ある産婦人科医のひとりごと

産婦人科医療のあれこれ。日記など。

地元でお産「できない」/拠点病院へ集約化 (朝日新聞)

2006年12月12日 | 地域周産期医療

コメント(私見):

昨年の分娩件数が177件だったということは、平均すれば2日に1件程度の分娩件数ということですから、実質的な仕事量は大したことありません。

しかし、お産はいつ始まっていつ終わるのか全く予測がつかないので、1人勤務態勢の病院であれば、産科医は1年中病院の近辺にいなければならない生活になってしまい、休みも全く取れません。

その上、いざと言う時には、常勤医1人だけでは人手が全く足りず、適切な医学的対応も困難です。

今後のさらなる周産期医療体制の崩壊を阻止するために、産科医・助産師・小児科医・麻酔科医などの拠点病院への集約化を、全国的規模で早急に進めてゆく必要があると思います。

**** 朝日新聞、北海道、2006年12月10日

地元でお産「できない」/拠点病院へ集約化

■2時間かけ釧路へ 妊産婦「不安」
 ―― 産婦人科常勤医ゼロ 根室では

 産婦人科の看板を掲げながら、お産ができない医療施設が道内で増えている。産科医の減少や拠点病院への集約化で、診療はできても分娩や入院をするだけの態勢が取れないためだ。近隣の病院に通うにしても、広い北海道は妊産婦に大きな負担を強いる。地元でお産が出来なくなってから3カ月が過ぎた根室市の場合を見た。

 市立根室病院(羽根田俊院長、199床)は、北大が派遣医を引き上げて1人の常勤態勢が維持できなくなり、9月以降は、釧路市の病院の派遣医が週2回だけ外来診療にあたる。入院や出産はできない。市内唯一の産婦人科だったため、お産は釧路市など近隣の病院に頼らざるを得なくなった。

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■誘発分娩勧める

 「やっと子どもが出来たのに、こんどは産むのが大変」

 今月半ばが出産予定の根室市内の女性(32)は、釧路市の病院で不妊治療を続け、結婚5年目で念願の子どもを授かった。お産は地元でと考えていたが、市立根室病院の分娩休止で釧路での出産準備を進めている。

 根室から釧路までは車で約2時間。雪道のいまはさらに時間がかかる。出産が間近になって会社員の夫(32)に晩酌をやめてもらった。緊急以外に救急車は使えないからだ。「万が一を考えると不安です」と話す。

 11月末に釧路市内で長女を出産した26歳の女性は、妊娠37週目だった。予定日にはまだ2週間あったが、胎児の成長が進んだこともあって薬で陣痛を促す誘発分娩で、入院から2日目で出産した。

 市立根室病院は、分娩休止にあたって作成した緊急対応マニュアルの中で、妊産婦に計画入院による誘発分娩を勧めている。女性の母親(54)は「自然な陣痛を待つにこしたことはないが、行き来を考えればそんなゆとりはない」と割り切る。

 別の女性(31)は、公務員の夫(29)が転勤する前に、実家のある根室で2人目の子どもをつくろうと夫婦で考えていた。だが地元では産めなくなった。「上の子を抱えて遠くでの出産は大変。転勤後も『里帰り出産』ができないし、どうしたものか」

 妊産婦らには、事前に休止の予定が伝えられていたため大きな混乱はなかったが、羽根田院長は「地方の一医療機関で解決できる問題ではないとはいえ、結局は患者にしわ寄せが行く」と苦しい胸の内を語った。

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 北大はこの春から、派遣医の1人勤務態勢を改善するため、拠点病院への集約化を進めている。市立根室病院はその影響を受けた。今年2月、福島県で医療ミスを巡って産科医が逮捕された事件が背景にある。

 水上尚典・北大産婦人科教授は「緊急の際、医師1人では判断ミスの危険性が高まる。引き上げは苦渋の判断だった」とし、再開には「北大単独では難しい。旭川医大、札幌医大の3者による態勢づくりができれば」という見方をする。

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■市は負担軽減策

 市立根室病院が昨年度扱った出産件数は177件で、市に届け出のあった出生数の7割を占めた。市は分娩休止による妊産婦の負担を軽減するため、出産時の交通費を助成したり、出産前後に子どもの保育を請け負ったりする新制度を設けた。

 これまで、早産や流産につながる緊急事態は発生していないが、万が一の救急車による搬送に備えて、助産師と看護師がいつでも出動できるよう、24時間態勢も取り始めた。

 69年に約5万人あった根室市の人口は、水産業の衰退で現在3万1千人。入院・分娩の休止で出産に二の足を踏むケースが増え、人口減にさらに拍車がかかるという不安も市民の間に広がっている。

 市は11月、長谷川俊輔市長を本部長とする「医師確保対策プロジェクト」を立ち上げた。医師不足は産婦人科にとどまらない。長谷川市長は「国による医療制度の見直しが地方を追いつめている。広大な北海道は、その特殊性を考慮した手当てが必要だ」と訴える。

■拠点病院への集約化 国が指導

 厚労省が3年に一度行っている医療施設調査によれば、道内の産婦人科・産科の病院、診療所のうち、実際に分娩を扱ったのは、96年が253中165カ所(65.2%)に対し、05年は198カ所中114カ所(57.6%)。また、産婦人科の医師数自体も96年度の418人(他科との重複を含む)から04年度は366人まで減った。

 厚労省は、産婦人科や小児科については拠点病院への医師の集約化を各都道府県に指導している。「通院に不便な地域などでは、拠点病院に宿泊用の付帯施設を設けるなど、地域の実情に即した医療提供態勢をつくるため、行政が積極的に関与していくことが必要だ」(同省医政局)としている。

(朝日新聞、北海道、2006年12月10日)

****** 参考:

産科医集約(北海道・砂川市立病院の例)

読売新聞:[解説]産科医減少 対策は

北海道新聞:旭医大派遣の産婦人科医、室蘭・日鋼病院から引き揚げ

北海道の産科医不足の状況

産院が消えた北海道根室市から