紫のオルフェ~何でもかんでも気になる音楽、名曲アルバム独り言

ジャズ、ラテン、クラシックを中心として、名曲、アルバム演奏者を紹介します。&私の独り言を…

CBSから発売された唯一のアルバム…キース・ジャレット~エクスペクテーションズ

2008-01-27 22:10:24 | ジャズ・ピアノ・コンボ
「キース・ジャレット」…このスーパー・アーティストが、最高のパフォーマンスを発揮するのは、やはり「ソロ・ピアノ」であり、次いで「ピアノ・トリオ」で有ると言うのは異論の無い事でしょう。

しかし、今回はその2種類ではなく、サイケな70年代をいかにも象徴していて、アヴァンギャルドなタイプのミュージシャンが多く参加している、かなり異質のアルバムなんですが、この演奏が結構良いんですよ。
参加しているミュージシャンたちも、一癖も二癖も有る、兵揃いで、聴く前から興味が湧き湧きって感じです。

「ケルン・コンサート」や、「ソロ・コンサート」、或いは「スタンダーズ」とはがらりと違う、チョイ悪な「キース」の演奏をお楽しみ下さい。

アルバムタイトル…エクスペクテーションズ

パーソネル…リーダー;キース・ジャレット(p、ss)
      チャーリー・ヘイデン(b)
      ポール・モチアン(ds)
      デューイ・レッドマン(ts)
      サム・ブラウン(g)
      アイアート・モレイラ(perc)
      ストリングス&ブラス・セッション

曲目…1.ヴィジョン、2.コモン・ママ、3.ザ・マジシャン・イン・ユー、4.ルーシロン、5.エクスペクテイションズ、6.テイク・ミー・バック、7.ザ・サーキュラー・レター、8.ノーマッズ、9.サンダンス、10.ブリング・バック・ザ・タイム・ホエン、11.ゼア・イズ・ア・ロード

1972年 NYにて録音

原盤…CBS 発売…ソニー・ミュージック・ジャパン
CD番号…SICP-756

演奏について…序奏の「ヴィジョン」…ストリングスの優しい調べにのって、「キース」が美しいフレーズを弾いて…準備OKとなります。

2曲目「コモン・ママ」…ラテン・ロック調のリズムに、ホーン・セクションが加わると言う、かなり大編成のバックを従えて、「キース・ジャレット」が、自由奔放に、自らのスタイルで音を紡ぎ、鍵盤に「キース」調、「キース」魂を叩き付けるトラック。
序奏の後、「キース」は、ソプラノ・サックスを使用して絶叫し、合わせて「デューイ・レッドマン」のテナーもそこに絡んでくる。
この辺は、珍しい演奏ですよね。
その後「チャーリー・ヘイデン」が、ぶっとい音でアドリブ・ベース演奏をするんですが、流石です…見事にKOされます。
それから、「キース」はもう一度ピアノに戻り、「モレイラ」の刻むパーカッション、「レッドマン」のテナーと共に、音の異空間を作り上げて完成させます。

3曲目「ザ・マジシャン・イン・ユー」…この曲もラテン・フレヴァーな曲ですが、「サム・ブラウン」のギターと、「キース」のピアノ、そしてまたまた「モレイラ」のパーカッション(コンガ、ボンゴ)が、とてもメロディアスで素敵な曲に仕上げています。
まぁ、時代的にフュージョン全盛期に、ジャスト・ミートな曲と言えば、分かり易いかな?

4曲目「ルーシロン」…序奏はホーン群が、怪しい和音で初めて、その後「ヘイデン」が、ハードにびんびんに刻むベースと、「モチアン」がフリーに敲くドラムが、第一の聴き物です。
そして、続いて「キース」もフリーにソロを取ってから、「レッドマン」が激しいトーン&フレーズで絶叫します。
しかし、ただ絶叫するだけじゃなくて、時々メロディを吹いてくれる所に…可愛げが有るんですよ。

5曲目、表題曲の「エクスペクテーションズ」…一聴して、「キース」が奏でる、とても魅惑的なメロディに…心惹かれます。
それを受けて「ヘイデン」も、メロディアスなソロを取り、「ヘイデン」の演奏をストリングスが取り囲んで…更にロマンティックにします。
終盤に入ると…「キース」と「ヘイデン」、それから「モチアン」のブラッシュ・ワークで、とても美しいピアノ・トリオ演奏がなされて…うぅーん大満足です。

6曲目「テイク・ミー・バック」…親しみ易いメロディと、正統的なブルーズ調4ビートの「キース」作曲の曲で、演奏で耳を惹くのは、「レッドマン」が、ブルージー&フリーキーに仕上げるテナーが良い味を出しています。
「キース」は、序盤では、あえてか?ブロック・コード演奏を主にして、伴奏に専念しています。
終盤、華麗に決める部分(ソロ)も、勿論有るんですけどね。
他では、ギター「ブラウン」のテク抜群のソロも、バッチリ聴かせてくれて…相当行けてますよ。
最後まで、メンバーのノリは抜群で、とてもポップで聴き易い1曲です。

7曲目「ザ・サーキュラー・レター」…一寸、音を外した、ホーン群&ギターのユニゾン演奏&メロディが、不思議な気持ちにさせられるナンバーです。
しかし、覚え易いリフレインのこのテーマ・メロディを軸に、演奏している中で、「ヘイデン」&「モチアン」のリズム陣二人は、アグレシッブでぶっ飛んだ演奏をしていて…この対比が、実に面白いですね。
一言で言えば、曲調は単純明快で、リズムは難解でフリーキーなんですよ。

8曲目「ノーマッズ」…およそ18分弱の演奏時間を要する、このアルバム随一の大作です。
序盤のソロは、ギターの「ブラウン」が引っ張る感じで、押し進めて行き、「キース」も諸所で、音を重ねて行きます。
その後、重厚で崇高なオルガン演奏が入り…
☆オルガンは誰が弾いているんだろう?結構気になるけど、資料が無いので分りません。
その後、リズム陣「ヘイデン」「モチアン」「モレイラ」は、至ってクールに、乾いた音色で、リズムを刻み続けて、それに合わせる様に「キース」もドライな感覚で、クール・ビューティなアドリブを次々に作って行きます。
ピアノの鍵盤、全部を使用した様な、流れる様なメロディ・ラインで、音を紡ぐ「キース」は、彼の真骨頂の演奏をしてくれます。
「キース」が休んでいる間も、リズム・セクションの3人は、一切の妥協をせず、不気味なほど淡々と分厚いリズムを刻む演奏は、まじで玄人好みです。
とにかく3人の演奏が、カッコイイんです。
終盤になって「ブラウン」が、ハードなギター・ソロを抽入して来て、更に曲をヒート・アップさせてくれます。
「ブラウン」って、こんなにハードなプレイヤーだったかな?と思う程、ギターがシャウトしていて…「キース」とのデュオ・バトルは、かなり迫力が有りますね。
フィニッシュになると、ホーン群も復活して来て、二人のラスト・バトルに花を副えます。
聴き応え充分な1曲です。

9曲目「サンダンス」…ロック調の8ビートリズムに合わせて、「キース」とホーン群、「ブラウン」が楽しげに、演奏を開始します。
「レッドマン」も的を射たフレーズで、演奏を色付けてくれます。
後半のアドリブ・パートで「ブラウン」と「レッドマン」が、激しいソロを展開してくれて…ぴりりと効いたスパイスの役目を果たします。

10曲目「ブリング・バック~」…ブルースorラグタイム?…いずれにせよ「キース」が、鼻歌交じりにソロ演奏を始めて、そこに「レッドマン」も聴き易いアドリブ・フレーズを重ねてきます。
「ヘイデン」「モチアン」は、ここでもアバンギャルド系の乾いた感覚のリズムを一心不乱に刻み続けます。
この二人…本物の職人で、何て頑固者なんだよ~!でも、そこが良いんです。
その後、曲もハードな展開に変わってきて、「キース」は、テーマの後には、またまた鼻歌を歌いながら、「キース」節全開で、アドリブ・パートを弾き続けます。
終盤で、「レッドマン」が、フリーキーなトーンで、思い切り暴れ捲るアドリブを演ります。
前半から打って変わって、ハード・ボイルドな名演に仕上がりました。

ラストの「ゼア・イズ・ア・ロード」…序奏は、前曲までのハードな演奏とは一転して、とてもロマンティックな「キース」のソロ演奏が心を和ませます。
ここで聴けるのは、正しく「ケルン・コンサート」や「ソロ・コンサート」で聴ける、癒し系「キース」です。
その後、「ブラウン」のギター演奏が加わりますが、この演奏も、とてもメロディックで…歌心をメインにしていて…とても歌謡的な1曲ですね。
ラストでは、ストリングスも入って…安らかな眠りに就くようなエンディングです。
この曲は、とにかく美しく、安らげます。

このヴォーカル・アルバムはすごい!屈指の名盤だ!…カサンドラ・ウィルソン~ニュー・ムーン・ドーター

2008-01-27 13:04:51 | ジャズ・ヴォーカル
この、アルバムは、ジャズ・ヴォーカル・アルバムの中でも、群を抜くクールさと、(器楽的な)ジャジーさが魅力です。
普通は、ジャズ・ヴォーカル・アルバムで、緊張感を覚える程、張り詰めた感覚って中々無いんだけど、このアルバムにはそれが有る。

異質かも知れないが、ジャズ・ヴォーカル・アルバム史上、屈指の名盤でしょう。

このアルバムでは、歌を歌う感覚ではなく、「カサンドラ・ウィルソン」の声が、正しく楽器と同化して…器楽セクションの一つとなっています。
しかし、歌い方は決して、器楽的では有りません。
むしろ、黒人ジャズ・ヴォーカリストらしく、声量、歌い回し、ヴィブラートの付け方など、第一級の歌唱をしています。

それから、私的には、このアルバムの編曲、雰囲気がすごく好きです。
一言で、カッコイイと言う言葉に尽きるんです。
インストを立たせたブルー・ノートの録音も、このアルバムのクールさを更に上げる原動力になっています。

アルバムタイトル…ニュー・ムーン・ドーター

パーソネル…カサンドラ・ウィルソン(vo)
      クレイグ・ストリート(pro)
      グラハム・ヘインズ(cor)
      ブランドン・ロス(g)
      ロニー・ブラキシコ(b)
      他

曲目…1.奇妙な果実、2.恋は盲目、3.ソロモン・サング、4.デス・レター、5.スカイラーク、6.ファインド・ヒム、7.泣きたいほどの淋しさだ、8.恋の終列車、9.アンティル、10.ア・リトル・ウォーム・デス、11.メンフィス、12.ハーヴェスト・ムーン、13.ムーン・リヴァー

1995年録音

原盤…BLUE NOTE  発売…東芝EMI
CD番号…TOCJ-5996

演奏について…まず、オープニング曲、「ビリー・ホリデイ」で有名な「奇妙な果実」が、スーパー・トップ・ヘヴィな名唱・名演で、いきなり度肝を抜かれる。
ベーシスト「ブラキシコ」の、野太いピッチカート奏法が、重厚な曲の礎を築き、
この曲のデュープな環境を的確に示してくれる。
所々で、「ヘインズ」が奏でるコルネットの、やや遠目から聴こえるサウンドが、黒人リンチ事件の不気味で哀れな雰囲気について語るアナウンサーの様だ。
そして、「カサンドラ・ウィルソン」の歌声は、どこまでも辛辣で、深い悲しみに満ちている。
叫ぶ様な怒りの絶唱ではなく、心の奥底に響いてくる、深い深い慈悲の、神への祈りの歌です。

2曲目「恋は盲目」…アコースティックの美しいサウンドに乗って、「カサンドラ」が、ここでも真に深い死の悲しみを表現した名唱を聴かせます。
ぼんやりとした音調で、この悲しさを色濃くしている、「ヘインズ」のコルネットが、ここでも一役かっています。

3曲目「ソロモン・ソング」は、「カサンドラ」の自作曲。
ジャズの曲とは思えない程、ゆとりや寛ぎ、そしてほのかな優しさに包まれた、癒し系の歌&楽曲。
分り易く、平たく言えば、「ユーミン」的なフォーク・ソングに近い感じがする。
楽器では、「ブランドン・ロス」のアコースティック・ギターの優しい調べが、「カサンドラ」の歌声と同化して、貴方の心に深く沁み込んで来ます。
しかし、全曲を彩る、アコースティック楽器群の編曲と、余す所なく録られた、録音が、より一層優しさを倍加させています。

4曲目「デス・レター」…死の知らせが書かれた手紙を受け取って、歌うブルーズ曲で、ここでの「カサンドラ」は、前3曲とは違って、ハードさと怒りの気持ちを込めた、迫力有る歌い方で押して行く。
バック陣のリズムとブルーズ演奏は、泥臭い中にも、かなり都会的なエッセンスを加味していて、あくまでも現代のブルーズで攻めています。

5曲目「スカイラーク」…とてもアンニュイな曲調で、曲が進行して、「カサンドラ」も気だるい雰囲気で、語りかける様に歌います。
スチール・ギター?が、ひばりを包み込む風の役目を表現していて…このひばりの行き着く先はどこなのか?
平和の世界なのでしょうか?

6曲目「ファインド・ヒム」…この曲もフォークソング、いや、あまり臭くない、カントリー&ウェスタンの感じの曲なんですが、しかし演奏&曲とは対照的に、情感タップリに「カサンドラ」が、素晴らしいヴォイスで歌ってくれます。
「カサンドラ」…やはり半端じゃなく歌は上手いねぇ。
バック陣では、「ロス」のギター演奏が聴かせてくれます。

7曲目「泣きたいほどの淋しさだ」…この歌も激しくディープできつい歌です。
「ハンク・ウィリアムス」が作曲した、ずばり…絶望の歌なんです。
しかし「カサンドラ」は、割と淡々と歌い上げて行き、演奏もヴァイオリン、ギターがメロディ・ラインを弾いて…比較的ライトに仕上げてくれてます。
あまりに悲しい歌なので、あえてそれ以上悲しみにくれない様に、軽めにしてくれたのかぁ?

8曲目「恋の終列車」は、皆が良く知る「ザ・モンキーズ」の歌った有名曲。
勿論、ここではジャズ曲として「カサンドラ」が歌い、仕上げているだけに、原曲のポップスとは一転して、全く違う雰囲気の曲になっています。
「カサンドラ」は、低音域をメインに歌っており、ドラムスとギターも低音重視に重厚的な編曲と演奏をしていて、重々しいと言うよりは、軽くない演奏曲にしているんです。
ここで歌われているのは、正しくジャズです。
決してポップスでは有りませんよ。

9曲目の「アンティル」は、「カサンドラ」自作曲で、アコーデオンがメイン伴奏をするセンスが、とてもgoodだと思います。
「カサンドラ」の実直で真摯な、そして上手いヴォーカルが、このパリジャン風のアコーデオンと、リズムを司るパーカションとのコンビネーションにマッチしていて、とにかくハイセンスで○ですね。
大人二人の愛を見つめる、好トラックです。

10曲目「ア・リトル・ウォーム・デス」は、題名通り、死についての歌なんですが、曲調がとても明るいんです。
演奏的には、ヴァイオリンをメインに押し立てて、明るく振舞うジプシーのイメージなんでしょうか?
曲調はメジャーだけど…このアコースティックな響きによって、演奏と歌が全然ライトじゃないんです。
「カサンドラ」の意図する物は…いたって「モーツァルト」的なのかもしれないですね。
メジャー曲に認めれた、心の奥底に眠る悲しさなんでしょう。

11曲目「メンフィス」も「カサンドラ」の自作曲です。
この曲は、アルバム中では最もロック&ポップよりの演奏・編曲がなされていて、ソウルフルなオルガンや、指パッチン、ギターなどが、「カサンドラ」の歌声に装飾を付けてくれます。

12曲目「ハーヴェスト・ムーン」…「ニール・ヤング」が書いたラヴ・バラード。
ここでの「カサンドラ」は、鳥のさえずりをバックに、朝日溢るる高原で気持ち良く、しっとりとバラードを歌い上げます。
サイドで爪弾く、バンジョーいや、シタール?(エキゾティックな弦楽器)が、より深く幻想的な効果を生んで、「カサンドラ」の名唱をサポートしてくれます。

日本盤のみのボーナス・トラックであるラスト曲の「ムーン・リヴァー」ですが、この曲もアルバムのコンセプトを全く損なわないばかりか、上位に位置できる出来栄えです。
ゆったりとして、ややハスキー・ヴォイスの「カサンドラ」のヴォーカルが、原曲の映画音楽から、この曲を完全にジャズ・ヴォーカル曲に、ステージ移行させています。
ここでも、シタール?か、東洋的でエキゾティックな弦楽器が、バックでソロを取るんですが、イリュージョンを思わせる程、不思議な気持ちにさせてくれて…「カサンドラ」のヴォーカルとの融合が最高です。