ある産婦人科医のひとりごと

産婦人科医療のあれこれ。日記など。

上皮性卵巣癌に対する標準的化学療法

2006年07月06日 | 婦人科腫瘍

卵巣癌は化学療法が奏功する腫瘍である。一般に進行癌が多く、早期癌でもしばしば再発することから、多くの症例が化学療法の対象となる。

上皮性卵巣癌の標準的寛解導入・補助化学療法の変遷(CAP療法以降)

1.1980年代後半から1990年代前半にかけては、CAP療法(シクロホスファミド+ドキソルビシン+シスプラチン)あるいはCP療法(シクロホスファミド+シスプラチン)が標準治療とされた。

GOG47(1986年):CA療法(シクロホスファミド+ドキソルビシン)よりシスプラチンを含むCAP療法が、奏功率、生存率、無病期間において優れていることが報告された。

GOG52(1989年):CP療法とCAP療法の比較試験で、両者に奏功率、生存率、無病期間に差がないことが報告された。

  GOG: Gynecologic Oncology Group

2.TP療法(パクリタクセル+シスプラチン)とCP療法の比較試験が施行されて、TP療法の有益性が示され、TP療法が標準治療となった。

GOG111(1996年):CP療法 vs TP療法の比較試験が行われ、これによりTP療法の優位性が示された。

OV-10(1998年):GOG111の追試が行われ、同様の結果が得られた。

3.プラチナ製剤としてカルボプラチンとシスプラチンを比較した場合、抗腫瘍効果は同等であるが、毒性の軽減と簡便性によりカルボプラチンが選択されることが多い。TJ療法(パクリタクセル+カルボプラチン)は、現時点での標準治療として定着している。

GOG158(1999年):TP療法 vs TJ療法の比較試験が行われ、両者の抗腫瘍効果は同等であるものの神経毒性に関してはTJ療法の方が軽度であることが示された。

4.TJ毎週投与(weekly TJ)療法
以下の点より注目されている。
a.標準的な投与に比べて骨髄抑制が有意に低い。
b.その他の副作用では有意差はみられない。
c.標準的な投与に比べて奏功率は差がない。

5.TJ療法とDJ療法(ドセタキセル+カルボプラチン)とを比較するphase Ⅲ study(SCOTROC: Scottish Randamized trial in Ovarian Cancer、2001年)で、奏功率、progression free survivalで両者に差を認めなかった。しかし、長期予後に関する結論がまだ出ていないので、DJ療法を卵巣癌の標準初期治療とするには時期早尚である。合併症として末梢神経障害が危惧される患者に対しては、DJ療法を選択し施行することも十分に想定される。

参考文献:

卵巣がん治療ガイドライン、2004年版、日本婦人科腫瘍学会http://www.jsgo.gr.jp/09_guideline/guideline/guide01_02.pdf

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