務課の担当者は「脳の具体的な症状は聞いていないということだった」と話す。都によると、東京ERは母子医療センターとは別個に開設されており、産婦人科との連携は十分ではないという。

 杏林大病院を補助する立場の武蔵野日赤病院(武蔵野市)も拒否した。嘔吐(おうと)と半身マヒの情報は入っていたが、産婦人科の当直医は1人。富田博樹院長は「帝王切開の手術が終わった直後に出産患者が緊急入院。受け入れは困難だった」と説明する。

 ■判断に食い違い

 これに対し、妊婦のかかりつけ病院だった飯野病院(調布市)の飯野孝一院長は記者会見で「とにかく脳の問題だから診てもらいたい。帝王切開が必要なら自分が手伝うから何とか受け入れてくれと伝えた」と語った。また、深夜に送信した杏林大へのファクスに「脳血管障害」「右半身不随」と妊婦の症状を書き込んでいたと明かし、「(緊急性がないと判断したという)杏林大の発言は理解できない」と憤った。

 杏林大によると、妊婦で脳出血を発症するケースは10万件に6・1件と少なく、産婦人科医はほとんど経験がないという。

 記者会見した岩下光利教授は「(当直医は)半身マヒは脳出血ではなく、妊婦によく見られる別の症状と考えたようだ。産婦人科医同士のやりとりで、専門領域ではない疾患の状況が伝わらず、重症度の判断が十分でなかった」との認識を示した。さらに「産科のほかに脳神経外科や救命救急などが連携して対応できる体制が必要だ」と述べた。

(毎日新聞、東京、2008年11月6日)

****** 東京新聞、2008年11月6日

杏林大病院・妊婦拒否 『搬送受け入れは30%』

 多摩地区で“安心安全なお産”はできるのだろうか-。脳の疾患が疑われた調布市の妊婦(32)が杏林大病院(三鷹市)などに受け入れを断られた末、約二十六キロ離れた都立墨東病院(墨田区)に搬送された問題は、そんな疑問を抱かせる出来事だった。【北川成史、東松充憲】

 リスクの高い妊産婦や新生児に高度医療を提供する中核施設となる「総合周産期母子医療センター」。都内には九カ所あるが、多摩地区には杏林大病院の一施設しか存在しない。

 「都内の分娩(ぶんべん)の三分の一は多摩地区だが、総合周産期母子医療センターは杏林だけ。いつでも満床の状態だ。多摩地区には周産期医療の施設、資源が不足している」

 今回の問題の発覚を受けて急きょ五日午前に会見した杏林大病院総合周産期母子医療センターの岩下光利副センター長は多摩のお産をめぐる厳しい現実を、そう説明。「現在、杏林大病院は母体搬送の依頼を受けても30%しか受け入れできていない」と衝撃的な数字も明らかにした。

 多摩地区のある病院長は「帝王切開の患者に対処した直後のような状況では、とてもすぐ次の患者を受け入れることはできない」と、緊急度の高い妊婦が重なった場合は“お手上げ”であることを認める。調布市の飯野病院にいた妊婦の搬送先が見つからなかった九月二十三日未明が、ちょうどこの「帝王切開が重なった夜」だったという。

 飯野病院と手分けして受け入れ先を探した杏林大病院はこの夜、都立府中病院(府中市)に設置された「東京ER(総合救急診療科)・府中」にも受け入れを打診している。都内に三カ所しかない救急対応の充実した施設のはずだが、「分娩対応中で受け入れ困難だった」(同病院)。都立府中病院ではこの夜、午前二時から九時までに三件の分娩があり、対応力にゆとりがない状況に陥っていたのだという。

(東京新聞、2008年11月6日)

****** 共同通信、2008年11月7日

脳内出血、伝えられていた  杏林大病院、都などが調査

 脳内出血を起こした東京都調布市の妊婦(32)が複数の病院から受け入れを拒否された問題で6日、最初に断った杏林大病院(三鷹市)が、都や厚生労働省などの調査に対し、搬送を要請したかかりつけの飯野病院(調布市)から、脳内出血の可能性を伝えられていたことを認めたことが分かった。

 都と厚労省、総務省消防庁は同日、問題発覚を受けて杏林大病院で聞き取り調査を行い、当直医から当時の状況などを聴いた。

 関係者によると、当直医は聞き取り調査に対して、飯野病院から脳内出血の可能性を伝えられたことは認めたが、一方で飯野病院から「杏林大が受け入れできる状態になるまで待つ」と言われたため、緊急性は低いと判断したという。

 都や厚労省は今後、受け入れを断ったほかの病院からも事情を聴くことを検討している。

(共同通信、2008年11月7日)

****** 共同通信、2008年11月6日

「脳の問題だと伝えた」 容体書きファクス送信も 搬送要請した病院長が主張

 脳内出血を起こした東京都調布市の妊婦(32)が複数の病院から受け入れを拒否された問題で5日、搬送を要請した飯野病院(調布市)の飯野孝一(いいの・こういち)院長が記者会見し、最初に断られた杏林(きょうりん)大病院(三鷹市)とのやりとりについて「脳出血であることを伝えた」などと述べ、緊急性を訴えたことを強調した。

 飯野院長は9月23日午前3時半ごろ、杏林大病院の当直医に自ら電話で受け入れを要請したという。

 飯野院長は「とにかく脳の問題だから診てほしいと伝えた。『脳血管障害』『右半身不随』と書いた診療情報提供書もファクスで送った。脳外科の先生に連絡してほしい。何でも手伝うので受け入れてほしいと伝えたが、杏林大病院からは『脳外科は(別の患者の)手術中』と断られた。『飯野病院で帝王切開した後に搬送すれば診る』と言われた」と話した。

 また受け入れを拒否した病院数について飯野院長は、当時の記録を調べた結果、さらに1つ増えたことも明らかにした。杏林大病院が独自に要請した施設と合わせ計7病院になる。

 杏林大病院側は「飯野病院から『受け入れできる状態になるまで待つ』と連絡があった。軽度の意識混濁や手の震えはあるが、呼吸や血圧は安定していると聞いていたので、緊急性は低いと判断した」と説明しており、双方の主張が大きく食い違っている。

 飯野院長は、妊婦の夫から5日、「周産期の救急搬送ネットワークを改善し、再発防止を望んでいる」という内容の電話を受けたことも明らかにした。

(共同通信、2008年11月6日)

****** 共同通信、2008年11月6日

「行政、物足りない」 死亡妊婦の夫がコメント

 東京都立墨東病院(墨田区)を含む8病院に受け入れを断られ、脳内出血で死亡した妊婦(36)の夫(36)=会社員、都内在住=が6日、「行政の対応に物足りなさを感じます。仕組み自体を改善すべきではないか」とするコメントを出した。

 9月下旬に脳内出血を起こした東京都調布市の別の妊婦(32)が、複数の病院から受け入れを拒否され、意識不明になっていたと報道されたことを受け、代理人の弁護士を通じて発表した。

 「同様のケースが発生していたことを知り、大変残念に思います。改善策を示したり、関係者間で情報共有するような仕組みはないものでしょうか」と疑問を投げ掛けた上で「連続して発生したということは、もはやレアケースとして済まされない問題。どうすれば安心して子供を産める社会を築けるか、徹底して再発防止に取り組んでほしい」と訴えている。

(共同通信、2008年11月6日)

****** NHKニュース、2008年11月7日

妊婦情報 伝達システム開発へ

舛添厚生労働大臣は、脳出血を起こした妊娠中の女性が病院に受け入れを断られ、死亡したり重体になったりするケースが相次いでいることを受けて、妊婦の症状を複数の病院や診療科に正しく伝える新しい情報伝達システムの開発に取り組む考えを示しました。

一連の問題では、脳出血を起こした妊娠中の女性の受け入れを要請した掛かりつけの病院と受け入れを断った病院との間で、女性の症状が正しく伝わらず、搬送が大幅に遅れる事態となりました。これについて、舛添厚生労働大臣は、閣議のあとの記者会見で「情報をしっかり伝えるためには、最先端の技術を使ったシステムを作る必要がある。経済産業省とも協力して、ミスが起こらないような情報伝達システムを開発したい」と述べ、来週初めにも二階経済産業大臣と協議したうえで、経済産業省とも連携し、妊婦の症状を複数の病院や診療科に正しく伝える新しい情報伝達システムの開発に取り組む考えを示しました。

(NHKニュース、2008年11月7日)

****** 毎日新聞、2008年11月7日

舛添厚労相:妊婦搬送要請時の「意思疎通改善を」

 舛添要一厚生労働相は7日の閣議後会見で、妊婦が病院に受け入れを拒否された問題について、「(要請する側と受け入れ側)双方の医師の間で言った、言わない、のコミュニケーションギャップになっている。ギャップが起こらないようなシステムを開発しようと二階(俊博)経済産業相と話をした」と述べた。【佐藤浩】

(毎日新聞、2008年11月7日)

****** CBニュース、2008年11月6日

周産期センター、「母体救急は難しい」

 先月に都内で妊婦が8つの救急医療機関に受け入れを断られた後に死亡した問題などを受けて11月5日に開かれた、「周産期医療と救急医療の確保と連携に関する懇談会」(座長=岡井崇・昭和大医学部産婦人科学教室主任教授)。会合では、総合周産期母子医療センターはそもそも母体を助ける体制になっていないことや、地域によって違う周産期医療連携の問題、医師不足など、あらゆる問題が噴出した。過熱報道のあおりを受けて急に開催されたとも取れるこの会合。来月末までに3-4回程度開催して提言をまとめる予定だが、こうした問題をどう収束させるのだろうか。【熊田梨恵】

 懇談会の開催が公表されたのは、開催前日の11月4日の夕方。5日には、東京・調布市で入院中の妊婦が脳内出血を起こし、杏林大学病院などの病院から受け入れを断られて現在は意識不明になっているとの報道が流れたこともあり、懇談会は報道関係者の注目を集めた。

 岡井座長は「墨東病院の問題は、医師不足で対応できなかったというのが根本的な問題で、産科と救急の連携がメーンの問題ではない。だが、一般の救急と産科の連携の必要性が浮かび上がった問題ではある。今日の懇談会は両者の連携が必要ということで議題にしている」と、会合開催の趣旨を整理。その上で、今回は周産期と救急医療について委員が日ごろ感じている問題などをフリーディスカッションし、次回はそれに対する対策を考えていくとの方向性を示した。

 会合は、最初に事務局が用意した資料説明から始まった。まず、日本産科婦人科学会が先月末に厚生労働相に提出した緊急提言の内容が説明された。次に、墨東病院の問題について厚労省が報道内容を基にまとめた資料や、10月27日に厚労省医政局課長と雇用均等児童家庭局課長の連名で都道府県の担当部局に出された、周産期救急医療体制の確保を求める内容の通知が紹介された。

■女性医師の労働環境の改善を
 次に、委員が提出した資料を各自で説明した。杉本壽座長代理(大阪大医学部救急医学教授)は、医師数の推移などを示した資料を提出。小児科医の数は増えている一方で、14歳以下の人口は減っているため、小児科医一人当たりの子どもの数は年々減少していること、産婦人科医一人が担当するお産の数は1990年から一定であること、麻酔科医は2006年には10年前に比べて約1000人増えていること―などを示した。その上で、小児科や産婦人科、麻酔科には女性医師が多いとするデータを示し、「単に医師数を増やしても駄目ということ。女性医師が増えているということが大きな問題。今、医学部の定員を増やしても一人前になるには15年はかかる。まずは女性医師が妊娠や出産をしても働き続けられる環境が必要」と述べた。
 また、医師の事務作業を補助するスタッフの増員など、喫緊の対策を求めた。

 資料説明が終わった後はフリーディスカッションに入った。

■ハイリスク新生児が増
 田村正徳委員(埼玉医大総合医療センター総合周産期母子医療センター長)は、「小児救急や新生児医療などハードワークをする医師が足りない。お産の数は減っているが、小さい赤ちゃんが右肩上がりで増えている。NICUに入るハイリスク新生児は絶対数として以前の1.5倍」と述べ、単にお産の数だけを見ていても状況は分からないとした。

■母体が助からない周産期センター
 海野信也委員(北里大医学部産婦人科学教授)は、そもそも周産期母子医療センター自体が母体を助ける機能を有していないとして、周産期医療対策整備事業の整備指針の問題点を次のように指摘した。
 「総合周産期母子医療センターは『最後のとりで』というような表現で報道されるが、実際にセンターが作られてきた経緯は全くそういうものではない。実際の事業は、胎児や新生児への救急に対応できるシステムを作るということ。産科の方からは『母体救急は大きい問題』と言い続けてきたが、指針には、脳外科などが必要とは書かれていない。産科、新生児、麻酔科の医師を置くなどの限られた基準で、麻酔科は常勤である必要もない。そういう限定的な条件の施設基準で整備されてきた。総合周産期母子医療センターの当直数についての報道もあったが、総合周産期母子医療センターの半分以上は当直医は1人だ。平成8年に事業がスタートした時は2人という規定だったが、『それでは大学病院ならできるが、一般病院はできない』と現場から言われた。そこで、平成15年4月に出された(厚労省)雇用均等児童家庭局からの通知で、MFICUが6床以下のセンターはオンコールを置けば当直は1人でもいいとなった。『それならできる』と整備は進んだが、産婦人科医を増やそうとする努力をしてこなかった。こうした周産期センターの数を増やそうと努力するあまり、母体救急対応という配慮が抜けている」
 さらに周産期救急情報システムについて、「整備指針には『作って下さい』とあるが、実際は作っていないところが多い。地域によっては作ってもしょうがないというところもあり、電話した方が早いといって、山形県のようにやっているのが普通では」と述べ、地域によって実情が違うと指摘した。

 これについて、池田智明委員(国立循環器病センター周産期科部長)は、厚生労働科学研究費で実施された総合周産期母子医療センターに対するアンケート結果を踏まえ、「すべてのセンターが、『母体救急に対応できるようにつくるのは非現実的。近くの救急医療機関と連携を取ってやりたい。現場の医師がどう協力してやるかと考えている』と答えている」と述べた。

 大野レディースクリニック院長の大野泰正委員は、自ら診ていた妊婦が、特に問題ないと思われていたのに急にけいれん発作を起こしたという事例を紹介。「地域の周産期センターに電話したが、何といって断られるかというと、『産科病棟がいっぱい』『全館満床』『NICU満床』『脳外科対応ができない』など。われわれ開業医は何か危ないことがあったら総合センターか地域センターが助けてくれると思う。だが、愛知県内の地域周産期母子医療センターは、『脳出血や、それが疑われるものは全く受け入れられない』という。センターの成り立ちを考えると脳外科はないが、先ほどの(周産期医療対策整備事業)整備指針のようなものを開業医は知らない。断られたとなると、次にお願いするところがないのでとても切実な思いだ」と訴えた。

■産科・救急連携は地域で違う
 田村正徳委員(埼玉医大総合医療センター総合周産期母子医療センター長)は、埼玉県の周産期医療の事情を説明し、墨東病院問題の影響に言及。
 「今回、墨東病院の件がショックだったのは、9つの総合周産期母子医療センターがあり、NICUに恵まれている東京ですらこういう最悪の事態が起きたということ。埼玉県では、分娩数当たりの産婦人科医や新生児科医の数は全国でも最低。県内人口700万人当たり、1つの総合周産期母子医療センターしかない。埼玉県内ではNICUに入らないといけない赤ちゃんの3割が東京に送られて、急場をしのいでいる。今回の件で東京都が敷居を高くして、他県からの母体搬送を受け入れなくなるということが起きかねない。墨東病院も日赤医療センターも埼玉県から見たら頼みの綱。これは破局の前触れだ」
 その上で、周産期救急情報システムについて、NICUのベッドが空いていることがないと主張。「舛添先生は石原先生とけんかしないでほしい」と述べ、都内の総合周産期母子医療センターの空床情報を関東近郊の県からも見えるようにしてほしいと訴えた。

 これに、海野委員も同調。神奈川県も埼玉県と同じような状況だとし、「首都圏は一つの医療圏として考えねばならない」と述べた。

 嘉山孝正委員(山形大医学部長)は、墨東病院の問題について「根本はシステムエラー」と述べた。
 外科や脳外科などを揃えるようになっていない総合周産期母子医療センターは現場に沿ったものになっていないとした上で、山形県内では地域の実情に合わせ、総合周産期母子医療センターは設置せず、県内の山形大医学部附属病院など3つの病院で役割分担して周産期の三次救急を担っていることを紹介。「急患はとりあえず受け入れるようにしている。どうしてもセンター化するなら十分な人数がいなければ無理だ」と主張した。
 
 杉本座長代理は、周産期医療と救急医療などを引き合いに、「医学界は縦割りになっているが、これが交わらないとできない」と述べた。それを解消した上で、救急医療は地域の実情に合わせて展開することが必要とした。

■都道府県に投げず、省庁間連携が先
 有賀徹委員(昭和大医学部救急医学講座主任教授)は、日本救急医学会が認定する救急科専門医が今年は約3000人になる見込みとしたが、「臨床研修病院に専門医を一人ずつ割り振ったら、各病院に一人しかいない」と、専門医の数が根本的に不足しているとした。

 また、会合の始めに事務局から紹介された周産期救急医療体制の確保を求める通知の内容に疑問を呈した。通知では、周産期救急情報システムと救急医療情報システムについて、更新頻度や入力情報など運用の確認や改善を求めている。
 「救急医療情報システムは昭和50年代から厚労省が進めているが、全県一区で集約するようなシステムになってない。なぜなら市町村消防が基本単位でやっているから。これを都道府県に投げて『考えろ』と言っているが、どういうイメージで改善しろと言っているのかよく分からない。救急医療情報システムもいまだに成り立っていないのに、周産期と二つのシステムについて改善しろと言うのが分からない。これを議論の積み残しにしてはならない。これは厚労省と消防庁が連携しないといけない問題だ」と述べた。

(CBニュース、2008年11月6日)

****** 毎日新聞、東京、2008年11月6日

都周産期医療協:「ギリギリ」「綱渡り」 医師不足の実態浮き彫り

 都立墨東病院(墨田区)などに受け入れを拒否された妊婦が死亡した問題を受け、対応策を話し合った5日の都周産期医療協議会(会長・岡井崇昭和大医学部教授)。集まった専門家からは産科現場について「本当にギリギリの状態」「綱渡りでやってきた」などの発言が相次ぎ、医師不足にあえぐ実態が改めて浮き彫りになった。

 協議会はリスクの高い妊婦に対応する「総合周産期母子医療センター」の専門医ら20人が参加した。東京女子医大母子総合医療センターの楠田聡教授は「周産期医療の供給体制がどう考えても限度がある。ニーズに対して絶対数がギリギリだという認識をみんなが持つべきだ」と指摘。そのうえで「東京はいろいろなカバーできる施設がある。限られた資源を有効に使うネットワーク、助け合いのシステムを作ることがわれわれにすぐできること」と提言した。

 墨東病院の小林剛院長は「(墨東病院がある)東部ブロックは分娩(べん)数が一番多いのにセンターはうちだけ。隣の東北部ブロックはセンターがなく、隣接地域の方が当院に来てしまう。千葉からもかなり入ってくる。その中で医師がどんどん減り、今も医師集めに努力しているが、日本中に産科医がいないということで、本当にギリギリの状態」と述べた。

 協議会は近く再び会合を開き、今回のケースのような救急性の高い妊婦にどう対応するか話し合う。【須山勉】

(毎日新聞、東京、2008年11月6日)

****** 毎日新聞、2008年11月5日

妊婦死亡:墨東病院当直1人の日に「当番」制…都協議会

 東京都立墨東病院(墨田区)などに受け入れを拒否された妊婦が死亡した問題で、都周産期医療協議会(会長、岡井崇・昭和大医学部教授)は5日、墨東病院の当直が1人になる日は他の総合周産期母子医療センターが代わりに妊婦搬送を受け入れる「墨東当番」の導入を決めた。

 受け入れ拒否をした時に産科当直が1人しかいなかった墨東病院は10月末、11月の休日当直を「可能な限り2人体制にする」と発表した。しかし、新たな医師は確保できず、5日間は終日あるいは日中が1人当直となる見通し。協議会ではこの時間帯について、都内にある別の八つのセンターが代わって対応することで一致。輪番制とし、今月最初の1人当直となる8日にも導入する。

 都内では既に、センターが杏林大病院しかない多摩地区をカバーする「多摩当番」が導入されているが、墨東病院はこの当番から外すことも決まった。協議会に出席した墨東病院の小林剛院長は「墨東病院のある地域は分娩(ぶんべん)数が多いのに施設数が少ない。隣接する千葉、埼玉からも患者がかなり入ってくる。本当にぎりぎりの状態」と理解を求めた。【須山勉】

(毎日新聞、2008年11月5日)

****** 産経新聞、2008年11月5日

妊婦受け入れ拒否 対策や再発防止を検討

 東京都内で妊婦をめぐる救急体制の不備が明らかになったことを受け5日、都と厚生労働省がそれぞれ、専門家による協議会や懇談会を開き、対策や再発防止の検討を始めた。

 都の協議会では、医師不足や受け入れ施設が満杯のため、妊婦の受け入れを当初拒否した都立墨東病院と、杏林大病院に対する当面の支援策を協議。多摩地区の産科救急を23区内の総合周産期母子医療センターが支援する「多摩当番」から、墨東病院をはずすことで合意した。

 杏林大病院を除く都内の7つのセンターが、墨東病院の当直が1人になる際には輪番制で墨東病院を支援する制度を設けることも検討することになった。

 厚労省の懇談会では、墨東病院が医師不足の状態にもかかわらず、センターとして指定されていたことなどから、指定基準を見直すことや、空床情報の照会システム改善の必要を訴える意見も相次いだ。懇談会では、対策案を12月中にまとめる方針。

(産経新聞、2008年11月5日)


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1 コメント

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先生のように集約といういいづらいことズバッと言... (KK)
2008-11-10 10:07:55
学会も他の医師も声を大にして集約を推進すべきと
思います。

それしか産科生き残りはないのですから。
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