コメント
産婦人科医を再配置して集約する場合は、同時に、小児科医、麻酔科医、助産師なども同じ病院に集約しないと全く意味がありません。産婦人科医が全員撤退した後に、助産師の全員がもとの病院に取り残されてしまって大勢の助産師が本来の仕事ができなくなってしまうようでは地域の貴重な人的資源が無駄になります。
今後、広域医療圏ごとに周産期センターを設置して、地域の産婦人科医、小児科医、麻酔科医、助産師などを集約してゆく必要があります。その際の集約の規模ですが、産婦人科医4人体制ではまだ中途半端で不十分な規模と思われます。当直は週1回程度とし、当直の翌日は休みが取れるくらいの規模(理想的には産婦人科医10人体制、最低でも産婦人科医7~8人体制程度)が望ましいと考えます。
周産期医療の集約化のためには、地域内の多くの病院の医師達がセンター病院に移動しなければなりません。つまり、産科施設の数を大幅に減らす必要がありますが、その集約化を各自治体や各病院の個々の自発的努力のみに任せていたんでは、いつまでたっても全体の話がまとまるはずがありませんし、実行も非常に困難だと思います。国レベル、県レベルで、地域周産期医療の将来のビジョンを地域住民に明確に示し、強力に集約化を推進していく必要があると考えます。
****** 読売新聞、2006年2月1日
産科医集約 体制手厚く
(略)
滝川市の市立病院には、北海道大から派遣された産科医が1人いた。だが、北大は一昨年9月、同病院と市立美唄病院への産科医派遣(各1人)をやめ、かわりに両市の間にある砂川市立病院への派遣を2人から4人に増強した。滝川、美唄の病院では、お産はできなくなったが、週2、3回、砂川市立病院や北大の産科医が出張して外来診療を行う。
医師を1か所の病院に集めた背景には、産科医の過酷な就労環境がある。1~2人体制だった各病院の医師は、昼夜を問わないお産に備え、365日、当直や自宅待機で拘束され、心身とも疲れきっていた。ミスにもつながりかねない。
多くの病院が、同様の危機に陥っている。激務に燃え尽きて辞める医師もいるし、なり手も減っている。
日本産科婦人科学会の昨年7月の調査では、全国の大学病院と、大学が医師を派遣する関連病院の産婦人科医は4739人で、2003年春に比べ8%減り、111の関連病院がお産の扱いをやめた。地方では特に事情は深刻だ。
調査をまとめた筑波大産婦人科教授の吉川裕之さんは「医師個人の使命感や良心に頼る体制は限界だ」と訴える。解決の手段の一つが、医師を拠点病院に集める集約化で、国も同様の方針を打ち出した。
産科医が4人に増えた砂川市立病院では、医師が休みを確保できるうえ、治療方針を検討しあうなど、手厚い体制で事故防止の点でも前進した。
高度な医療も実現した。北大に同調し、札幌医大小児科も、砂川市立病院への派遣医師を増やし、未熟児などを治療するNICU(新生児集中治療室)が開設されたのだ。
同病院産婦人科部長の武田直毅さんは「以前なら札幌や旭川に搬送していた妊婦や新生児も、この地域で治療できる」と話す。
産科医の再配置には2年かかった。産科医不在になるのを嫌う自治体を説得するため、北大産婦人科教授の水上尚典さんは「産科医を巡る厳しい状況を粘り強く説明した」と振り返る。
ただ、砂川市立病院ではお産の件数は2倍になったのに、看護師・助産師は増えていない。募っても集まらず、市職員であるスタッフを他市から移動させることも難しいからだ。自治体の枠を超えた体制整備が求められる。
(2006年2月1日 読売新聞)